第4話 美少年の衝撃的な事実

かっこよくおっちゃんと別れたは良いんだが…


「この先どうすれば良いかわかんねぇ。」


い、いや、別に躓いてなんか無いし?

えっと、考えろ俺。魔王討伐に必要な物は…


“仲間、武器、物資”


だな。よし、まずは仲間集めだ。可愛い子見つけるぞー!


ーーー


仲間集めと言ったら酒場。アニメの中では定番中の定番。取り敢えずそこに行けば何とかなるだろう、と俺は考えていた。途中でふとギルドと酒場って違くね?と思ったが、そんな邪念は無視だ無視!


運良く近くに酒場らしき建物が見える。

ほう、ここが魔王討伐の第一歩か。美少女でバインバインな仲間達を想像し、ウハウハ気分のままドアを開けた俺は凍りついた。


辺り一面の厳つい男達。

中には斧や鍬を持って、今にも八つ裂きにしてやるぜ!と構えてる怖い人もいる。


「おい、そこのにーちゃん何見てんだよ。喧嘩売ってんのか?あぁ?」


斧を二つ肩に背負った強面おっちゃんが睨んできた。


…はっ、しまった凍ってた。やばい、取り敢えず謝らなくては。八つ裂きにされて焼かれて食われちまう。じゃなかったら異世界風の東京湾にコンクリ詰めにされて沈められちまう。


「…なさぃ」


そうだ忘れてた。おっちゃんとは何気なく話してたけど、俺コミュ障だったんだ。あはは。


ああああああああぁぁぁ!


終わったな、俺。今回は短い人生だったよ。文字通り棒立ちになって固まってた俺の周りに、首を鳴らしている男たちが集まりだす。


「覚悟はしてるよなぁ?歯ぁ食いしばれよ!」


そして男達に囲まれた俺はフルボッコにされ、酒場の外に放り出された。


ーーー


「痛ったたた。これ絶対に骨一本は折れたぞ。」


頭にたんこぶ、身体中に痣。おまけに肋骨が一本逝ったようだ。


うぐぐ、あいつらめ、今に見てろよ。とそんな事を道のど真ん中で考えてると、


「あの、大丈夫ですか?えっと、怪我痛そうだから。」


その綺麗で透き通るような声の主は超が付くほどの美少年。髪は伸ばしているのか肩まで位の長さで、身長は俺より頭二つ分は小さい。ふむ、かなり小柄な少年だ。


顔立ちはとても女々しく、女装させたらミス異世界も夢じゃ無い。でも残念だったな、俺のストライクゾーンに男は入ってないんだ。


「あぁ、大丈夫だ。少し打っただけだしな。」


やっとの事で口を開き、そう伝える。まぁ嘘なんだが。身体中が焼けそうに痛い。年下にはかっこ悪い所見せたくないって俺のプライドが泣き叫んでいるから口には出さないがな。そしたら、それを察したのか少年が、


「大丈夫そうには見えません。治療してあげるので家に来て下さい。一人で立てますか? 手伝いますね。」


おふう、なんて優しい子なんだ。お兄さん感激だよ。

まだまだこの世も捨てたもんじゃ無いな、うんうん。


俺は少年に案内され、彼の家にお邪魔する。見た目が幼い割には一人暮らしらしく、そこまで家も広くない。家の中には必要最低限の家具と、大きな棚に薬や本がびっしり。


キョロキョロしてると、少年が椅子に座るよう勧めてくれた。言われるがままに椅子に座ると、


「痣はいいとして…たんこぶと肋骨は大変ですね。少し治癒魔法使うので麻痺するかもですよ。」


おお、魔法か。でも麻痺ってなんだ?しかし慣れない人と話している為に平常心が欠けていた俺は、言われた通り素直に大人しくしていた。


少年が俺に手を翳し、何やら唱える。緑の光がふわふわ浮着始めた。

それを綺麗だなと思ってみていると、いきなり身体の中心あたりがビビッと来て、力が抜けた。


「えっ、大丈夫ですか? 流石に麻痺しすぎ...って、何これ。魔力が古すぎるじゃないですか!」


「ま、りょく?」


「貴方本当に人間ですか?取り敢えずは傷治すので少し耐えて下さいね。」


耐える? それより早く立たせてくれ。俺のファーストキスが床に奪われているんだ。口が上手く回らないため、心の中で反論している俺をよそ目に、少年は再度手を翳し始めた。


力がどんどん抜けていく。あー、なんかチクチクするな。ん?あれ待ってこれ痛くないっすか?


