異世界でチートを使いまくったら……宇宙に!?
きたひろ
チート能力で成り上がり続けたその先に
「…………」
ふと気がつくと青い空の下にいた。そして目の前には老人が一人いる。
「すまない。誤って君を死なせてしまったようだ」
「そうか」
「……それだけ?」
「そうだな」
「ま、まあそなたがそれでいいのであれば……しかし、こちらに明らかな失態があるのでお詫びしたい。ただ元の世界への復活は無理なんだ。だから別の世界に転生してもらう。そして、お詫びとして君にすべての事象を書き換える力を与えよう」
「そうなのか」
「この能力はそなたが願えば全て叶う。そういう能力だ。好きに使うといい」
「わかった」
「では異世界へ送ろう」
「そうか」
次の瞬間、俺はのどかな田舎道の上に立っていた。どうやら転生でこの地に送られてきたようだった。見た感じ、まさにファンタジーといった景色で、木と森と川と草原と、木で出来た建物が点在している。
「助けてー!」
ここで唐突に叫び声が聞こえて、女――少女が俺の胸元に飛び込んできた。
「追われているんです!」
「そうなのか」
「盗賊です! 助けてください!」
「わかった」
ここに数十人の盗賊が現れた。古臭い作業着みたいなのを着込んだいかにも野蛮な連中である。
その盗賊の中で一番大柄の男が俺の方に向かってきた。
「おう、兄ちゃんよ。その娘を渡してくれないか? そいつは俺達にとってはとんでもないお宝なんだ。あっさり引き渡してくれるならこのままお前はみなかったことにする。どうだ?」
「そうなのか?」
俺はちらっと女の方を見る。俺にくっついたまま小さく震え。恐怖で引きつった顔をしていた。
「そいつらは私――この国の王女の私を誘拐して身代金を奪おうとしています! お願い、助けて!」
「そうなのか?」
俺が盗賊のボスに問いかけると、大きく顔を近づけてきて、
「おう、そうだよ。だから一緒にボコられたくなかったらさっさと里に帰りな」
後ろにいた盗賊たちがギャハハハと笑っていた。
俺は少し考えてから、
「わかった」
そう答えた。次の瞬間、盗賊たちが何の前触れもなく消えてしまった。
背中にいた王女はあたりを見回して、
「あ、あの、あなたが私の命を救ってくださったんですか!?」
「そうだな」
「ありがとうございます! 私はこの国を治める王女です。ぜひとも貴方様のような強い人にお礼がしたいので城に行っていただきたいのですが」
「わかった」
俺達は歩いて城へと向かったが、距離が遠かったので王女を抱きかかえて大きく空を飛んで城の門にまでたどり着いた。
王女はおどろいていたせいでしばらく目を回していたが、
「このような力をお持ちとは……もう一つ私のわがままを聞いてくれませんか?」
「わかった」
王女に連れられて王宮に入り、最上階の王室に行く。そこでは老人がベッドに横たわっていた。もはや死期が近いとはっきりわかるほど衰弱している。
「父親です。この国の王でもあります。大病を患い、残り数日の命と医者の方から言われています」
「そうか」
「不躾な申し出だとわかっていますが、父の命を救ってもらえないでしょうか? 私はまだ未熟で父からもっと教わりたいことがたくさんあって……」
「わかった」
国王の病をすべて治し肉体の衰弱も30歳ほど若返らる。
ベッドからすぐに国王は起き上がり、辺りをキョロキョロと見回す。
「こっこれは一体なにが!?」
「お父様!」
王女が涙を浮かべながら王様に抱きつく。
「この方がお父様を治してくれたのです。もう心配はありません」
「なんと! もはや意識もまともにはっきりせず、立ってあることなど二度とないと覚悟していたのに……!」
国王はベッドから立ち上がると歩いていく。病気については全く感じない健康体だ。
「どうやら本当のようですね。ありとうございますありがとうございます!」
「私からもお礼を申し上げます」
「そうか」
二人からの礼に俺はそれだけで答えた。
ここで王様が手を叩き、
「この先予定はあるのですか? ないようであれば、ぜひ私の娘と結婚していただきたく思います。そして、この国の王として王座に座っていただきたい。当然、私と私の娘も協力します」
「お父様! よろしいのですか!?」
「構わない。傷は癒えたとはいえ、国の立て直しもままならず、国を疲弊させた愚かな王よりも、このような奇跡を起こせる方に任せたい。もちろん、私達も力及ばずながら協力をしたいと考えています」
「わかった」
「おお! では早速結婚式と戴冠式の準備をさせましょう!」
