4話「細工仕込みのトレジャーボックス」
白光灯のおかげで白いだけで、本当は
うーん、現国だと減点だろうか。論文についてもう少し勉強しなくては。どうにも国語が苦手なのだが、目の前の
「わーい、ララ強ーい!」
「
能天気な声とのんびりした
そしてレオタードドレスを
「カノンから
「常に最新情報に
受験生である私――
その原因は
何度思い返しても軽い。道徳観念とか、
見過ごすことができずに、付き合う羽目に。
「本当は
「ああ。そういえばまだ会ったことない護衛の人ね。どんな人なの?」
『馬と
「
鏡さんの頭上を守り続ける小さな機械に話しかける多々良くん。なんとシュールな光景なのだろうか。
しかしプロペラを四つ付けただけの飛行遊具にしか見えないが、それだけで
『要は定型文にタグをつけて拡散しやすいようにしているだけだからねー。小指一本で楽勝。ドローン操作にVR機器を利用して、
どうしよう。私には全くわからない
鼻から愛用の
「あー……もしかしてグローブ型コントローラーっすか? ゲーセンのバイトでVRコーナー担当する時に軽く教えてもらったんすけど、手の動きに連動させてるため、拡散も同時進行できるのかと」
『そうそう。ドローン操作に定型文入力キーボードを指の動作にシンクロナイズさせてる感じ』
へー、と
最先端技術の応用技を
「じゃあここの警備システムとかに
『システムが統一されてるとラクチンなんだけどねー。複数に
「ドローン操作もあるもんね」
「そろそろツッコミを入れるぞ!? 犯罪紛いのことはやめような!」
本当は住居不法
それもこれも――今日は
鏡さんがあえて二人を遠ざけたのだ。いつもニコニコとしている
ゲームで対戦相手になった時、実は一番
まだ大和の方がわかりやすい。二人とも
「はい、天鳥
「
「私対策ということは、予想していたのか!?」
確か
好都合といわんばかりに無視する多々良くん。冷ややかな表情からはなにも読み取れない。
顔立ちが整っているせいか圧が強く、それ以上の追求は無理だった。観念した宮林さんが私へ語りかけてきた。
「錬金術師機関は犯罪組織だ」
息が止まるかと思った。が、冷静になって考えると
「社会に
「おじさん、娘のカノンも使って悪いこと
「い、今は手を切ったんだから
「カノンの入院原因であること、おばさんにチクっていいの?」
……私は付き合いが短いので自信はないのだが、多々良くんは
彼女は東京で起きた一部区画
なんにせよ宮林さんは頭の頂点から
「あと天鳥先輩に、
「はぁっ!?」
「娘の友人が手厳しい! わかった、もう口答えしないから!」
前言
「まあ、アタシ達が
その赤い麻縄には下地となる理由があったのか。
宮林さんは
「錬金術師機関の
「個人に?」
「集団に
姉から聞いた話を思い出す。ヤクザは組織だが、危ない取り引きは基本は
特にネット
「私の会社は……副社長が錬金術師機関の手先だった。あっという間に社員の情報が流され、私を
「社長は動かなかったのですか?」
「どんな手段がわからないが、あっという間に変わった。経営自体は変化していないのに、社員の動きは別物になった」
宮林さんはその後、小声で弁明らしき内容を
浮気は
「半ばノリノリだったくせに」
「会社というのは人生の半分以上を
会社勤めの経験がないため同情は難しいが、理解はある程度可能だ。しかし大和が深く
「わかるっす。これは知り合いの話なんですが、部長が二年で変わる職場において、部長の方針がそのまま環境に直結されると、
「日本全国に支社がある場所なのか?」
「そうっす。物流会社で、前部長は
「ほう……で、現部長は?」
「いっつも社員さんを怒鳴るらしいっす。知り合い
知り合いの話だよな?