その瞬間、身体に激痛が走った。


「いっだあああああ!これ死ぬ、無理!助けでえええええ!」


「大丈夫です、そんな事では死にませんよ。死んだとしても私が蘇生してあげます。」


俺は床に手足をばたつかせ、必死に痛みから逃れようとする。しかし、死ぬかと思った激痛は以外と長くは続かなかった。激痛が収まるにつれ、体の傷が癒えていく感覚がする。なんかぽわぽわで暖かいな。


「おぉ、これが魔法か…」


「見た事が無いのも無理ありませんね。此処アルドラの人は殆ど魔法使いませんし。」


「と言うことは、君は数少ない魔法使いって所か。それよりさっきの魔法痛かったんだけど何したんだよ。」


いつのまにか近くの椅子に座っていた少年は顔を蹙めた。


「恩人になんて口の利き方…でもまぁかなり荒治療しましたからね。それにあなたの場合、普通以上に痛かったと思いますし。」


治癒魔法で荒治療とか…お兄さん乱暴すぎます。

どのアニメにもそんな設定無かったぞ、おい。


「てか、なんで俺だけ痛いんだ?」


「体の中の魔力が古かったんですよ。回復や能力向上系の魔法はかける人の魔力を使うんです。その人の魔力が古ければ古い程痛いんですよ。因みに、そこまで古い魔力は初めて見ました。まさか魔法使った事無いとか…それこそまさかですよね。」


使った事無いなんて言えない空気だぞ、これ。

そんなに使わないのって珍しいのか…


今後何処かで教わるのも良いかもしれない。この世界にも魔法学校とかあると思うし。

と、そんな事考えていると少年がまた口を開いた。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はエリー・ファルト。エリーって呼んでください。小さく見えるかもですが、これでも15歳です。因みに治癒魔法は一通り出来ます。この歳で出来るのって凄いんですよ。」


エリーは確かに15歳にしては小柄で筋肉が少ない。しかし治癒魔法の使い手か。筋肉が少ないのは納得だ。恐らく医者のような仕事でもしてるんだろう。稼いでそうだな。


「俺はヤマダ ヒロキだ。信じてくれないだろうが、今日異世界デビューしたばかりの新人さ。俺の夢はこの世界の魔王を倒して、ウハウハ生活を送る事だ。」


「魔王を、ですか。それは頭沸いてますね。それより異世界?とは何か全く見当が付かないんですが…私の目では無一文の可哀想な人に見えるのですが、お金はあるんですか?宿は?」


「お金なら…これやっぱり使えないかな。」


そう言ってズボンのポケットから日本円を出す。

その金額は約15000円。沙織たんの抱き枕を買いに出たのでそこそこ持ってる。エリーはそれを摘まんで、


「何ですかこの紙ぺら。こんなのに価値なんてある訳ないじゃ無いですか。 ん? でもこれよく見るとなんか人の絵が…ふーむ、繊細な絵ですね。」


「そいつは俺の友達の野口さんと福沢さんだ。俺が住んでた所だと結構有名なんだぜ。」


嘘をついた。野口さんと福沢さんはとっくの昔に死んでいる。勝手に俺の友達にされて彼等もさぞかしお怒りだろう。有名なのは本当だけどな。


「繊細な絵だとしてもこれはお金にはなりませんね。お金、無いのならうちに泊まって行きます? 一人暮らしなんですが結構夜は寂しいので、泊まってくれると私も嬉しいです。」


おお、願っても無い幸運。神さまありがとう。やはりこの少年は神だったか。南無阿弥陀。俺は少年の手を取り、


「おお、それは助かる!正直今朝のおっちゃんの話だけではわからない事だらけだったから、色々と聞かせて欲しい。お金も宿も無いし、迷惑をかけるかも知れないが宜しく頼む。この恩はいつかきっと返すよ。」


