「はい?」

何回目になるだろう、博斗は間抜けに聞き返していた。


「かつてムーとたたかった五人の戦士達のコスチュームと武器があるのだ。だがその戦士達の念がこもっているらしくてな、志が高く、若いみずみずしい力でなければ着用ができんのだよ。それで、彼女たちに戦ってもらおうと思っているんだ」

「私も秘書として協力いたします」

「あーあー、やめやめ、そんなのいやですって。だいたい、信じられません。それらしい証拠でもはっきり示してくださいよ」

「証拠か。…酒々井君、司令室だ」

「はい」

「司令室?」


ふたたびカチリと音がし、博斗の真後ろの壁がぐるりと回転した。新たにこちらがわに出た壁は、一面にコンピューターが埋め込まれ、さながら軍隊の司令部のような様相を呈している。

「こ、これは…?」

「冗談などではないと、信じてもらえるかね。…これだけの設備にどれほどの財力と労力が必要か、想像がつくだろう?」

博斗は静かにたたずむ機械を眺め回した。はりぼてや、にせものではない。間違いなく、現代科学の粋が、ここに集まっていた。


博斗の横にひかりが歩み寄った。

「この設備は、学園のあらゆる場所を網羅し、また、陽光市のほとんどの地域もカバーしています。いつどこでどんな事件が発生したか、どの程度の被害か、海からの攻撃か、山からの攻撃か、地中からの攻撃か、すべてが一瞬で探知できます」


「攻撃ってなんですか、攻撃ってのは?」

「ムーの攻撃です。…ムーは復活しました。おそらく、現存する力のすべてを注いでこの学園を攻撃してくるでしょう」


「なんだって日本の一地方都市のおまけに一女子校が狙われなきゃいけないんです? ホワイトハウスとか、国会議事堂とか、もっと狙うべき場所があるでしょぉ?」


「それは、私が秘匿しているもののためだ。パンドラキーという、一種のICカードのようなものだ。このキーが私の手にあるかぎり、ムーの超エネルギーは停止している。…ムーの恐怖の源はそのエネルギーだ。ひとたびエネルギーを取り戻せば、ムーは一瞬で全世界を灰にし、火星を消し飛ばすことさえできるだけの兵器を眠らせているのだ」


「そんなら、なんだってパンドラキーをさっさと破壊するなり何なりしないんです?」

「万が一、ムーのエネルギーが暴走でもしたときに、パンドラキーがなければそれを止める手だてはない。パンドラキーは、ムーがもっていてはならないが、しかし決して破壊してもならないものなのだよ」


「んじゃあ、自衛隊とか、アメリカ海軍とかに頼んで、さっさとムーを破壊すればいいじゃないですか」

「君が、我々の言うことを信じなかった以上に、自衛隊や政府は我々の言うことを信じないだろうね」


「じゃあ、どうすりゃいいんですっ?」

「そこで、君たちの出番なのだよ。君は、表向き生徒会顧問として、生徒会役員達の指導にあたってもらう。そしてムーの攻撃があった際には、行動隊長として、生徒会役員達の戦闘の指揮をとってもらう。そして、生徒会役員の彼女たちに使命を伝え、説得すること、それも君の任務だ」


「せ、説得? そんなむちゃですよ、俺自身まだ信じてもいないのに」

「私も御手伝いしますから、ね、博斗先生?」


「い、いや、ひかりさんにそう言われると~」

勝負は一瞬でついた。勝利をおさめたのはもちろん煩悩だった。


「瀬谷博斗、生徒会顧問兼行動隊長の任に就かせていただきます!」


勢いよく叫ぶ博斗は、後ろでひかりがしっかりVサインを決めていることなど知る由もなかった。

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