手術当日②
診療室の椅子に深く腰をかける。
頭を奥につけて上を向くよう先生に指示をされ、その通りにする。
なんかレーザー?っぽい機械があるけれど、思ったより小さい。
看護師さんから保護メガネを渡され、身につける。
「じゃあ始めるよー。口開いてー」と先生が軽く言い、注射器を持つ。
あーまた注射か……。でも麻酔してるからきっと痛くないよね。
と思ったら、けっこうチクっとした。
きっと“のどちんこ”に局所麻酔をしたのだと思う。
「じゃあ、いまからは口で息をしてねー。鼻で息をすると、オエッてなるよ」
先生がそんなことを突然言う。
まじか。鼻栓とかしたらダメかな……。
先生がペンのような機械を口に入れる。喉の奥が少しチクチクする。
きっと俺の“のどちんこ”が今まさに切られている。
バイバイ、俺の“のどちんこ”。
なんてことを思う余裕は全く無く、目を閉じて口呼吸することだけを意識していた。
でも、いつのまにか鼻で息をしてしまったらしく、オエエッとなってしまった。
やばい。かなり苦しい。
朝食や水を抜いていたのは、ここで吐かないようにするためだったのか。
看護師さんに「大丈夫だから目を開けてくださいねー」と言われる。
先生からも「溜め息をする感じで力を抜いてー」と言われる。
言われた通り、目を開けて、はあぁぁと溜め息をつく。
肩から力が抜けて、全く苦しくなくなった。
溜め息って、すごい。
ただ、その後も何度か肩に力が入り、鼻で呼吸をしてしまう。その度にオエッてなってしまった。先生が少し声を出してていいよと言ってくれたので、「あ゛〜〜〜〜〜」とゆっくりと小さく声を出し続けると口呼吸が上手くできるようになった。
先生は「うんうん、上手い上手い」なんて言ってくれるが、鼻栓があれば最初からもっと楽だったんじゃないかなあ。
5分くらい経っただろうか。切除が終わったらしく、先生が「つばを飲み込んで」と言う。
麻酔が効いているせいか、上手くできないが、無理矢理にゴクンと飲み込む。
思い切り血の味がした。ああ、血を飲み込ませたわけか。
そのあと、もう一度ペンのようなもの(レーザー?)を口に入れられる。
さっきと同じように小さく声を出し続けながら、頑張って口呼吸をする。
なんだか急に焦げ臭い。ああ、レーザーで焼きながら出血を止めてるのかな。
自分の肉が焼ける匂いか、なんて考えると少し気持ち悪い。
微妙にチクチクするけれど、口呼吸をするのに必死で痛みはどうでもよくなる。
また5分くらい経ったあたりで、「よーし、終わりー」と先生が言う。
僕の口から「ほおぉぉぉぉ」と今日一番大きな安心の溜め息が出る。
と、油断していたら、「炎症を抑える注射するよ」と注射器を取り出す。
終わったんじゃなかったのかよおお!
3〜4回、喉に注射を刺され、その度にやっぱりチクっとする。
個室に戻って、5分くらい安静にする。
喉には何か引っかかったような感覚と、焦げたような匂い。
肉が焦げた匂いといっても、焼肉みたいな良い匂いではなく、「なんか燃えてるな?」って思うような匂い。
なんとなしに舌をティッシュで拭いたら血だらけになった。わかってはいたけど、ちょっとビビった。
でも、呼吸自体は手術前よりもかなり楽に感じる。気管が広がったからなんだろうか。
先生が個室に来て、血が止まっているかチェックをする。
ただ、やっぱり血を上手く飲み込めてないらしく、血のせいで確認ができなかったようで、先生は看護師さんに水を持ってくるように指示をした。
看護師さんから紙コップの水を受け取り、軽くうがいをすると真っ赤な痰がたくさん出てきた。
なんじゃこりゃあ。
先生が「唾液を抑えてる注射のせいで、唾液の粘度が高いんだよね」と、気になっていたことを先に説明してくれた。
何度か軽く口をすすいで、先生がもう一度口の中をチェックする。
「ん。ちゃんと血止まってる。オッケ! もう帰って大丈夫!」
ちゃんと成功したらしい。
良かった。そして、ありがとうございます。
受付で支払いを済ませ(保険料3割負担で約3万円)、処方箋を受け取る。
近くの薬局で処方箋を出す。
当然ながら初めての薬局なので、最初のアンケートみたいなやつも書くことに。
あらかじめ聞いていた「ジェネリック薬品を希望しますか?」の部分については、迷わず「いいえ」に○をした。
1週間、3種類の飲み薬を食後に飲まないといけないらしい。
そして、どうしても痛みが我慢できなかったらコレを使うように、と座薬も出てきた。
初めて座薬の実物を見た……。
薬局のお姉さんから「使い方、わかりますか?」と聞かれ、ちょっと迷ったけれど「なんとなくわかります」と答えた。とりあえず使い方の簡単な説明書を付けてくれた。座薬って冷蔵庫で保管するらしい。知らなかった……。
帰りの電車を待つ間、麻酔が切れてきたせいか、喉が少し痛くなってきた。
唾を飲み込むと、かなり痛い。
あー、本当に“のどちんこ”を切っちゃったんだな、と実感が少しずつ湧いてきた。
そんなアンニュイな気分に浸りながら電車を待っていたら、外国人観光客(ラテン系)から「アカサカへのイキカタ、オシエテクダサイ」と声をかけられた。
これだけたくさん人がいるのに、“のどちんこ”を切ったばかりの俺に聞く!?
(つづく)
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