「あ、はい、期待してますね。」


少年はとても可愛い笑顔で、そして何故か少し顔を赤くしてそう答えた。因みに俺が恩返し出来るようになるのはずっとずっと後の事になるだろう、という事は伏せておこう。


ーーー


「あ、そろそろお風呂の時間ですね。私の家にはお風呂が無いので近くの銭湯に行くんです。知り合いが経営しているので無料で使えるんですよ。ヤマダさんも行きますか?」


「あぁ、もちろんだ。お風呂かぁ、久しぶりだなぁ。」


よく考えて見るとそんなに久しぶりでは無かったな。死んだのはずっと昔に思えてくるが、実はまだ一日も経ってないのだ。この短時間で色んな事があったため、身体への負担は大きい。ましてや久しぶりに外に出た引きこもりには尚更だ。


タオルなどは銭湯にあるらしいので、必要なのは着替えだけらしい。エリーはちゃんと着替えを持っていくようだが、あいにく俺には手持ちが無いので手ぶらだ。


俺たちは家から出て、銭湯へ歩き出す。空はいつのまにか赤く色付いていて、もうこんな時間だったのかと思う。こっちに転生されたのは昼頃だったか、お腹が空き始めた。ぼんやりとエリーの後ろを歩きながらそんな事を考えていると、


「今日は空が綺麗ですね、もうそろそろアトンだからですかね。」


「アトン?」


「あぁ、異世界から来た設定でしたね。この国は季節が四つあり、それぞれスリグ、サム、アトン、ウィングと言います。今はサムで、一番暑い季節ですよ。」


日本でいう春夏秋冬みたいなものか。サムとか外国人の名前かい。覚えなければいけない単語が多いなぁなんて思っていると、道の終わりにどーんと佇む銭湯らしき建物が見えた。


「あそこが銭湯です。結構広いでしょう?」


エリーが自慢するだけある。たしかにその銭湯は俺が見た中でも大きい方だ。


「あー、今日は久しぶりに治癒魔法使ったので疲れました。お風呂が終わったらそこのベンチで待ち合わせにしましょう。」


久しぶりってことは医者ってわけじゃ無いんだな。

ん?待ち合わせ?


「おいおい、折角だし湯船でゆっくり語り合おうぜ。裸の付き合いってやつだ。」


「へ、変態ですかあなた!ここは混浴なんて無いですよ!それに裸の付き合いなんてはしたない!」


え? 混浴?あれ、混浴の意味を誰か教えてくれ。

まって、エリーってまさか女だったの? 嘘だろ?


「お前…まさか女か?」


「当たり前じゃ無いですか!胸が小さいからって勝手に男にし無いで下さい!それじゃあもうお風呂入っちゃいますからね、どうぞごゆっくり!」


そうかぁ、女だったのか。確かにエリーって名前の男は聞いたこと無いもんな。何故こんな馬鹿な勘違いしてたんだ、俺。


男湯に入ると、広い浴場なのに誰も居なかった。


「見た目はあんなにでかいのに客は少ないんだなぁ。」


だなぁ…なぁ…ぁ…

懐かしい、この声が反響する現象。銭湯なんて日本にいた時だって滅多に行かなかったからな。あ、そうだ。人が居ないなら遊び放題じゃないか。


「ふふふ、引きこもって暇だった時に自分で工夫して楽しみを見つけてきた俺を甘く見ない方がいいぜ。」


まずは…そうだな、石鹸でスケートだ。胸が躍るぜ。その次にあれ、これ、それ、と俺は色々試した。銭湯、それは男のロマン。そして遊びの宝庫。俺は思いつく限りはしゃぎ回った。


…そう、誰かが見ている事に気づかないくらいに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


主人公、ヤマダのステータス


勇者lv. 0


魔法: 治癒魔法を使われた事がある

剣術: 剣さえ持った事ない

知能: 引きこもりだった時点でご察し

仲間: (ゴルデ、エリー?)


特技: 不明

趣味: ネトゲ、アニメ

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