3話「蝉のラブソング」

 なんで夏のトウモロコシというのはこんなにもあまくて、ばんにんりょうするのか。

 目の前でうれしそうにトウモロコシをほおる大人を見ていると、そのかんがいも深くなるというものだ。

 まあ調理であせだくになったおれ――雑賀さいがサイタの苦労が少しだけむくわれたしゅんかんだろう。あー、暑い。


 なにせそうめんしおでの枝豆も準備したわけだしな。トウモロコシはラップに包んでオーブンとはいえ、台所は湯気祭だ。

 けれど大和だいわヤマトのぎわが良く、ラップに包むのもめんつゆを作るのもやってくれたおかげで効率が格段にちがった。助かるぜ、筋肉アルバイターこうはい

 多々良たたらララも食器運びとかやってくれたし、天鳥あまとりヤクモも口うるさかったがはいぜんれいに整えてくれた。


「あのー、洗い物手伝いますか?」


 そしてやさしく声をかけてきたのは青路あおじミチル。どうも青路あおじシュウの妹だとかで、かがみテオと知り合いらしいが……俺にはよくわからん。

 外見はわいいこけしみたいなんだが、こんいろのセーラー服が個人的にいやな予感しかない。はんそでなのに白ではないのが特に。

 具体的にはへその辺りが痛みやかゆみにも似た感覚でむずむずし、背中にあせが流れる。まあ深く考えないように努めているだけで、この感覚の答えを俺は知っているんだがな。


だいじょうだって。なにせ……半同居状態のやつでも手伝わないろくでなしがいるからな」


 俺のいやめた言葉なんてどおり状態らしく、くるるクルリが生欠伸している。ねこみみフードが腹立つ光景だ。

 鏡テオもつられてねむそうだが、まあこちらはようしゃしてやろう。何事にも向き不向きってのはあるんだ。できる、と、やれる、はみょうに違うんだ。

 れいぼうが効いた部屋なんだが、今年のもうしょすさまじい。エアコンががんっていますとうったえんばかりに音を立てている。


「まあすわっているのがもうしわけないってんなら、素麺の皿でも運んでくれ」


 づかい屋さんな女の子に対しては、なんでもいいから用事をたのんでおく。まあ現小学生の妹が似ているような、じゃっかん違うような。


「はい、雑賀さん」


 お、笑った。ついでにきゅんとした。俺には似合わない単語が出るくらいに、青路ミチルのがおは可愛かった。

 もう少し成長して、かみばして、大人っぽくなると……クラスの中にいる物静かながらも目をかれそうな清純系女子の気配。

 意外と好みドストライクかもしれない。問題は妹の一人と同い年くらいにしか見えないことだ。そういう視点しか持てない。


「あ」


 若干よこしまな考えを持っていた俺へのけんせいなのか、塩でした枝豆を食っていた青路シュウの方向からまめでっぽう

 こん、と軽い音が俺の近くのかべひびいた。ま、まあ夏場にはひんぱつする事態だ。サヤから豆が出なくて、力を入れたらじょうを飛行するなんてな。


「悪い悪い。それにしても茹で加減か……枝豆いよ」

「そ、そりゃあ良かった……」


 照れた青路シュウは、豆を拾いながら俺をめてくる。その顔を見つめると、やはり薔薇ばらの形をしたあかあざに注目してしまう。

 綺麗なんだが、あかとげがあるというか。整った顔立ちに合わせるには、少し派手すぎてかんが大きい。


「ん? お兄さんの顔にれたか? 母親ゆずりのぼうなんだ」

「ははは……じゃあ妹は父親似か?」


 美形な表情で自画自賛する青路シュウのじょうだんに対し、俺は苦笑いで返しておく。

 しかし青路シュウと青路ミチルはあまり似ていない。まあ俺も妹たちに「顔が似なくてよかった」なんて言われるから、そんなものだろう。

 なので話の流れ的に聞いても問題ないと思いながらたずねてみたが、青路シュウが拾った豆をゆかに落とした。ころ、と転がって机の下に。


「……似てねぇよ」


 小声で、こうげきてきにも思えることづかい。すがにわかる。んではいけない分野だったらしい。


「そういえばチヅルはミチルにそっくりだったね!」


 空気を読まない鏡テオだが、俺にとっては救いの手だった。

 再び豆を拾い上げた青路シュウの気配が明るくなった。デレデレとした顔で、どうやらまんの妹と弟らしい。


「だろうー? どちらも可愛いだろう!」

「うん!」


 なるほど。なんとなく鏡テオとあいしょうが良好な理由がわかった。

 枢クルリが動かないねこのように、じっと青路シュウを見つめている。むしろにらんでいる。なにか起きればすぐに動き出しそうだ。

 三秒ルールが適用されなかった豆は残念ながらゴミ箱へ。席にもどった青路シュウは弟について自慢し始めていた。


「またチヅルの話……」


 不満そうに青路ミチルがつぶやいたのが聞こえた。大好きな兄が他のきょうだいを自慢するのが気にくわないのか。

 いいなあ。うちの妹もこれくらいの可愛げがあればな。となりしばは青いと言うが、青々としているな。

 調理もしゅうばんというころ、俺のけいたい電話に着信。大和ヤマトに続きを任せ、音がれる前に通話モードを起動させる。


『どうも。くぬぎです』


 しょうすいした声。どうやらようやくこずえさんのせっかんが終わったらしい。おつかさまなことで。

 それにしても電話なんてめずらしい。いつもは特にねした様子もなく部屋に入ってくるのに。


『ビースト……じゃなくて青路さんのことなんですけど』

「ん? ああ」


 なんかとくちょうてきな単語が出なかったか。ビーストとか。少しカッコイイじゃねぇか。

