「それでは、瀬谷君も承諾してくれたことだし、少々突っ込んだ話をするとしよう。そのままそこに腰掛けていたまえ」


と、理事長の机からカチリと何かが外れるような音がしたかと思うと、不意に、博斗は体が沈みこむのを感じた。


見る見る博斗は沈んでいき、ついに視線が床を越え、地下の暗闇へと入ってしまった。

これは、豪勢なソファのレベルを超えていると呑気に思っているうちに、不意に眼前が明るくなった。


だだっぴろいホールだった。

博斗は、乗っていたソファからふらふらと立ち上がると、あたりを見渡した。

「なんですこれは? うちの学校にこんな地下室があったんですか?」


「順を追って説明しよう。瀬谷君は世界史の担当だったね」

「はあ。それが何か?」

「ムー文明のことを聞いたことがあるかね?」

「ムー? チャーチワードが提唱した奴でしょう? 有史以前の超古代文明で、一夜にして太平洋に沈んだという…」


「君は、ムーの存在を信じるかね?」

「は? なんです、いきなり。俺は生徒会の説明をされるんじゃなかったんですか?」

「この話も、すべて関係あるんだよ。…ムーを信じるかね?」


「…信じないといえば嘘になります」

「ほう、というと?」

「太平洋にかつて巨大な大陸が存在したこと、これは地質学的に否定されています。しかし、それで太平洋にかつて文明が存在しなかったことを証明したことにはなりません」

「ほうほう」


「逆に、環太平洋圏に、かつてなんらかの共通した文化圏があったと仮定したほうが説明がつきやすい事が多くあります」

「たとえば?」

「たとえば、巨大な岩を用いた建造物です。イースター島のモアイ、ポナペ島のナンマドゥール、与那国島の海底遺跡、奈良の石舞台古墳、テオティワカンの太陽のピラミッド、ペルーのマチュピチュなど、例を挙げればきりがありません。いずれも、現代の科学技術をもってさえ再現に困難を極めるほどの高度な技術によって構成されています」


「しかしそれだけでは共通した文化の証拠としては弱いと思うがね」

「ペトログリフという、文字と思われる記号があるのですが、日本とペルーなど、有史上ではまったく交流のなかった文化圏同士で、きわめて類似したものが発見されています。また、民俗学的にも、酷似した神話があったり、風習にも似たものが多いなど、別の文化圏であると考えるほうが不自然なのです」


「ふむ、だいたいわかった。ずいぶんと熱弁だったな。おそらく、君のなかに流れるムー人の血が、そうさせるのだろうね」

「へ?」


理事長は不意に博斗の肩をつかんだ。

「ムーは実在した。いまより一万年以上の昔、現実に存在し、全世界を支配した海底帝国だったのだよ」

「な、なにを言ってるんです?」

「そしてムーはいまも存在する。いまや蘇らんとしているのだ」


「博斗先生、理事長が言っていることは、すべて真実です。冗談でもなんでもありません」

「ひかりさんまで、何を?」

「瀬谷博斗君。君にも、私にも、酒々井君にも、そしてこの学園のすべての者達に、ムー人の血が流れているのだ」

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