それでも博斗は、時計が一時ちょうどを指していることを確かめ、生徒会室に向かった。


生徒会室は、部室棟の一階にある。大きさは一般教室と同じ。そこをたった五人足らずが使うのだから贅沢なものである。だがいまの博斗には、生徒会がそれだけの贅沢を許されている理由がわかっている。


博斗はノブをまわして、生徒会室に入った。博斗が入った瞬間、中にいた人間達はすべて、動きを止めて博斗を見た。

博斗は素早く部屋を眺め回した。七人いる。生徒が五人、これは役員達だ。そしてひかり、理事長。役者は揃っているというわけだ。


博斗の眼前には、待ち構えていたかのように、一人の生徒が立っていた。肩口までのストレートパーマ、眉毛が太く、意志が強そうである。

「え、えー、君は、確か、中津川君だったね…」

「きゃー、きゃー、先生、あたしの名前覚えててくれたんですね! でもどうせだったら、遥って呼んでくださいっ!」


「お待ちなさい! 抜け駆けは許しませんわ」

と部屋の奥から鋭い声が響いた。

ゆっくりと立ち上がる人影。黄金のように輝く金髪は、肩口でカールして巻き毛になっている。ツンと澄ましたその表情といい、豪徳寺翠に決まってる。博斗の目は顔を素通りしてその胸にひきつけられた。冬服を介してもはっきりとわかるその盛り上がり。88のEと博斗は目算した。うひひひ。


「先生、あんな貧乏人の言うことは無視したほうがよろしいですわよ」

「何よ! 貧乏は青春に不可欠の要素なのよ!」

「おーーーーーっほっ、ほっ、ほっ。古い古い。青春はもっと優雅に楽しむものよ、ねえ、みなさん?」


「ま、それも一理はあるね」

と返事を返したのは、特徴のあるボブカットにぐりぐり眼鏡、佐倉桜。


「…」

漆黒のポニーテールに美しい流し目、烏丸由布は何も答えない。やはり陰がある。


「あはははははっ」

さっぱりしたショートカットの豊岡燕が、突然不気味な笑い声を出し、その頭を桜がハリセンで容赦なくしばいた。

「あーん、いったーいっ!」

「燕、また会議前に漫画読んで! 僕も我慢してるんだから、駄目なものは駄目!」


「はいはい、そのへんにしておきなさい」

と、ひかりが手を叩くと各自が席に戻る。

…幼稚園じゃないんだからと博斗はため息をついた。

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