第2話 ボクっ娘天使に導かれ

暫くの間は意識が朦朧としたままだった。

なんだか体がふよふよしてるなと思いながら、


「うん、間違いなく死んでいるな。死因が沙織たんを救ってってなんか情けないような誇らしいような。」


そんなことをぶつぶつと呟いていると、不意に目の前が明るくなった。明るいなんて次元の明るさではなく、光が目に直接差し込んでくるような感覚だ。


メガァァァ!なんて絶叫してる内に目が慣れて、俺はキョロキョロと周りを見渡す。


そこは「無」の空間だった。どの色とも言い難い色で染まっていて、中央に鏡が一つあるだけの空間。鏡を除くと完全なる無の世界。なんで鏡があるのに無の世界なのかは俺に聞かないでくれ。俺にもさっぱりわからないんだ。


「アニメとかだと定番な筈だが、ここで美少女が俺をむかえてくれるはず...あれ、鏡に何か写ってるな」


普通、鏡に向かい合うと自分の姿が写る。

周知の事実だ。高校言ってない俺でもわかる。


しかしその鏡は俺を写しているのでは無く、何処か別の世界を写していた。うーん、牧場かな?なんか広くて広大な野原が見えるが。暫くの間じーっとその鏡を見ていると、


「お客さんごめんね。ちょっと待たせちゃったかな?まぁそこは僕の可愛さに免じて許してくれると嬉しいよ。」


「おい、ボクっ娘が許されるのは二次元だけだって…きょわあああっ!」


後方からいきなり声がかかり、人見知りな俺は女々しい悲鳴をあげる。母さん以外の人に声をかけられるのは一体何年振りだろうと考えながら慌てて振り向くとそこに立ってたのは…あらっ美少女だわ。


豊かな金髪を腰まで伸ばし、顔のバランスも絶妙。瞳は限りなく青く、全てを見据えてそうな目をしていた。彼女は背中に羽みたいなものをつけていて、まるでその立ち姿は天使のようだった。いや、天使か。


「天使だ…まさか現実で会える日が来るとは…」


「もうここは現実では無いけどね。その通り、僕は日本の人達を来世へと導く天使のエレンだよ。ご察しの通り残念ながら君は死んだ。死因は…沙織ちゃんストラップ?」


天使、即ちエレンは苦笑しながら俺を見上げる。

その言葉に俺の顔は火が吹き出しそうな程に真っ赤になり、


「そ、そこには言及しないでくれると助かる。てか人の死を笑うな!不謹慎だ!」


「あはは、そんな理由で死んだ命そのものに不謹慎な君には言われたくないよ。いやぁ、久しぶりに面白い人間に出会えたな。死んだのが勿体無いくらいだ。さて、死んだ暁には天界に送らなきゃなんだけど… 君は地獄行きかな? いや、でもそんな大した事もしてないし、そもそも引きこもってたから充分な情報が無いんだよね。」


まさか死んでまで引きこもりの事を言われるとは。ったく、なんて失礼な天使なんだ。可愛いのは認めるけどこんな天使は御免だな。


「規律に従うのなら天獄行きなんだけどなぁ。」


ん?一つ知らない言葉が出てきたぞ?


「あぁ、天獄は半端者が行く所だよ。だけど今は満員で入れないんだよね。」


天使って俺の心の声も読めてるのか。てか半端者って酷いな!?


「で、俺はその天獄にも行けないのなら何処に行けと?」


「うーん。あ、ちょうど今人手不足だし、魔王倒しちゃう?」


ん?この子今、魔王っていった?

魔王ってーとあのでかくて凶悪な?

黒くてでかくてラスボスの?


でも結構魅力的じゃね?

異世界物のアニメを見た人なら誰しもがそうであるように、俺も異世界に憧れた(元)男子高校生の1人だ。あ、日々日頃から二次元に行きたいと叫んでたのは秘密な。


可愛く可憐な仲間達。

お約束の異世界無双チートで頼りになる俺。


うん、リア充も夢じゃないかもな!


「ちょっと僕には理解できない事を妄想しているようだけど。でもやる気があるなら丁度良いね、じゃあ飛ばすよー。“汝、この大天使エレン・エルサーニャの名の元にこの者、山田 弘樹の異世界転生を許可する。”」


エレンが厨二感を漂わせる呪文を唱えた瞬間、目の前にあった鏡から光の渦が発生し、俺の体を包み込んだ。


「え? 今から!? ちょっと心の準備が…」


最後まで反論する事は惜しくも叶わず、俺は現れた光に飲まれていった。


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主人公、ヤマダのステータス一覧


勇者lv. 0


魔法: 初期魔法すら使えない

剣術: 剣さえ持った事ない

知能: 引きこもりだった時点でご察し

仲間: 居ない


特技: 不明

趣味: ネトゲ、アニメ

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