数日後、俺は王女と結婚し、この国の全権を握る王になった。
それから一ヶ月後、
「国王大変です! 隣国の帝国軍がわが領土に侵攻を開始しました」
「なんと! あの国とは幾度となく戦争を行ってきましたが、なぜこのタイミングに……」
伝令からの報告に頭を抱えている元国王。
これに隣りにいた軍の総司令官が、
「戦いましょう! こちらには神に等しい存在がおります! この方の力を使えば確実に敵を殲滅し、我が国に平和をもたらします!」
「そうなのか?」
そう王女に尋ねると首を振り、
「駄目です。殺し殺されでは永久に戦いが終わりません。ここは和平を結ぶべきです!」
「手ぬるいですな! 敵が存在する以上、倒さなければ我が国民は守れませんぞ! 抵抗するものは全て殲滅し、そうでないものを我が国の名の下で管理支配するこそが平和をもたらすのです」
総司令官の言葉に、王女は顔を手で覆い、
「なぜこのようなことが起きてしまうのでしょう……もっと世界の人々に優しさが満ちていたのならこのような争いはすべてなくなるのに……!」
「わかった」
「え?」
王女がキョトンとするのを放っておいて、この世界の人間全てに他人を思いやる優しさと慈悲を与えた。
すると総司令官が突然ひざまずいて、
「私は一体何という愚かなことを考えていたのか……相手を殺し支配することが全てなど恥すべきこと! 国王陛下申し訳ありません! 今すぐ敵と和平を結ぶべきです!」
「これがこの方の力……!」
王女は恍惚な表情で俺を見ていた。数日後、攻め込んでこようとしていた敵国も和解に応じ、両国は戦争を回避した。それどころか、もはや争いなどは起きないとし、全ての国境を廃止して一つの国になった。
それから数日後。国王と王女が話し合いをしていた。
「今では周辺の国が次々と国境を廃止して一つの国になろうとしています。しかし、中には貧困と飢餓が蔓延している国もあり、食料や職を求めて隣国に移住してトラブルが起きています」
「教育水準の格差もあるな。農業や畜産といった技術力も差が大きい。これを一から全て教育していくのには数十年の時間が――」
「わかった」
『え?』
国王と王女がキョトンとしている間にこの世界に住んでいる全ての人間の知識や技術を統一した。さらに不毛な土地を全て栄養に満ち溢れたものへ変え、すぐに農業を始められるようにした。
知識と技術を得た人々は進んで農作地を開拓し、またたくまに貧困飢餓の問題が解決した。
「さすがです神様!」
王女はすっかり俺のことを神と呼んでいた。
しばらくしてから俺と王女は人々の様子を見に外に出た。街はモノで溢れかえり、そこら中の土地は農地へと変わり、たくさん作物が収穫されている。
人々に与えた優しさのおかげで犯罪などは全く起きず、平和に暮らしていた。
「まさしくこの世界は理想郷ですわ」
「そうか」
そんな事を話しながら歩いていると、一人の少年が泣き叫んでいた。その足元にはかなりの高齢の老人が横たわっている。
「どうかしましたか」
「じいちゃんが……もう死んじゃうって……家族のみんなは仕方ないって……こんなの嫌だよ……」
どうやら寿命を迎えているらしい。王女は鎮痛な顔で、
「人間の宿命ですね。死からは逃れられない。歳を取ればいずれ命を落とす。すべての人間の命が続けばいいのですが……」
「わかった」
「え?」
俺はこの世界の人間はある一定以上成長した後で決して老化しないようにした。これで永遠の命を得られたことになる。
倒れて横たわっていた老人はみるみると若さを取り戻し、少年と抱き合った。
「ありがとうございます!」
「お兄さんありがとう!」
二人は俺に感謝し続けた。これに王女は感涙の涙を流しながら祝福をする。
「さすがです神様っ!」
その次に病院へと向かった。ここにはたくさんの怪我をした人達がいる。事故で指や腕、足を失った人たち、内臓などの疾患で寝たきりの治療をしている人たちがたくさんいる。
王女は俺の前にひざまずき、
「神様。どうかこういった怪我や病気がなくなる世界にしていただけないでしょうか。もしこれらが根絶されればすべての人達の幸福度は格段に上がります」
「わかった」
俺はこの世界から人間に害をなす病原菌だけを全て消し去り、更にまた新しい病原菌が生まれないようにした。
さらに病気と言っても飢餓によるものもあったので、この世界の人間は食事を取らなくても生きていけるようにした。
また事故などでの怪我を防げるように世界にいる人間たちの身体を強化した。高さ1kmから落ちても負傷することはなくなった。
