(5)何者でもない彼ら

 秋子さんが意識を取り戻すまでに一分もかからなかった。暑さと緊張で朦朧としただけらしい。すぐに頭を振って体勢を起こした。ひとまずビーチハウスで休ませようと肩を貸そうとしたが「一人で歩けますから」と強がられた。慶衣さんが「無理すんなあんぽんたん」と一喝すると渋々親友の肩を借りていた。受付の女性に断りを入れ、ホールの長椅子で休ませて貰うことにした。

「おねえちゃん、おねつ?」

 駆け寄ってきたのは例の女の子だ。事務所にいるだけでは退屈すると考えたのだろう。係員がホールで自由にさせているようだった。女の子……楓ちゃんは、長椅子で横になる秋子さんの前でたどたどしく首を傾けた。秋子さんは微笑み返した。

「……疲れちゃったから休んでるんです。心配しなくても大丈夫ですよ」

「……おちゅうしゃする?」

「しませんよ。お注射は痛いから嫌ですもんね?」

 その言葉に安心したのか。楓ちゃんは「うん、いや!」と顔を綻ばせていた。そんな彼女の傍らで慶衣さんが膝を折った。優しく語りかける。

「じゃあ、お姉ちゃんおねんねするから楓ちゃんは私とあっちで遊んでよっか?」

「あっちー?」

「別にいいっスよね?」

 鋼さんが係員の女性に承諾を求めた。女性も子供を持て余していたらしい。「目の届く範囲にいてくれたら」とうるさくは言わなかった。既に警察にも連絡を付けているそうだ。慶衣さんと鋼さんは「秋子のことお願いね」と言い残し楓ちゃんの手を引いて行った。二階のゲームコーナーにでも連れて行くのだろう。

 俺はホールの片隅に目を向けた。パンフレット台と自販機が並んでいた。残った硬貨でスポーツ飲料を買い、寝そべる秋子さんの枕元に座った。無防備な首にペットボトルを当ててみる。「ひゃっ」と彼女は首を竦めた。

「ちょっと、成海さんっ」

「熱中症には首を冷やすのが一番良いんだ。いいからそうしてなよ」

 秋子さんは、逆さの目で睨んできた。でも気持ちは良かったのだろう。冷たさに身を委ねるように瞳を閉じた。

「わかりました。すみません。ご迷惑をかけてしまって」

「いいよ。俺のほうこそ、ごめん」

「……何がですか?」

 当然訊き返してくる。訊かれたからには答えなければならない。でも口にするのは勇気が要った。恥を曝け出すのは、いつだって勇気が要る。

 間を置いて答えた。

「俺、あいつらに怒る資格なんてなかった。俺も、初めて秋子さんと会ったとき無神経に訊いちゃったから。日本語上手いね、帰化なの? って」

 秋子さんはきょとりと瞬いた。そして、ぷっと噴き出した。

「そんなことですか」

「うん」

 彼女は、表情を柔らかくした。

「慣れっこですよ。私が何年生きてきたと思ってるんですか。もう言われ飽きてます」

「でも、秋子さん、つらそうな顔してた」

「そりゃあんまりしつこく言われるのは嫌ですよ」

「……うん、だからさ。ごめん」

 秋子さんはまた穏やかに瞼を閉ざした。首に当てたペットボトルに手を添え心地良さそうにしていた。しばらくはそのまま黙っていた。やがて彼女はぽつりと言った。

「成海さん、言ってましたよね。特別な人間に成りたいって」

「……うん」

「どうして、特別な人間に成りたいんですか?」

 どうして特別な人間に成りたいのか。

 浮かんできたのは……何故だろう。昔のことだった。

 小学生の頃、旅行先で体調を崩したことがあった。せっかくの家族旅行なのに俺は宿泊先で寝込むことになった。灯りの消えた部屋でひとり朦朧としていると、人類のいなくなった地球に自分だけが取り残されてしまったような孤独感を覚えた。もしかしたら泣いていたのかも知れない。

