第3話
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
ああ、懐かしい。昔こんな風に、二人で遊んだことが何回もあった。
「部屋、きれいだね! さすが~」
「いやいや、そんなこと……」
ない。つい数日前までは。
「外ヅラは良いのよね、あんた」
「人前ではきちんとするようにって言ったの、お母さんじゃん」
「口を減らしなさい」
「口って減らせるの? 一つしかないのに」
「かわいくないわねぇ」
「あなたの娘だもの、当然」
また思い出す、母親との会話。そう、私は昔から外ヅラの良い奴だった。家ではダラダラしているのに、学校とか違う場所だったらピシッとする。周囲からは真面目な人間だと、勝手に思われている。
「勝手に」。ということは、そういうことなのだ。つまり私は、最近よく耳に入ってくる(正しくは、目に入ってくるかな? 文字だから)『真面目系クズ』ということ。パッと見は勉強ができそうだが、実はそうでもない。夏休みの宿題は一応全て終わらせるけれど、それがなかなかギリギリの終わらせ方だ、というのが良い例え、だと思う。
ハッ。もしかして……。
ここでまた、嫌なことを考え始める私。
今まで面接してきた奴ら……ではなく皆様は、私のそういう部分を見破っていたのでは……。
「ナギちゃん?」
その呼びかけに、また違う、ハッ。
「あ、ごめん! 懐かしさに浸っていたら、ついボーっとしちゃって……」
「本当に久々だもんね~」
そうだ。今日は久しぶりにルミカと会ったんだ。少しくらい就活のことを忘れて楽しんだってバチは当たらない……はず!
ね、頑張っているものね私?
「はいルミカ、座って!」
「ごめん。私さ、無理なんだよね酒類。だからこういうとき、コーラとかウーロンばっかでさ……」
「良いって~。ちょうど私、今は禁酒中なのよね~。あとカフェインもちょっと控えたいかな?」
「あー……。じゃ、水にする?」
「うん、ごめんね。気ぃ遣わせちゃって」
「ルミカはお客様!」
「ありがとう」
ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出す。水も結構おいしいんだよね。うんうん。
「はい、お水」
「わ~、きれいな水~。ありがとね」
「良かった。喜んでくれて」
ニコニコ顔のルミカに、ニコニコ顔でグラスに入った水を私は差し出す。
「ごちそう……とは言えないけどジャンジャン食べてね!」
タッちゃん、パーティー開けされたポテトチップスのり塩。コンビニで買ったばかりのものの他にも色々ある。残っていたご飯で作った焼きおにぎり、冷凍食品半額セールの日にドラッグストアで買ったたこ焼き、バイト先の社内販売で買いまくったフルーツや惣菜。当初はここまで食べ物を用意する予定はなかったけれど、パーティーだ。今日は緊急のパーティーだ。
「かんぱ~いっ!」
コーラの入ったグラスと、ミネラルウォーターの入ったグラスが、チンと良い音を一瞬奏でた。
さあ飲むぞ。食べるぞ。語るぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。