5
何かの砕け散る激しい音がした。
体育館の壁が、一部ぽっかりと口を開いた。
もうもうと土埃があがるなかに、博斗の見覚えのある姿が見つかった。あのムーの巨漢だ。
隣に巨大なマイクが見える。新手の怪人だろうか。
ピラコチャは、隣の怪人から小さなマイクを渡されると、耳障りなハウリングを起こしながら叫んだ。
「スクールファイブはどこだ! 相手をしやがれ!」
博斗は舌打ちをした。
「このクソ忙しいときに! いくぞ、みんな! 変…」
「待ってください!」
とひかりの声。
「なんだ、ひかりさん?」
「駄目です。…生徒たちの目があります」
博斗はうめいた。
「どうします?」
「どうしますって言われたって…」
ピラコチャと怪人がゆっくり進み始めた。
「スクールファイブ! 出てこないなら、こいつらを料理してやる! やれ、マイクムー!」
「よっしゃ! ハウリング音波!」
マイク怪人は、壮絶なるハウリング音を発した。
「きゃあああ!」
「いゃああああっ!」
体育館が悲鳴に包まれる。生身の遥達も耳を抑え、床にへたりこんだ。
「このままじゃ、やられるぞ! 何か、いい手はないのか!」
桜が博斗ににじり寄った。
「ぼ、僕に考えがあるんだけど…」
博斗は即決した。猶予はない!
「それで決め! どうすればいい?」
「ここはこのままで、僕たちだけ外に逃げる!」
言うなり、桜はステージ袖から、体育館の外に飛び出した。
「あ、おい! 桜君!」
博斗は止めようとしたが、とっくに桜は表に飛び出している。
「ここは桜を信じるわ! きっと何か、考えがあるのね? キャップ、いきましょう!」
「わかった」
博斗達は体育館を飛び出した。
「桜君っ! どうするんだ?」
桜はブレザーのポケットから、小さな銃を取り出した。反対側のポケットからは、小さなカートリッジを。
「こんなこともあろうかと…開発しておいた…新兵器があるんだ」
桜は言いながら、カートリッジを銃にセットした。
「桜様発明の携帯万能銃、マルス133MMX」
桜は小型銃を目の前にかざした。
「カートリッジを代えることで、色々な効果を発揮できるのさ」
桜は銃の照準を、体育館の天井近くにあるガラス窓に向けた。
「あら? そんなところを狙っても怪人には当たらないのではありませんですか?」
「もちろん。これには怪人を倒せるようなパワーはない。いま入ってるカートリッジは、催眠カートリッジなんだ」
博斗はその言葉に目をむいた。
「ま、待った! 桜…」
時すでに遅し。
桜は引き金をひき、放たれたカートリッジは見事ガラスを突き破って体育館に飛び込んだ。
生徒達の悲鳴がぴたりと消えた。
「さ、生徒はみんな寝ちゃったから。いまのうちに体育館に戻って変身しよう」
桜はてくてくと体育館に戻り始めた。
意気揚々と四人が続く。
博斗は、ちょっとだけこの作戦に後悔した。
…これでは、どっちが悪かよくわからん。
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