これによって病院は不要になるはずだ。
「さすがです、神様! これで世界は救われます!」
「そうなのか」
「はい!」
10年後。格差、飢餓、貧困、病気は全てなくなった。さらに教育による格差を完全になくすため生まれたのと同時に均等な知識と技術を持つようにした。
すでに人類は食べることを必要としなくなったので生産する必要がない時代を迎えていた。
しかし、問題が起きた。国王の玉座に座ってぼーっとしていたところに元国王――現在の大臣がやってきた。
「我が偉大なる神様。人類がまた一つの起きてしまいました」
「そうなのか?」
「はい。人々はすでに永遠の命を授かり、この平和で満たされた世界を満喫しております。しかし、人は人。恋をし夫婦となり子供を作ることは止められません。そのため、人口が凄まじい勢いで増えています。もはや人類は食べ物を口にせず生きていくことができますが、住む場所は必要です。このままではやがてこの星が人によって埋め尽くされてしまうでしょう。この問題をどうにか解決しなくてはならなくなり――」
「わかった」
俺は即座に宇宙移民船団を作り出した。城の近くの平原上空に超巨大な宇宙艦隊を浮かばせる。
それをみた元国王は驚愕し、
「さすがです神様! これで星の海に行き、新たな土地を開拓するということですね! では、即座に行きましょう!」
「そうか」
俺達はすぐに多数の移民希望者を移民船団に乗せて、地球から出発した。
その際に王女――俺の妻はこの星になにかあったときの連絡係として残したので、
「神様! 帰りをお待ちしてます!」
そう手を振っていたので、こちらも振り返しておいた。
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新たな惑星を探すために地球を飛び出してから5年後。銀河の間を移民船団が突き進んでいく。
俺の座っている玉座の近くには総司令官が立っている。
「いやはや信じられませんな。十数年前には槍と盾を持って隣国と醜い争いを続けていただけの私が、今では星の海を旅することになるとは」
「そうなのか?」
「はい。当時の私はあまりにも愚かでした。他人を恐れ、敵だとみなせば殺してしまえばいい……そういった妄執にとらわれていました。しかし、神様と出会ってから私は真実に目覚めました。他人と共存し生きる。たったこれだけのことを理解できなかった私を救ってくださったのは神様です。いくら感謝をしてもしきれません」
「そうか」
そんな話をしていると突然警報音が鳴り響いた。総司令官がレーダーを確認しつつ、
「どうした!?」
「未確認飛行物体多数を検知しました! あらゆるデータから判断して人工物です! 数は……数千! こちらに向かってきています!」
その報告に総司令官は頷いて、
「ついに来たか……。我々とは違う文明を持つ知的生命体との接触が……」
その時だった。何かのノイズのようなものが艦内に響き渡る。
総司令官がキョロキョロと辺りを見回し、
「これは……なんだ!?」
「不明です! しかし、電波らしきものがあの未確認飛行物体から放たれているのは確認しました! こちらに話しかけてきている可能性があります!」
「ぐぬぬぬ……文明が違えば当然言葉も通じないか。神様! どうか私達にあの者たちと話をさせてください!」
「わかった」
俺は目の前の宇宙人たちの言葉を人類全てが理解できるようにした。同時に宇宙人にもこちらの言葉が理解できるようにした。
総司令官は手をたたき、
「さすがです神様! さあ未知なる者たちよ! 我々の声が聞こえるはずだ! 答えてくれ! 我々はそちらと話がしたい! 戦う意図はない!」
『こ、これはなんだ!? なぜおまえたちの言葉を我々は理解できているんだ!?」
突然意思疎通ができるようになって宇宙人たちは混乱しているらしい。総司令官が声を荒げて、
「落ち着け! こちらにはあらゆる奇跡を引き起こす神に等しき存在がいる! お前たちと話をするために、この神様が我々とお前たちの間で意思疎通ができるようにしてくださったのだ!」
『全ての奇跡を引き起こすだと!? なんだそれは……! お前らは危険だ! 我々の領域に入らせることはできない! ここで全て殲滅する!』
宇宙人の艦隊から猛烈なビームみたいな攻撃が始まった。総司令官は歯を食いしばり、
「何という愚かな……あれは神様と出会う前の私と同じ! 神様どうかあの者たちに救いを!」
「わかった」
俺は宇宙人にも他人を思いやる心と、平等な知識と技術を与えた。すると宇宙人たちは攻撃をやめ、