 横になる秋子さんを見下ろしていると、何となくそんなことを思い出した。

 軽く息を吸い、前方を指差した。

「秋子さん、あそこの自販機見える?」

 秋子さんは首を倒し「ええ」と困惑気味に相槌を打った。

「下のほうに広告が出てるよね。アイドルの」

「ええ、陽葵ちゃんが写ってますね」

「あれ、俺の姉貴」

「…………」

 長い沈黙。そして、

「ええ~~~~~~~~~~~~!?」

 がばっと上半身を跳ね起こした。ぐるりと向き直り、まじまじと顔を凝視してくる。そのまま数秒。思い出したようにふらりと頭を傾けた。その両肩を支え、そっと長椅子に寝かしつける。彼女はぼんやりとした眼差しで確認してきた。

「冗談じゃないですよね……?」

「うん。正真正銘うちの姉ちゃん。本名は高砂葵っていうんだ」

 日高陽葵。アイドルグループ・Aubeのメンバーとして十五歳でデビュー……したことをどれだけの人間が覚えているだろう。グループで活動していた期間は一年にも満たないのではなかったか。その容姿と歌唱力が大物プロデュ―サーだか何だかの目に止まり間もなくソロアーティスト・日高陽葵として脚光を浴びることとなった。さらに主題歌を担当したドラマが社会現象化。コンビニやショッピングモールで歌声を聞かない日がなくなると、バラエティで画面に映らない日もなくなった。その活躍の舞台がドラマ・映画へ移るまでさして時間はかからなかった。現在ではあらゆるメディアを席巻するマルチタレントとして華々しく活動している。

「うちの店にもポスター張ってますよ?」

「飲酒運転撲滅のやつだろ。見たよ。店のトイレに張ってあったね」

「源三さん、そんなこと一言も言ってなかったです」

「じいちゃん、そういう自慢みたいなの嫌いだからさ。本当は姉ちゃんの一番のファンで俺の孫だーって言い触らしたくてうずうずしてるんだろうけど」

 秋子さんは、上目遣いで……体勢と位置関係から上目にならざるを得ないのだが、答え合わせをするように俺を見た。そして同じ目つきを自販機へ向ける。「そっかあ……」と深く納得した。

「道理で見覚えがあるわけです。成海さん、陽葵ちゃんにそっくりなんだ」

 苦笑が漏れた。

「母さんの血が濃いんだ」

 身内を持ち上げるのも気持ち悪いが、うちの母は美人に分類される。そして姉も、俺も……その必要など全くなかったが、母の容姿を色濃く受け継いでしまった。俺は、母に似た自分の容姿が好きではなかった。子供の頃から女子に間違われることが多く同級生からは頻繁にからかわれた。ひどくプライドを傷つけられることもあった。だから俺は、男の成り損ないみたいな自分のことが好きになれなかった。

 一方、姉は母から受け継いだ美貌を最大限に活かす道を選んだ。……いや、仮に容姿などなくともあの姉ならば我が道を突き進んだのではないか? 姉が目的を叶えるうえで母の容姿が好都合なだけなのではなかったか? 身近であいつを見続けた人間としてはそう思える。そして、姉が頭で思い描いた通り世間はあいつに付き従った。

 世間的に日高陽葵は才人として語られることが多い。歌唱力。演技力。話術。知力。文化的な教養。カリスマ性。メディアが生み出した虚像だと批判があることは知っている。理解もできる。だが俺から言わせれば誇張でも何でもない。高砂葵は天才だ。いずれの分野でも一流に成れる素質を秘めている。いや、。あいつが何かに成ると宣言すれば、あいつは必ずそれに成る。

 あいつが小学五年のときだ。俺たちは二人でバラエティ番組を見ていた。お笑い芸人がギネス記録に挑戦するという企画で、お題はリフティングの最長記録だった。確か、記録は二十時間程度ではなかったか? 俺はレコードホルダーの映像を見ながら「どうしてこんなことができるんだろう」とつぶやいた。あいつは「本当にねえ」と感心した。そして少しばかり天井を見上げ「じゃあお姉ちゃんがやってあげよっか?」と瞳を光らせた。「できるわけないよ」と笑ってやると「どうしてできないの?」と不思議そうにしていた。「人間のすることなんだから」と。

