8
博斗はマイクムーと対峙した。
レッド、イエロー、ブルー、グリーンの四人は電気ショックで気絶している。
博斗がカラオケに挑むことは危険である。生身で電気ショックを受ければ即死だ。
もはや、博斗達には打つ手がない。死ぬ覚悟で博斗自らマイクを握るか、それとも降伏を選ぶか、どちらかの道しかないのだ。
そんな博斗の前に、黒い影が現われた。
ブラックだ。
このカラオケ合戦において、博斗の意識からまったく欠如していたブラックが、博斗の前に進み出たのだ。
「キャップ。私が歌います」
「君が? まさか」
博斗は耳を疑った。
めったに喋りすらしないブラックが、すすんで歌を歌うなど、信じられないことである。
「私は、歌えないのではありません。『歌わない』だけです」
ブラックはそれだけ言うと、マイクムーに近づいた。
「マイクを」
ブラックは受け取ったマイクを構えた。静かなイントロが流れ始める。
博斗は、唾を飲み込んだ。すべて、彼女にかかっている。
ブラックの歌声は、繊細で、かつ力強い芯の通った声であった。
甲高くもなく、低くもなく、そして声量も豊かで、とてもあのブラックの声とは思えぬ神秘的な美しさである。
博斗は、その歌声に、心洗われるように感じた。
人間は、こんなに素晴らしい音を出す事ができるのかと、いまさらのように博斗は感嘆した。
美しい歌声は、どんなへたくそな言葉よりも、歌い手の心を映し出す。ブラックの心は、誰にも劣らず美しいのだろう。
やがて、曲が終わりを告げた。
拍手を送ったのは博斗とマイクムーの二人であった。
いままでの誰よりも、拍手は鳴り続けた。
マイクムーは、感涙をボロボロと流しながら、胸のボタンを押した。
「くっ、俺ぁよお、しがない怪人だけどよぉ。もう思い残すこたぁねぇよぉ。うっうっ」
デジタル数字が止まった。
三桁ある。
100点だ。
「は、ははは。やったな、ブラック」
「私は、自分のするべきことをしただけです」
と、ブラックは相変わらずつれない態度である。
「すまねえな、ピラコチャ。俺の負けだ」
それだけ言うと、マイクムーはステージから飛び、空中で爆発した。
「…せっかくいい作戦だったのによ。ホルスの野郎、もうちっとマシな怪人作りやがれってんだ」
ピラコチャは爆炎とともに姿を消した。
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