相当愚痴を聞かされたのか、大和が少しだけ
姉達の女子会という名目で
「それで就活したけど、失敗続きで心が折れたとか。難しい世の中っすね」
「そ、そうだな……」
「なので宮林さんが苦労するのは仕方ないことっす。会社
「でもナレッジおじいちゃんがいなくなった原因の一つだよね」
「やっぱギルティ判定でよろしくっす」
「
鏡さんの
ナレッジさんという人物については、私は伝聞でしかわからない。ただ大和の家族で、必ず
ちなみに大和はジジコンで、二人の祖父に
「それにしても妙に侵入が
「えへへー。心強い協力者がいるからね」
「
「秘密」
笑顔の鏡さん。まるでサプライズを
まあ半分はドイツ人の血が流れているらしいので、あながち
簡潔に言うと、何故、今、実行した。
「大家さんの話では
「
「大和、君はもう少し冷静な方だと思っていたんだが……」
この中で一番の年長は宮林さん、次に鏡さん、三番目に私だ。大和は身長が高いが、まだ高校一年生だもんな。
若さの勢いだろうか。年寄りじみた発言になってしまったが、仕方ない。私はああいうのは苦手というか、
「まず装飾具で、
当たり前の疑問だったのだが、誰もが無言になった。
待て。もしかして誰も追求したことがないのか。目の前の問題解決を
ドローンが先行する廊下を進む。どうやら地下に向かっているようだ。
『それはウチらも注目ピックアップ気味な。固有
梓さんが
やはり普通は気になる内容だものな。しかし固有魔法に関しては、確かに
なにせ個人で魔法が違い、各国に管理政府支部があるくらいだ。それこそ厳重な秘密の一つや二つは
「そういえば多々良の
「……」
「確かナルキーに選ばれてたっすよね」
「…………思い出した。あの時の店員か」
けれど大和だけが「お客さんの顔を覚えるのは得意っす」とか言っているので、かつて出会ったことがあったのだろう。
ただ多々良くんが
「ナルキーって、あの
「多分それっす。変な仮面に
「あれか……」
私にもわかってしまった。姉が
「アタシもよく知らないよ。ただ妙にこっちのピンチを
「王子様みたいだね!」
鏡さんの無邪気な発言に、場の空気が
宮林さんも気まずくて視線を
変態王子様。少女アニメに出てきた
「そういえば
「そんなゲームで最初のモンスターを選ぶノリな……」
「えー、
多々良くんと大和は
ついでにクルリや雑賀のもだ。しかし魔人の詳細がわからないことには、
「確かおじさんが、枢に対して『彼』に会わせようとか言ってなかったけ?」
「……男っすか? 変な話っすね」
なんか会話に
「私は
「確か魔人は六人と一
まあ魔人という単語だけで得られる情報など限られてくるが、宮林さんは色々と誤解を招いたようだな。
それにしても一匹とはなんだ。人外が含まれているのか……いやしかし魔人自体が人外なのでは。けれど確か大家さんも人外だったか。
わ、訳がわからなくなってきた。まあ情報源として確実なのは、知識の魔人に可愛がられた大和か。
「ナレッジ爺とナルキー、あとフェデルタさん以外は女性と
雌。ど、動物系なのか。私の許容量が目に見えて減っていくぞ。
「じゃあ僕が会う魔人は女の子なんだね! どんな子だろう?」
『
いきなり真剣な
そうとも知らず無邪気な鏡さんはスキップしている。なんてお気楽で幸せそうな人なのだろうか。
雑賀からは
「あ、でも皆
「うろ覚えなのか。まあ横に置いといて、階段まで来たが……」
大和の固有魔法【
見上げればビルの最上層まで続いているようだが、果てが見えない。こんなにのんびりと話していて、ほとんど
一段ずつ降りていくと、まるで
「あ、梓のドローンが」
『坊ちゃん……ザザッ、後は……ジッ、打ち合わせ通りに』
そして
出てきたのは簡易マップ。電波は切断されているため、オフラインで表示できるらしい。
「じゃあヤマトに案内お願いするねー」
「……私や多々良くんではなく?」
携帯電話を
決して「頼りにされていないのかもしれない」という
ドローンは折りたたみ式だったらしい。鏡さんがいつも背負っている
「だって
「ういっす。雑用でもなんでもお任せくださいっす」
なんか、おとなげなかったな私。
