第6話
「……へ?」
予想外だった。私はてっきり家族のケンカだと思っていた。
「妊娠……?」
その単語に、私は固まってしまった。
「そう。赤ちゃん、できたの」
固まる私を見ながら、ルミカは言った。掛け布団の下で、手を自身の腹部に添えながら。
「さっき、高校で彼氏ができたって言ったでしょ? その人との、赤ちゃん」
「あ……そっか!」
私は少し安心して、言葉を続けた。
「お、おめでとう! そっか~。赤ちゃんが生まれるんだ~。というかルミカってゴールインしたんだね、その人と!」
「してないよ」
「え?」
「してない」
「……嘘でしょ……」
「本当」
動揺する私とは正反対の口調で話すルミカ。
「彼と私、高校時代は本当に楽しく仲良く過ごしていたの。でも、高校卒業後から少しずつおかしくなっていった。私はフリーターで、彼は会社員。お気楽な私と違って、彼は会社で大変な思いをしていたらしいの。私はそんな彼を励まそうとしたけど、それが全然うまくいかなくって……。彼は日に日に、怖くなっていったの。それでも……ここで別れたら、もう彼を支えてあげる人がいなくなる。そう考えたら、彼が気の毒で……」
少しずつ、ルミカの声に震えが表れる。
「そんな彼とのお付き合いを、私は何年もの間続けた。そして、ある日に彼がとうとう爆発しちゃったの。久々に二人きりで仲良く過ごせると思っていたのに。楽しいお家デートになるはずだったのに、彼の部屋の中は荒らされていって……。私が『やめて』って言ったら、彼はきちんとやめてくれたんだけど……」
「……うん」
「そしたら彼、『じゃあスッキリさせてくれ。お前がヤらしてくれたら、もう暴れねーからさ。ストレス発散させてくれ』って……。私にアレを求めてきたの……。別にそのとき初めてじゃなかったし、OKしちゃったんだけど……それがダメだった」
「え?」
「避妊して、もらえなかったの」
「何それ……」
最低だ。
どうしてこんなに一途な女の子に対して、そんなことを平気でするのか。信じられない。
「アレが終わってから私、彼に大丈夫かどうか聞いたの。この先のことを。そしたら何も答えてくれなかった。私のことなんかお構いなしで、タバコ吸い始めた。もう自分はやりたいことやって、それでもう満たされたみたい」
「は?」
本当に意味が分からない。何だその男。
「その夜以来、彼は私と会ってくれなかった。連絡しても無視されて。たまに電話に出たとしても、仕事あるからの一点張り。そして私の妊娠が分かったころには……もう全然連絡が取れなくなった。電話番号もメールアドレスも住所も、全部変えたみたい」
「ルミカ」
「何?」
「ルミカの家族は、そのこと知ってんの?」
「……うん」
「それで、何だって?」
「ママは泣いていた。パパは一回『バカ野郎!』って怒鳴って、それからは何も言ってこない。だから私……自分の家に居づらくなって、この町にある、おばあちゃんの家に行こうとしたの。でも、よく考えたら、おばあちゃんだって妊娠のこと聞いたら黙っていられないだろうし……。きっとママとパパの味方になっちゃって、私、みんなに嫌われちゃったらどうしようと思って……。それで途方に暮れていたら、あのコンビニの近くでナギちゃんが声をかけてくれたの。ホッとした」
「はあ……。それでこんな大荷物……」
ルミカが連れてきた、いかにも宿泊! っていうようなキャリーバッグに目をやる。
「あのさルミカ」
「な、何?」
ルミカはビクッと返事をした。私がルミカを追い出そうと考えているようにでも見えたのだろうか。冗談じゃない。
「行く宛がないのなら、しばらくここにいなよ」
「……良いの?」
「困っているルミカを、見捨てるわけがないでしょ!」
「……ありがとう!」
ルミカはまた涙を流した。
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