 それから姉は三日ほど部屋に閉じこもった。文字通りの意味で一歩も外に出て来なかった。食事にも姿を見せず、学校にも行かなかった。両親がそれを容認したのは以前にも似たようなことがあったからではないだろうか。父が何か言っていた気もするが母は黙々と食事を運んでいた。姉が何をしていたのか今でも知らない。

 そうして四日目。リビングに姿を見せた姉は近くの公園へ俺を連れ出した。どこで手に入れたのか、家にはなかったはずのサッカーボールを携えて。

『成海、見てなさいよ』

 あいつはそう胸を張ると何気ない調子でボールを蹴り始めた。一回、二回、三回、四回。既に身に付けた技能をただ披露するようにボールを宙に浮かした。「姉ちゃんすげえ」と手を叩くと姉は嬉しそうに笑っていた。しかし、それも最初のうちだった。あいつは延々とボールを蹴り続けた。

 終わりがなかったのだ。

 三十分蹴り、一時間蹴り、二時間蹴った。さすがにおかしいと思った。姉がサッカーを学んでいたなど聞いたことがない。試合を観ていた記憶はないし、興味があった素振りもない。ボールをコントロールする技術など知らなかったはずだ。。だが現実に姉はボールを支配し続けている。あり得ない。絶対にできるはずがない。それに気付いたとき俺はボロボロと涙を零していた。怖かったのだ。目の前に突きつけられた光景が。ただ怖かった。

『成海? どうしたの? ほら。お姉ちゃんもっとできるよ。ねえ見て』

 楽しいでしょう?

 姉は無邪気に笑っていた。弟も同じ顔をしてくれると、心から信じて。

 結局三時間を過ぎたあたりでボールは地面に転がった。失敗したわけではない。様子を見に来た父親が泣きじゃくる俺を見て姉を止めたのだ。姉は「まだできるのに」と頬を膨らませていた。実際どうだったのだろう。あのまま続けていたら姉は何時間蹴り続けていたのだろう。一日中ボールを浮かし続け世界記録を塗り替えていたのだろうか? それこそあり得ないことのように思える。体力が持つはずがない。どこかの時点で絶対に失敗していたはずだ。……でも、もしかしたら。。俺は、未だにその想像を拭えずにいる。

 それからも姉は似たようなことを何度も繰り返した。ピアノ。ダンス。体操。剣道。数学。語学。暗記。演劇。程度の差こそあれ時間をかけて身に付けるはずの技能をいとも簡単に披露してみせる。そんなことを度々やっては周囲の人間を驚かせた。

 そんな姉の根本にあるのは『みんなの楽しむ顔が見たい』という素朴な欲求だ。善意の塊だと言っても良い。自身の振る舞いが家族や友人を喜ばせると信じ、現実にそれを成し遂げてきた。芸能活動に従事する今でも恐らく根っこは変わっていない。あいつが変わろうとしない限り変わらないし、変わる必要もないだろう。実際、離れて眺めれば姉のような人間は実に小気味が良いはずだ。能力があり、高慢にならず、他者のために尽くすことができる。高砂葵の周りにはいつも人が集まってきた。光に羽虫が群がってくるみたいに。

 でも間近でその強烈な光を浴びせられる身としてはたまったものではない。

「しんどいよ。あいつの弟をやるのは。自分がいかに平凡な人間なのか……何もない、価値のない存在なのか、死にたくなるほど思い知らされる。周りの目があるから余計にだ。誰も俺を高砂成海としちゃ見てくれない。誰も俺を……気にかけない。みんながみんな姉ちゃんを見上げながら笑うんだ」


