異世界転移は甘くない!

七草粥

第1話 冒険の始まり

俺は光に吸い込まれながら考える。


何故こうなったのか?


別に言い訳をしたい訳では無い。

今更嘆いても遅いのは百も承知だ。


「だけどこれは無いだろおおおおおお!」


ーーー


俺は普通の男子高校生…では無い。

絶賛引きこもり中の廃人高校生の方が的確だろう。


そんな俺に友達が出来る訳も無く、家でネトゲに溺れる毎日だ。因みに自慢なんだが、胸を張ってゲーマーだと言える程の腕を持っている。今まで沢山のギルドを立ち上げ、彼らを一位に導いて来たのはこの俺だ。


俺の趣味はゲームの他にもある。ゲームの次に好きなのはアニメで、特に萌え系日常アニメを好んで見る。そんな俺のおすすめキャラは、白紫色の髪をツインテに結った沙織たんだ。


「あ〜沙織たん萌え〜」


おっと失礼、取り乱した。まぁそんなことはさておき、なんで俺が今玄関前にいるかって?そりゃあこんな腐りきった俺でも偶には外に出るさ。”一年に五回くらい”は偶にの範囲に入ると信じたいが。そんな俺が外に出てまで手に入れたいのは、萌え萌え沙織たんの抱き枕カバーだ。


な、なんだよ。文句あんのか?


「よし、財布も持ったしそろそろ行くか。」


俺は玄関のドアノブに手を掛け、開く。ゆっくりと開いたドアの先に待っていたのは運悪くの晴天。文字通り雲一つない空が俺を見下していた。


ひっきーなフレンズなら知ってるだろうが、家にずっと引きこもっていると肌が弱くなる。日差しが肌に刺さるように、俺の貧弱な肌を燃やし始めた。


身体が行きたくないと悲鳴を上げている。どうしよう、戻ろうかな。


「だがしかし!俺はこんな所で立ち止まっている暇はないんだ!」


懐からゆっくりと取り出したのはお気に入りの沙織たんストラップ。いつの間に俺のお守り代わりになっていた拳程の大きさのストラップを握りしめると、不思議と日差しなんか気にならなくなる。


「はわわぁ、もぉやだよぉ」


「えへっ、頑張っちゃったんだもんね!」


沙織たんの名台詞を小声で復唱しながら歩いている不気味な高校生(俺)は、しっかりとした足取りで町へと歩いていった。


ーーー


うん。前言撤回、俺が甘かった。

しっかりと事前に調べていたらこんな事には…

くっ、恨むなら俺のリサーチ力を恨め!


聞いてない、聞いてないぞ。

今日が休日だなんて!


悔しさに打ち震えている俺を、目の前に佇んでいる大きな駅が嘲笑っているように見える。休日だからか駅には沢山の人が居て、心做しか彼等も俺を嘲笑っている気がする。やめろぉ、俺のハートはもうボロボロよ…


人の目線が容赦なく俺に降り注ぐ。

俺はひたすら手元の沙織ちゃんストラップだけを見つめ、なるべく駅のホームの人の少ない方へと歩いていった。


こんな怖い思いをしながらも、俺は久しぶりの外出に浮かれていたのだろう。端っこの方の人気のないホームを軽やかスキップしながら歩いていた時、予想もしなかった事が起きたのだ。


俺は塵一つさえも落ちてない駅のホームで転び、そして在ろう事か、俺の宝物の沙織たんストラップは手から飛び出した。


「Oh NO!」


無駄に発音の良いオゥノゥが駅のホームに響き渡る。俺の手から飛び出した沙織たんストラップは綺麗な弧を描き、ぽとりと音をたてて線路の上へと落ちていった。


俺は沙霧たんを救出すべく素早く立ち上がり、あまりよく考えずに線路へダイブ。急いで持ち上げた沙織たんストラップは少し傷がついたものの、あまり汚れてはいなかった。


嫁を救ったぞ、と誇らしい気持ちで再びストラップを握りしめ、ホームへ戻ろうと思った次の瞬間。


何事かと俺を覗き込んでいた人達が悲鳴をあげていた。なんだなんだ?ま、それよりも早くホームに戻らなければ。今日は大切なミッション(沙織たんの抱き枕を入手)があるのだ。


戻ろうとホームの淵に手を掛けた時、俺はとある違和感に気付いた。


「ん?振動?」


そう、微かな振動が手を伝わって来たのだ。なんだか嫌な予感がする。背筋が凍り、ゆっくりと右を見た瞬間に俺は…


ピコンッという音がして、脳内に流れて来たのは''You Are Dead''の文字だった。

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