『……我々は間違っていた。愚かにもあなた達を攻撃してしまったことを謝罪したい』
「構わない。かつての私もそうだった。しかし、今神様によって救われたのだ。さあ話をしよう」
こうして総司令官と宇宙人の話が始まり、この一帯の地球型惑星への地球移民の合意に至った。宇宙人には地球人と全く同じ不死であり健康ですべての知識と技術を持つようにした。
まだ人が住めるような環境ではない星ばかりだったので、全て地球と同じ環境へと変えておいた。
「さすがです神様……! これで全ての人類――いえ、この宇宙に住む全ての生命が救われるでしょう!」
こうして、地球で溢れかえった人々は次々へと新しい惑星へ移住を開始した。
その後もたくさんの宇宙人勢力が現れたので、全て地球人と同じ存在にしておいた。
「素晴らしい! これで神様は地球だけではなく宇宙を救われたのです」
「そうか」
総司令官が感涙して叫ぶ。
それから数十年後。俺は地球に戻ってくた。
「おかえりなさい神様!」
「そうか」
そう言って俺の妻が出迎えてくれた。その見た目は出会ったときから何一つ変わっていなかった。
もはや地球は数多くある人類の星のひとつになり、宇宙移民により人口が減り、のどかで落ち着いた環境になっていた。
俺が玉座に座ってボーっとしていると、隣で妻がボーッとしていることに気がついた。その視線に気がついたのか妻はにっこりと笑顔で、
「いえ、ちょっとなにもすることがなくなったのでぼーっとしていただけです。最近多いんですよね。こうやってぼーっとしていることが」
「そうか」
「いえ、心配する必要はありません。我々は病気や怪我、寿命といった人類が超えられなかった壁を超えた存在なのです。そうなればやることがなくなる時間がどうしてもできてしまうだけですよ」
妻の話を聞いてから、それは外の様子を伺ってみる。
朝になると沢山の人が外に出てきて、公園や路地に立ち、ただぼーっとしているだけ。そんな光景が世界中で広がっているのを感じ取った。
妻もその光景を見て、
「どうしても人間の身体ではすぐにやれることに限界があります。その限界を理解してやれることがなにもないとわかった後はただぼーっとして時間が過ぎ去るのを待っているだけですね」
「わかった」
「え?」
俺は全人類――宇宙も含めて――の知的生命体から身体を捨てて意識だけで生きられるようにした。移動も身体を使わずに空中を意識だけで飛べるようにし、1分で世界中のあらゆるところに移動できるようにした。
これに妻は歓喜して、
「なんということでしょう! これで歩く走るといった行為も不要となり、私達人類もやれることが増えます! さすが神様です!」
これで人類は移動という問題もなくなった。世界――宇宙のあらゆる場所に一瞬で移動できる。
そうして、人類から人の形が消えた数十年後。
元国王の意識が俺のそばにやってきた。
「神様。どうやら我々人類は最後にして究極の奇跡を願う日がやってきたようです」
「そうなのか?」
「もはや地球や宇宙に住む人類は他人ではなく自分なのです。全て同じ知識、考え、性格、能力、技術、体力――我々は皆同じものをもっているのです。私が考えていることも全人類が全く同じことを考えるでしょう。もはや個体である意味がなくなりつつあるのです」
そして、元国王は俺の前でひざまずき、
「神様にお願いします。全ての人類を一つにしてください。これは今の人類全てが考えていることです」
「……わかった」
俺は意識だけになっていた人間を全て一つにした。その範囲は地球だけではなく全ての宇宙生命体に実施し、巨大な――あまりにも巨大な精神体が出来上がった。
その時俺も身体を失い、その巨大な精神体に一つになった。
その巨大な精神体はすべての知識を持ち、全ての技術を持ち、全ての体力を持ち、全ての能力をもっている全知全能の存在。まさに神というものだった。
そして、その巨大な精神体はさらに膨張を続けていく。
数億年経った後にその巨大な精神体はこう呼ばれることになる。
宇宙……と。
そして、その宇宙の中にちょっとした――本当にちょっとしたゆらぎが生まれた。
その後、そのゆらぎはこう言われることになる。
新しい生物の誕生――そして新しい可能性が生まれた瞬間だと。
~完~
異世界でチートを使いまくったら……宇宙に!? きたひろ @kitahiroshin
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