『へえ? 日高陽葵の弟なんだ』

『お姉さんに似てるね』

『お姉さんみたいにタレントとかやらないの?』

『お姉さんのサイン貰ってきてくれない?』


「なあ、俺はどこにいる?」

 胸の奥から自嘲が溢れた。それが疑問の答えだった。

「俺はどこにいても『日高陽葵の弟』なんだ」

 自販機で姉ちゃんが笑っている。太陽みたいに笑っている。

「母さんだってそうさ。忙しい姉ちゃんをサポートするために一緒に東京で暮らしてる。俺は反対したよ。タレントやりたいなんてのは姉ちゃんの勝手なんだから、わざわざ付き合う必要はないってさ。でも母さんは一つ一つそうしなきゃならない理由を俺に説いた。いかに姉ちゃんが優秀で、いかに可能性に満ちていて、いかに皆を幸せにしてあげられるのか。分かり切ったことをくどくど説明してくれた。それで最後にこう言ったんだ。『仕方ないでしょ?』って」

 そうだ。仕方がない。日高陽葵は世界に必要とされるアイドルだ。ブリオーニを着てる大物と食事をして、ツアーになれば億単位の金が動く。真に迫った演技にみんなが涙を流し、大枚を叩いてグッズを買い漁る。片や俺は? 頭でっかちの理屈屋のガキだ。だから母さんと暮らせないことだって仕方がないし、誰も俺を見てくれなくたって仕方がない。全部が全部仕方がないのだ。

「でも俺はその『仕方がない』ってやつに食われたくなかった。姉ちゃんに仕事を辞めさせようって意味じゃない。誰からも見向きもされない、価値のない存在でいたくなかったんだ」

 そうだ。俺は作家に成りたいわけじゃない。特別な何かに成りたいわけじゃない。

「俺はただ、。でも、それは普通のやり方じゃあ無理だ」

「成海さん……」

 目頭が熱を帯びていた。上着の袖でそれを拭った。

 気恥ずかしくなって笑った。笑えていたと思う。

「……正直さ、こっち来て秋子さんたちと一緒にいるのは楽だったよ。誰も俺のことを姉ちゃんの弟とは見なかった。みんな、俺のことを名前で呼んでくれた。嬉しかった」

 帰省した姉ちゃんに会いたくなくて、気の置けない友達もいなくて、どこにも居場所のなかった俺は、じいちゃんの家に逃げ込んだ。何だっていいから目標を掲げ、努力と称して苦しまなければ、自分が誰なのかも分からなくなりそうだった。そんな俺の手を、秋子さんが握ってくれた。慶衣さんも。鋼さんも。生意気な弟みたいに遊んでくれた。

 いい夏休みだった。

 木陰で風に吹かれるような、ゆったりとした時間を与えて貰った。

 でも、そんな休みももうすぐ終わる。

 長い休日も、いつかは終わる。

 ホールにひとの姿はなかった。がらんどうの空間。俺は、心が広がったような、それでいて全く小さくなってしまったような、頼りない感覚に囚われていた。

 と腿のうえで垂れていた手に触れるものがあった。秋子さんだ。彼女は仰向けのまま腕を伸ばし俺の手に手を重ねていた。口許には笑みが浮かんでいた。

「成海さん。実は私、ご飯食べるの好きなんですよ」

「え? あ、うん、それは知ってる」

 頷くと、穏やか声音でまた言った。

「朝、お布団にくるまってうとうとしてるのも好きなんです」

 戸惑う俺を余所に、彼女は続けた。

「窓から海を眺めるのも好きだし、波の音を聞くのも好き。お父さんにおはようって挨拶して一緒に目玉焼きを食べて……二人でゆっくりコーヒーを飲むのも大好きです。学校の友達はみんな賑やかで、お昼にせーのでお弁当を開くのは恒例のイベントになっています。放課後の部室で慶衣さんと鋼くんが仲良さそうにしてると安心するし、遠くから聞こえる合唱部の演奏はとても素敵です。帰りにコンビニで食べるアイスは種類がたくさんあってちっとも飽きません。沈む夕陽はいつ見ても綺麗です。家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、ほっとして……眠る前に星空を見上げるのも大好きです」

