第5話 

 泣きながら、ルミカは話を続けた。


「そんな悲しいことばかりだったから、高校は楽しくやろうって頑張ったよ。クラスのみんなと仲良くしたし、やり過ぎないファッションも心掛けたし、勉強も普通にしていたし……。あと新しい彼氏もできた」

「そう。ツラいこともあったけど、良かったね」


 怒りは完全に冷めていないが、私は少しホッとした。


「で、その彼氏とは……」

「うんっ!」

「あのね、」


 そのとき、ルミカが顔を歪めた。


「ちょっ、大丈夫?」

「ごめんね、トイレ借りる」

「うん、行ってきな!」


 一体どうしたのだろう。

 私が出した食べ物に、何か危ないものでも入っていたのだろうか。でもルミカはさっきからフルーツしかつまんでいない。飲み物は水だけ。

 元々、体調が悪かったのか?

 ……あれ?

 だとしたら、どうしてたった一人でこんなところへやって来たのか。この町から地元まで、電車でも四十分はかかる。それ以前に、現在ルミカが実家暮らしなのかどうかも知らないし、何をして生計を立てているのかも聞いていない。

 知らないことばかりだ。

 ためらってしまったけれど、この際ルミカから今の状況を聞き出そう。




「はあ……」


 ルミカは疲れ切った様子で戻って来た。


「ごめんねナギちゃん。すごく迷惑かけちゃって……」

「良いよ。ほら、ここで横になって」

「ありがと……」


 私は、敷いたばかりの布団へとルミカを案内した。


「体調、元から悪かったの?」

「うん」

「そうか……。それでルミカ」

「何?」

「どうしてこの町に来たの?」

「え……」


 ルミカが目を丸くした。


「元から病気で苦しいのなら、わざわざこんな遠くまで来ないよね? あ、その前に今、実家暮らし?」

「あ、うん……」

「じゃ、やっぱり気になるな。だって病院に行くにしても、もっと近いところを選ぶだろうし、遠くへ行くにしても、ルミカのママさんのことだから付き添いしそう……ねぇルミカ、何かあったの? ママさんとケンカでもした?」

「ナギちゃん……」

「責めているんじゃないよ。私はルミカのことが心配なの」


 目を真っ直ぐに向けている私と、布団の中で仰向けになって上を見つめているルミカ。

ここから、少しの沈黙。

 ルミカにいけないことを聞いてしまったのだろうか。

 いや、そんなことはないと思う。

 私はこの自問自答を繰り返す。繰り返す。繰り返す。

 そのように頭の中をゴチャゴチャにしていたら、


「ナギちゃん」


 ルミカが声を発した。私の目を、きちんと見ながら。


「うんっ! 何?」


 喜びのあまり、弾んだ返事。……ルミカは暗いというのに。


「私ね、」

「うん」

「私……」


 ルミカの声は、まだ暗い。本当に、一体何があったというのか。


「妊娠しているの」

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