第4話 秋子さんと秘密の写真
(1)こことは一体どこなのか
街灯は蝋燭のようだった。頼りなく、安堵より不安を掻き立てられた。夜道は先細り、暗闇の奧へ吸い込まれていく。異界へと続く死者の回廊。脳裏にこびり付く怯懦の産物も今は全く笑えない。彼の凝視する先で影がひたひたと足音を立てた。
ひたひた。ひたひた。
不安と恐怖がそう錯覚させるのか、影は異様に細長かった。人の形をしているはずなのに、どうしてか歪に映ってしまう。影は数歩先で歩みを止めると、真っ白な顔の下半分に三日月の形の裂け目を作った。その白さとは不釣り合いなほど赤い唇から隙間風のような声が漏れる。
──子ども、見つかりました。
潮風の寝静まった県道。声が蝸牛の内側を這った。
彼は、ごくりと唾を呑み下した。頬の筋肉を苦心して引き攣らせる。
そうですか。それは良かった。
その一言が言えたらどれほど安心できたことか。
迷子の我が子を見つけたという目の前の女。その傍らには子供の姿など影もない。代わりに女は両手で何かを大切そうに包み込んでいた。彼は、骨張った指に嫌悪感を覚えながら、自身の差し出がましさを後悔した。
こんな不気味な女に声などかけなければ良かった。
ランニングウェアは、生温かな汗で湿っている。
女が嗤った。
──ほら、見てあげてください。
彼は、声を震わせた。
「子供さん、どこにいるんですか」
──ここにいますよ。
「どこ、ですか?」
──ここです。見えませんか?
声で場所を示してくる。目玉を剥いてよく見ろと。
彼はとっくに気付いていた。こことは一体どこなのか。
何かを包み込む女の指。その付け根にピンク色の何かがこびり付いていた。
女の口許がニタリと歪んだ。
「ほら、ここですよ」
女は、閉じていた両手をゆっくりと開いた。そこには、
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