博斗はマイクムーと対峙した。


レッド、イエロー、ブルー、グリーンの四人は電気ショックで気絶している。


博斗がカラオケに挑むことは危険である。生身で電気ショックを受ければ即死だ。

もはや、博斗達には打つ手がない。死ぬ覚悟で博斗自らマイクを握るか、それとも降伏を選ぶか、どちらかの道しかないのだ。


そんな博斗の前に、黒い影が現われた。

ブラックだ。

このカラオケ合戦において、博斗の意識からまったく欠如していたブラックが、博斗の前に進み出たのだ。


「キャップ。私が歌います」

「君が? まさか」

博斗は耳を疑った。

めったに喋りすらしないブラックが、すすんで歌を歌うなど、信じられないことである。


「私は、歌えないのではありません。『歌わない』だけです」

ブラックはそれだけ言うと、マイクムーに近づいた。

「マイクを」


ブラックは受け取ったマイクを構えた。静かなイントロが流れ始める。

博斗は、唾を飲み込んだ。すべて、彼女にかかっている。


ブラックの歌声は、繊細で、かつ力強い芯の通った声であった。

甲高くもなく、低くもなく、そして声量も豊かで、とてもあのブラックの声とは思えぬ神秘的な美しさである。


博斗は、その歌声に、心洗われるように感じた。

人間は、こんなに素晴らしい音を出す事ができるのかと、いまさらのように博斗は感嘆した。


美しい歌声は、どんなへたくそな言葉よりも、歌い手の心を映し出す。ブラックの心は、誰にも劣らず美しいのだろう。


やがて、曲が終わりを告げた。


拍手を送ったのは博斗とマイクムーの二人であった。

いままでの誰よりも、拍手は鳴り続けた。


マイクムーは、感涙をボロボロと流しながら、胸のボタンを押した。

「くっ、俺ぁよお、しがない怪人だけどよぉ。もう思い残すこたぁねぇよぉ。うっうっ」


デジタル数字が止まった。


三桁ある。

100点だ。


「は、ははは。やったな、ブラック」

「私は、自分のするべきことをしただけです」

と、ブラックは相変わらずつれない態度である。


「すまねえな、ピラコチャ。俺の負けだ」

それだけ言うと、マイクムーはステージから飛び、空中で爆発した。


「…せっかくいい作戦だったのによ。ホルスの野郎、もうちっとマシな怪人作りやがれってんだ」

ピラコチャは爆炎とともに姿を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る