第3話 武器屋のおっちゃん

「うええ、気持ち悪い。異世界転移って乗り物酔いみたいな感覚だな。てかあの天使どんな冗談だよ、いきなり過ぎるだろ。」


俺は石畳に手をつき、胃液を出しながら呟いた。そして袖で口を拭いながら、ゆっくりと辺りを見渡す。


「おお、これが噂の始まりの街か。」


異世界物アニメでは定番の始まりの街そのものだな。辺りには沢山の出店があり、食べ物や衣類などが並んでいる。始まりの街だけあってそこそこ賑わっているようだ。さて、とにかく情報収集をしなければ。


一番近くの店を見ている。恐らくは武器屋なのだろうが、


「文字が読めねぇ… 何語だよこれ。」


看板にはくねくねした文字が並んでいるのだが、恐らく地球上には無い言語だろう。あのクソ天使、言葉ぐらい読めるようにしとけっての。


「よう、兄ちゃん。何か探してるのか?」


店前でぼーっとしてたら、武器屋のおっちゃんが声を掛けてきた。あ、言葉は分かるのね。よかったよかった。


おっちゃんはガタイの良さそうな体型をしていて、海の男並みに茶色く日焼けをしている。一見怖そうに見えるが、人の良さそうな笑顔を浮かべ俺に話しかけてきた。おお、なんか人見知りな俺でも話しやすそうだ!そう思いとりあえず声をかけてみた。


「おっちゃん、俺は何処に居るんだ?ここが始まりの街なのは分かるが詳細を教えてくれ。」


「始まりの街がなんだか俺には検討つかねぇが…ここはアルドラ国の端っこの街、ヒュードラだ。兄ちゃん頭でも打ったのか?」


心配そうな顔をされてこっちを見られると、何と無く申し訳ない気持ちになってくる。てかこのおっちゃんの困り顔可愛いわ…っと、それは置いとくとして、ここはアルドラ国のヒュードラか。うん、かっこいいしそれっぽい。


「実は俺この世界に来たばかりなんだ。運命だと思ってさ、色々教えてくれよ。」


神頼みならぬおっちゃん頼み。

そんな俺の言葉により一層複雑そうな顔をしたおっちゃんは、


「町じゃなくて世界だと?やっぱり頭打ってんじゃねぇか。それに運命ったってこんな所で使いたかぁねぇが。まぁ良いぜ、面白いし教えてやるよ。 だからさ、何かうちで買ってけよ。少しばかりまけるぜ。」


「手持ちの金が使えるか分からないが...まぁそのうち大金持ちになる予定だから、そん時は常連になってやるよ。」


「それは逞ましいこった。俺はゴルデだ。武器屋アルクスのゴルデ、覚えておけよ。」


ゴルデは、がははと笑いながらこちらに手を伸ばして来た。俺は躊躇する事なくその手を取って、


「俺は山田弘樹だ。何でも好きなように呼んでくれ。」


「ヤマダか、珍しい名前だな。で何だったか? あぁ、この世界の事か。どこから話せばいいかわからんが、まずこの世界には7つの国がある。 土の国、エルシア。水の国、オーリア。炎の国、アシラ。緑の国、ケアン。闇の国、ダスケル。光の国、パリエル。そしてここ、無の国、アルドラ。これらの土、水、炎、緑、闇と光は魔属性に沿ってある。その7つの国の中でもアルドラは一番最弱の国だ。理由は簡単。単純に何の取り柄も無いからだな。それぞれの国に住んでる奴らはその国の属性を得意としている。例えば水の国なら水、光のパリエルなら光 みたいな具合だ。そして魔法の属性に無なんて無い。つまり俺らに魔法は不適任なんだ。その為か、アルドラは商人の国として栄えてるんだがな。因みに最強と謳われている国は、光の国のパリエルと、闇の国のダスケルだ。光と闇は正反対。その両者が上手くいく訳も無く、古き時代から両者はお互いをいがみ合って来た。しかし最近、と言っても過去何十年ほど前の事だが、突如として天空に巨大な城が姿を表した。丁度ここからも見えるだろ? あれがかの有名な魔王城だ。一度、パリエルのお偉いさんが軍隊を引き連れて攻めに行った事があるが、結果は完敗。魔王の間にすら辿り

着けなかったらしい。そこでパリエルはダスケル含む全て国と同盟を組み、魔王を倒そうと躍起になっている訳だ。」


随分と詳しく説明してくれるゴルデに、俺は相槌を打ちながら熱心に聞いていた。どのゲームにおいても村人からの情報程大きなヒントは無い。頭にしっかりとメモをした俺は、ふと疑問に思ったことを口に出してみた。


「そいや何で城は天空にあるのにパリエルの人達はたどり着けたんだ?」


「あぁ、お前はパリエル人を見た事無いんだな。パリエルの人とダスケルの人は自由に飛べる翼が付いているんだ。一度会った事あるが、滅茶苦茶強そうだったぞ。」


「成る程、翼か。てかそんな強そうな奴らが完敗とか魔王強過ぎるだろ。」


あの天使、俺にサラッと難題押し付けやがって。

脳内にテヘッと頭を叩くエレンが思い浮かぶ。


ちくしょう、いつか見返してやる。良いじゃねぇか上等だ。

俺が魔王倒しに行ってやって、異世界でウハウハ生活送ってやる。


「ゴルデのおっちゃんありがとよ。この恩は絶対に忘れないぜ。いつか俺が魔王倒して帰って来たら、必ず此処に寄るよ。」


「おう、良いってことよ。って、は!? 魔王を倒す!?今俺の話聞いてたよな?お前本当に頭打っただけか!?」


大丈夫だおっちゃん、俺は頭なんぞ打ってないぞ。


「俺は本気だ。絶対に倒してやるとも。」


そう俺が笑顔で答えると、おっちゃんは少し顔をしかめて笑い、ちと待ってろと言って店の中に入って行った。


少しして、何か小さい包みを持って出てくると、


「ほら、餞別だ。お前にやるよ。そのペンダントはかなりの高級品で、多分魔物避けやら幸運増加やら色々付いてるペンダントだ。多分な。いつか絶対に他のも買いに来いよ。待ってるぜ。」


と言って、持ってた包みを俺に渡した。中を見てみると、それはたしかに小さなペンダントだった。赤い不思議な、しかし何処か安心する光を放っている石が付いており、確かに高そうな代物だ。


「ゴルデのおっちゃん…」


絆とは不思議なものだ。

たった一時間程度の時間でも、俺とおっちゃんの間には確かな絆が芽生えている。


俺は今誓った。絶対に魔王を倒す。

そして此処に戻ってきて、ペンダントを返す。


此処からが俺のスタートだ。

待ってろよ、魔王!


ーーー


主人公、ヤマダのステータス


勇者lv. 0


魔法: 初期魔法すら使えない

剣術: 剣さえ持った事ない

知能: 引きこもりだった時点でご察し

仲間: (ゴルデ?)


特技: 不明

趣味: ネトゲ、アニメ

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