 瞼を開き、顔いっぱいに感情を広げた。

「こうして成海さんと一緒にいるのも楽しい」

 とくりと心臓が脈打った。さっと胸元に手を伸ばしたが、どうにもならなかった。

 とても、魅力的な笑顔だった。

 秋子さんは詠うように声を響かせた。

「私、毎日が楽しいんです。みんながいるこの町のことが大好きなんです。そうやって何かを好きで楽しんでいられる心があれば、自分が何者かなんて……そんなことはどうでもいいと、そう思うようにしてるんです」

「秋子さん……」

 青い瞳が、問いかけてくる。

「成海さんは、どうですか。この町のこと好きですか」

 俺は、彼女を見つめ返した。手を捻り、指を握り返した。滑らかな肌の感触。

 こうして指を絡ませていれば、胸の鼓動は届くだろうか。

 奧から溢れてきたものを、素直に口にした。

「うん、好きだよ」

 彼女は、ありがとうございますと唇を動かした。

「私は、成海さんがそう言ってくれたことを忘れません。私のために怒ってくれたことを絶対に忘れません。私がそれを忘れないということを、どうか成海さんも忘れないでください」

 俺は「うん」と頷いた。秋子さんの言葉を刻み付けた。強く、強く、刻み付けた。

 ひんやりとした彼女の手。それを握る俺の指先。何もない広い空間で、それだけは確かにここに在った。俺がここにいると証明してくれていた。

「おねえちゃんっ」

 遠慮のない大声が反響した。……瞬間、俺は秋子さんから手を離した。それはもう凄まじい勢いで。ホールドアップの姿勢を維持したまま熱くなった顔を通路へ向ける。たどたどしく駆け寄ってくる影が見えた。楓ちゃんだ。背後には慶衣さんたちの姿。何かに気付いた様子はない。安堵し、秋子さんをちらりと窺う。彼女は何も気にしていないようだった。離された手を、握ったり開いたりしながら、何だろうと楓ちゃんを見ていた。

 楓ちゃんは秋子さんに駆け寄り「あのね!」と声を張った。そこで初めて彼女の手に冊子のようなものが握られていることに気が付いた。未熟な指先が紙を叩いた。

「これ!」

 はいはい何でしょうと秋子さんが手を伸ばした。無造作に掴まれていた冊子はすっかり皺になっている。無料で配布されている八色の観光パンフレットだった。

「その子が二階で見つけたんだけどさ。急にお姉ちゃんに見せるって」

 ついてきた慶衣さんが肩をすくめた。鋼さんも「何かあんのか?」と首を傾げた。

 八色の観光パンフレット。ちゃんと読んだことは一度もない。でも大したことが書かれてあるとも思えない。誰でも知っていそうなことが程々に見栄えよく記されているのだろう。子供には珍しいのかも知れないが。

 楓ちゃんは寝そべる秋子さんの前で鼻息を荒くした。

「これ! みたの! おとさんとおかさんと!」

 両親。その単語に、冊子を開く秋子さんの手がぴたりと止まった。

「見たって……」

「ほら、これ!」

 楓ちゃんが紙面を示した。そこに印刷されていたのは、

「地図、ですか……?」

 町の観光マップだ。デフォルメされた八色の全体図が見開きで描かれていた。所々に吹き出しがあって各所観光地が写真付きで紹介されている。

 小さな頭が、うんうんと力強く縦に揺れた。

「まるとかね、バツとかね、にじゅうまるなの! きょうはまるなの!」

「丸と、バツと、二重丸。地図……」

 秋子さんがつぶやく。俺も頭の中で繰り返していた。

 丸とバツ。二重丸。地図。今日は丸……、

『ああ~~~~~~~~~~!?』

 声が綺麗にハモった。秋子さんが跳ね起きた。互いに向き合い指を差し合った。

『地図記号!』

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