少し考えればわかることなのに。反省しかない。
「それにヤクモは切り札だもん」
にっこにこの笑顔で言われたが、
「えっと、地図によると地下六階の
「アタシが先行する。なにかあったら大和を守ってね」
固有魔法【
非常に目の毒だ。まともに見るのが難しい。
だが
「遊んで暮らしたい」
「働けば楽できる」
人生の二律背反みたいな言葉だった。
夏服の装備では寒くて
「どうもー、
「
『二人合わせてキリギリアリスでーす』
瀬満さんは出っ歯が
小金さんは少し太め体型の男性で、汗っかきなのかハンカチを手放さない。彼は黒のスーツを着ている。
「いやー今日も寒いですねー。ここはお客様の
「それなら工事現場に置いてあるじゃん」
「そうそう。たくさん……って、それは土管やないかーい!!」
体感温度が急激に下がった気がする。実際に目の前の極寒に
どうやら瀬満さんがツッコミで、小金さんがボケらしいが……この現象原因となる固有魔法はどちらのだ。
「……ふふっ」
冷えた空気の中、薄い笑い声が。
声の出所を見れば、口元を押さえて笑いを
お、面白かったのか? 失礼だが、今のしょうもない
「いやんアルゼンチン」
「
「ごめリンゴ」
「そこは国名で統一せぇや!!」
思考するのも
「つ、つまらな……ふっ」
何故か多々良くんのツボに入ってしまったらしい。
むしろ面白くないのが、一周回ってウケてしまったのだろうか。
私にはよくわからない。というか、理解は難しい。
「それ、なにが面白いの?」
だが鏡さんの一言により、場の空気は氷河期に
「あれは
「へー。でもサイタとクルリの方が面白いよ」
あの二人は鏡さんの中で漫才コンビ扱いなのか。
この場に雑賀がいたら「ふざけてねぇで、どうにかするぞ」くらいはツッコミを入れていそうだ。
「もしくはヤマトとクルリ!」
「私を芸人ツッコミ
条件反射で
しかし何故か急にキリギリアリスの二人がこそこそと
「聞いたか? あのキレのあるツッコミ……」
「しかもタイミングも
「全部聞こえているぞ! 私は
しかし何故か感動と
まず内緒話ならもう少し小声でやってくれ。わざとらしく聞こえるように話すとは。
最中、冷たい
「……もしかして、漫才で
だとしたら
「何故わかった!?」
「じゃあ
阿呆の二乗だった。
しかし漫才コンビのどちらもが固有魔法所有者だったのか。
まあ、上手く
「ヤクモすごーい」
「流石っす」
なんだろう。
「じゃあヤクモの出番だ!
「ん? ああ、なるほど」
固有魔法【
力を込めず、しかし型に当てはめた動作で。二回
音もなく、反動も現れなかったせいか――キリギリアリスの二人は
少し
硝子の靴が二人の意識を
余計な時間を食った気がしたが、大和のスムーズな案内により目的地へと
部屋の中央には古ぼけた宝箱。ゲームに出てきそうなデザインで、
液体を固めただけにしか見えないが、小人は生物みたいに自在な動きを
「ど、毒っ!!」
「え?」
「あ、天鳥先輩は知らないんだっけ? テオの固有魔法は毒を生成して、
冷静に解説する多々良くんを
まあ毒といっても直接触れなければ
「ちなみに発生した
「それを早く言ってくれ!! 鏡さん、ストップ!!」
私は慌てて木刀から燕を出し、小人にぶつける。しかし形を失っただけで、毒液は
まさか魔法で出した毒液は解除に含まれないのか。眼鏡が鼻からずり落ちるくらいに、
「中和薬も作れるのに」
小人が床にぶつかり、体液を
最初の緑色は
「じゃあヤクモは箱を
「う、うーん……難しいかと」
私の固有魔法は魔法無効系。ただの物体や生物には
しかし物理的に
おそらくこの箱の中に錠があるのだろう。だとすればなるべく無傷で手に入れたいが。
「
「そ、そうか……頼りになるな」
大和は
ヘアピンは多々良くんが持っていたので、それを使って大和が鎖を解き始める。十分後には鎖は全て
しかし箱を開けようとした大和が眉根を寄せた。
「箱には
「どういうことだ?」
「切れ目がないっす。ただの立方体を宝箱に見せかけてたみたいで」
私も近くに寄って確かめてみる。
積み木に宝箱の絵を塗ったような不可解さだ。だが箱に手を触れていると妙にざわつく気分になった。
呼ばれているような。求められているような。
