第6話 初めの一歩

俺がエリーの家に来てから、早い事に一週間が経った。

そんな俺の勤勉な日々を紹介しよう。


朝 エリーが起きるに合わせて起床

朝食の準備の間、庭にいる鶏の世話をする

朝食が出来たらエリーと食べる

昼になるまでこの世界の事について勉強

(文字などはエリーが教えてくれた為、殆ど覚えた。)


昼 エリーは昼から治癒魔法の使い手としての仕事があるため、それに合わせて俺も日雇いのバイトに行く。


夜 夕方にはバイトが終わるため、散歩も兼ねて街を見回る。

家についてエリーの帰りを待ち、彼女が帰宅後夜ご飯を食べる。

二日に一度銭湯に行き、体と心を癒す。

買い物をして家に帰り、二人とも読書を始める。

眠くなったら就寝


以前の俺とは比べものにならないほど健康な生活だな。元の世界に居たときの俺なんか… いや、思い出すだけでも寒気がする。本当にエリーに感謝だな。


しかしいつまでもエリーに世話になりっぱなしでは駄目だ。そろそろどうするか本格的に決めないとな。俺の目的は魔王を倒し、余生をウハウハで過ごすことだ。ゴルデのおっちゃんのお陰で魔王の居場所もわかっている。


あとは仲間と金が問題だが…まぁどうにかなるだろう。よし、思い立ったが吉日。少し名残惜しいが、明日ここを経とう。少ないがバイトのお陰で金も出来たし、この世界の知識も身についた。よし、さっそくエリーに伝えるか。


リビングに入るとエリーは本を読んでいたが、俺が近ずくと顔をあげた。うん、やっぱりいつ見てもエリーは文句なしの美人だ。やっぱり出ていくの止めようかな。いや、俺はやると決めたらやる男だ。


「エリー、大切な話がある。少し聞いてくれるか?」


「ん? もちろん良いですよ?」


俺の真剣そうな顔を見て察したのか、台所に立ち紅茶と茶菓子を用意した。エリーがそれらを持って席に着くのを確認し、俺は口を開く。


「俺さ、実は魔王を倒しに行こうと思ってるんだ。それでそろそろここを出ようと思うんだ。そうだな、明日にも出るつもりなんだが…」


「えっ、急すぎます…」


エリーは服の裾をギュッと握りしめ、泣きそうな顔をした。そんな顔をされると心が痛む。決心が揺らいじゃうじゃないの。


暫くの沈黙が続いた後、何か決心したような顔をし、エリーは言った。


「だったら私を連れてってください。魔王なんてヤマダさんだけじゃ倒せる訳無いじゃないですか。だったら私も着いてって手伝います!」


「その提案はとても嬉しい。けどエリーには仕事があるだろ?」


「仕事なんて糞食らえですよ!それに…ヤマダさんと居るの楽しいからいいんです。」


「糞食らえって...でもエリーに悪いよ。」


「行くって決めたらヤマダさんがなんて言おうが付いていきますから!」


えぇ、困ったぞ。正直どころではなく確実に俺にエリーを守れる程の実力があるとは思えない。てか逆に俺が守られる立場になりそうだし...


「もし連れてってくれないのなら、今ここで切腹してやりますよ!」


いつの間に取り出したのか、ナイフを自分の腹に当てたエリーを見た俺は慌てて、


「おおい!ちょっ待てよ!分かった!分かったから一緒に行こう!」


「えへへ、やったぁ。言いましたからね、ヤマダさん。取り消しは駄目ですからね?」


なんて強引な。でもまぁ嬉しいんだけどな。仲間を探す手間が少し省けたし、エリーは魔法も使えるし。


という訳でエリーも一緒に行く事になった。俺の力では彼女は守れないかもしれないが、盾位にはなれるだろう。ここまでして付いてこようとしてくれたんだ。だったら俺だってそれに応えてやらねばな。


密かにそう決意した俺は、目の前で顔を真っ赤にして俯いている彼女には気付かなかった。


ーーー

翌日


おはよう諸君!

ん?なんだか今日はテンションが高いなって?あったり前じゃないか!なんたって今日から俺の冒険が始まるのさ!おまけに超美少女を連れてだぜ?それだけでも召喚された甲斐があったものだな。


エリーはというと、彼女は彼女で楽しみにしているようだ。朝から楽しそうに薄茶のリュックに色々詰めている。俺が持って行くものは金とおっちゃんのペンダントくらいだ。あ、途中で洋服を一着買っておくか。今持ってるのは元の世界から着てきたやつしかないしな。


エリーの家との別れはかなりあっさりとしたものだった。彼女は別に家との別れを惜しむわけでもなく、さっさと鍵をかけて鉢植えに隠す。俺の方が未練たらたらだったのは内緒な。あ、因みに鶏は銭湯のおばちゃんにあげたらしい。


「よし、まずは冒険者ギルドに行きましょうか。」


おっ、この世界にも冒険者ギルドはあるのか。やっと俺のステータスがわかるのか、楽しみだ。あ、だけどその前に、


「その前に服が買いたい。

服屋に寄ってくれないか?」


という事で服屋に到着。色々悩んだ挙句、エリーに勧められた白いローブを購入した。その他に余ったお金でブーツと剣を購入。元々持ってた靴は何故か高値で売れた。おっちゃんも馬鹿だな、普通のスニーカーなのに。


服屋を出て、俺らは冒険者ギルドに向かう。靴屋から少し歩くと冒険者ギルドが見えてきた。冒険者ギルドはアニメでよく見るものと大した変わりはなく、酒場と混合していて、受付にはバインバインの姉ちゃんがいた。


「ようこそ冒険者ギルドへ!登録ですか?」


「はい、そうです。私とヤマダさん、えーっとそこの彼を登録したいのですが。」


おお、エリーがなんか手馴れている様子だ。もしかして前に冒険者やってたりして。


「ではこちらの石を持って見てください。」


そう言って姉ちゃんは薄紫色で野球ボールサイズの石を差し出した。エリーが石を手に持つとほのかに光り、ボンッと音を立てた。もくもくと煙が上がって出て来たのは一枚のカード。


カードにはこう書かれていた。


名前 エリー

冒険者レベル D

職業 クレリック


流石だ。クレリックというと治癒魔法の上位職じゃないか。それにしてもこの石、職業なんかも分かるのか。俺の職業は何だろう。やっぱり異世界無双は定番だし、いきなりアークウィザードとか?魔法を使える俺、格好いいだろうなぁ。


なんてニヤニヤしながら考えていると、姉ちゃんが俺の方にも石を差し出してきた。俺がワクワクしながら石を持つと、エリーと同様ぼふんと音をたてカードになる。


「どれどれ…


名前 ヤマダ

冒険者レベル D

職業 賢者


…えっ?賢者?」


「嘘、ヤマダさんそんな頭良かったんですか。

このグラフ、知能だけ凄いことになってますよ…」


確かに、グラフを見ると知能の欄が凄いことになっている。しかしその他は平均以下、クソ雑魚ナメクジだ。おいおい、この玉壊れてるんじゃないか?俺が強いという設定は何処にいったんだ?


一方エリーは魔法面に才能があるようだ。それ以外も全て平均以上、天才だ。俺と比べるとまさに月とスッポン。


それにしても知能か…百歩譲ってこれが世に言うチート機能だとしてもなんか地味だな。おまけにあまり頭良くなった気がしない。


「あとこれが冒険者の証となります。紛失した際には最寄りの冒険者ギルドで再発行してください。」


そう言って手渡されたのは、小さい五芒星が彫られた腕輪だった。木で出来ているのか、湿気ると腐るから風呂の時は外さなきゃな。ふと隣を見ると、エリーは嬉しそうに腕輪をはめ、にこりと笑い、


「えへへ、お揃いですね!」


その言動に、俺は萌え死にしそうになった。


ーーー

勇者lv. 1


魔法: 治癒魔法を使われた事がある

剣術: 剣入手

知能: コミュ力はついてきたようだ

仲間: エリー


職業: 賢者

特技: 知能

趣味: エリーと冒険する事

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