「じゃあ箱ごと持って帰ろうー」
鏡さんが無邪気に言うので、私の
なんて
「名案っすね」
「いいんじゃない? アタシが持ち歩こうか?」
なんだろう。わたしがおかしいのか。
大和と多々良くんはあっさりと賛成してしまった。貯金通帳を盗むために
宮林さんは
「それは困る」
「
疑問形ですらなかった。確定
「あ、骨のおじさん」
だが鏡さんの一言で、全て戻ってきた。なんというマイペース。
殺気に近い警戒を放っていた大和さえ、あっという間に気が抜けてしまったようだ。扉に
人骨。生前はたくましい体をしていたのか、骨太だった。
「
「テオバルド・鏡・エーレンベルクだよ。名前の感じからして、骨のおじさんもドイツ系なの?」
「総顧問、もしくは
「
「領主様……良い響きだな。その通り。王家に広大な土地を任せられた
なんだかんだで男爵は鏡さんのペースに乗せられているような。
鏡さんが
「ふむ。鏡といったな。貴様が望むならば、我が配下に加えても良いぞ」
「え? やだ」
鏡さんはいつもの笑顔のまま。けれど
なんだか怒っているような。悲しそうな気配だ。
「金や名誉、地位すらも
「いらなーい。だって欲しくないもん」
確か鏡さんは
面白くなかったのか、男爵から溢れる雰囲気が
かつ、こつ。ブーツの足音を響かせて、男爵が鏡さんへ近寄る。多々良くんや大和が動こうとしたが、鏡さんが背中
「ならば貴様の全てを奪ってやろうか?」
「もう
骨の手が首筋を
私にはそれが恐ろしかった。男爵への
硝子玉みたいな瞳に、熱が宿っている。真っ赤な、
「ソフィアのことを
誰だろうか。女性の名前だとは思うが、初めて聞いた。
大和も私と同じだったが、宮林さんと多々良くんだけが表情を
毒がじわじわと広がっている気分だ。目に見えないのに、確かに
「知らぬ」
男爵は興味がなさそうだった。三文字の返答。
「じゃあ僕達は絶対にわかりあえないよ」
にこにこと笑顔。無邪気な言葉。けれど明確な
怖い。
「だから僕は
首筋を
白い首筋に赤い
「真か?」
「フェデルタと約束したの」
その名前を聞いた瞬間、男爵は肩を震わせた。
「ふっ、は、はは! ははははははははは!! あの
「六つ揃えば、自動的に大家さんが七つ目を渡してくれる。だから今だけ錠を
「はははははははは!! ――それに我が頷くと?」
大変気まぐれな男爵。とても面倒な相手だ。ムラっ気が強すぎて、一秒前の
「だってフェデルタを捕まえられないよね?」
笑顔の鏡さんが床に
一瞬だったが、
「生意気な口を
もう一度髪の毛を掴もうとした男爵の前に、気付けば飛び出していた。
手には黒い木刀。切っ先を向ければ、男爵は用心深く
「私達に非があるのは認めよう。だがこれ以上の暴行は見過ごせぬ。後は司法に任せ、公平な判断を
「法律など知ったことではない! 我こそが規則であり、
なんて
だが
「人骨が生きているなど、魔法以外には考えられぬ。ならば――私の固有魔法は天敵だろう?」
「っ、くく! 魔女の魔法に
「ならば命を
十羽を
まあ、私が言えたことではないが。鏡さん、意外と怖かったし。
「こうなれば私達も逃げるぞ! 大和は鏡さんを背負ってくれ! 多々良くんは宮林さんを! 私が箱を運ぶ!」
「……ハコだけにっすか?」
「ふふっ」
「親父ギャグではない! いいから走れ!!」
その先はよく覚えていない。
狭い廊下で
ただ
「よお。面白い見世物だったぜ」
まるで狙いすましたように大家さんが待っていた。
宮林さんは気絶しているし、鏡さんも大和の背中で
そんなに心配せずとも、鏡さんだって一応成人男性なのだから。か弱くないと思うのだが。まあ多少細身すぎるのは気になるかな。
「おら、さっさと箱を開けろよ。魔法の宝箱だ。お前の固有魔法なら楽勝なはずだ」
「はあ……」
なんとなく大家さんを信用していいかわからなかったが、大和が
木刀を一振り。一羽の燕が箱にぶつかり、消失した。立方体パズルのように宝箱は開いていき――。
「どういうことだ?」
空っぽという事実だけが私達に提示された。
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