 だが二十歳はたちえの男にするには、かなりキツいあだ名だぞ。俺は名付けられたくない類いだ。


『なるべくぼっちゃんに近付けたくないんですが……』

「無理だろ」


 電話の向こう側から深いいき。というか、それくらいは鏡テオの護衛ならわかりきっていることだろうが。

『じゃあ一つ付け加えますと、俺の副業先の仕事仲間なんですよ』

「ああ、本業よりも楽しんでるといううわさの」

だれから聞いたんすか!? まあその話題は横に置いときまして……七つの童話に答えたんで、枢さんに助けを求めただいなんですが……』

「結果出る前に俺達か」


 重いちんもく。仕方ないだろう。鏡テオがストリートライブしているのが、俺達が通学に使う駅前なんだから。

 しかも期末テストの時期なのに昼間にやっているとか、計画の一つとしか思えない。実際は計算ぜろの天然なのがすえおそろしいんだが。


『こっちはあずさに頼んで身元調査してるとこなんで、問題起きないように気遣ってください。それじゃあ』


 通話が切られた。もう一度、心の中で言っておくぞ。無理だろ。

 こちとら好きで問題を起こしているわけじゃないし、むしろ勝手にやってくる始末なんだぞ。

 予防もなにもないんだよ。携帯電話をポケットに入れて、しょくたくへと向かう。大和ヤマトのおかげで昼食は完成していた。


「じゃあ俺も食べるか。全部食われる前に……」


 みがすごい。バキュームというか、そうみたいな。多々良ララと大和ヤマトの勢いはブラックホールで例えても良いかもしれない。

 鏡テオが食べる量が赤子に見えてきた。大食い二人を初めてたりにした青路シュウのはしが止まっていた。

 もちろんテストで脳をこく使した俺も負けてない。半ばやけ食いの調子で麺をすすっていく。

 天鳥ヤクモは単語帳片手に食べているが、そんなことでは素麺はあっという間になくなる。枢クルリにねぎも大量に入れられてるし、気付けよ。


「わ、若いな……」


 青路シュウの苦いみも気にせずに平らげていく。

 そうして俺達のへんてつのない昼食は、意外とあっさり終わるのであった。




 期末テストしゅうりょう。後は夏休みにとつにゅうするのを待てばいい。結果など気にしない。これから帰っててやる。

 過去なんてかえらずに前を進むべきだ。そう、英語とか特に。ただ今回は東京でのさわぎが原因で、テスト問題を軽くしてくれたそうだ。

 おかげで先生達もようやくかたの荷が下りたようだ。どこかあんした顔で職員室へと向かっていく。


「あの……雑賀くん」


 帰ろうとんでいた俺の耳に、ひかえめな声。けばいわいずみノアが立っていた。

 顔を赤らめた様子はういういしく、少し困っているような八の字まゆおくゆかしい。言いだそうにも勇気がでないらしく、声をまらせている。

 なんだかふくみのある気配に、期末テストを終えた俺の思考が、テンションを上げた。まさか夏前にこいびとを作ろうという、女子からの告白か。


「放課後……ここで待ってるから!」


 された手の中には愛らしい便せん。周囲がいっせいにどよめいた。

 俺が受け取るのをかくにんし、岩泉ノアはずかしさにつぶされてした。教室の外に出たかのじょを、何人かの女子が追いかけていく。

 そして俺はというと、同じクラスの男子からげるべく、通学かばんかかえてそくにダッシュ。げんえき野球部員のきゃくりょく伊達だてではない。


 冷やかされる前にしょうこうぐち辿たどいた俺は、念のため門前まで便せんの中身は見ないことにした。誰かにのぞかれたら困るからな。

 携帯電話でメールを一斉送信。用事ができたから、各自で昼食準備するように。まあお土産みやげくらいは買ってきてやろう。

 しかし岩泉ノアか。意外な相手だが、俺としてはありかなしで言えば――ありだ。


 指定されたファミレスに辿り着いた俺は、現実を知る。


「……こんにちは」


 小指で眼鏡をくいっと上げるおじさんが声をかけてきた。全てをさとった。

 これ、わなだったんだな。ハニートラップという奴か。男って本当にチョロイな。

 全部俺のことなんだけどな!! ちくしょう!!


「なんでアンタが!?」

「職場の昼きゅうけいでよく使う店でな。好きなものを頼むと良い」


 いわいずみようこうは平然とメニュー表を差し出してきた。くしているのも変なので、俺は仕方なく向かい側の席に座る。

 よーし、社会人のおごりだ。しかもおえらいさん。腹がはち切れるくらい食べてやる。

 まずはハンバーグセットにデザートは定番で、ついでにつまめるサイドメニューでドリンクバーもつける。


「ちなみに私はこのかき氷が食べたい」


 若者が大好きなSNSえのかき氷。しかもげきあま注意報付き。おい、おっさん。余計な個性を見せてくんな。

 噂のかき氷はハートや星の形にカットされた固形ゼリーに果物、さらにはとろっと練乳まで盛りだくさん。多々良ララと似たセンスか。

 ウェイトレスさんが俺とおっさんの顔をこうに見ながら注文を受けてくれた。絶対裏側でどんな組み合わせかと噂されているんだろうな。


「……ここに色欲の候補リストがある」


 まるで町内会のお知らせをわたされるような自然さで、個人情報のかたまりを差し出された。都内だけでも数百人規模だ。

 ドリンクを取りに行こうとした俺は、ちゅうごし姿勢のまま固まってしまった。数秒後、俺はドリンクを優先した。

 いや、いきなり札束を出されても困るだろう? それと似たようなじょうきょうで、喜んで飛びつくなんてほうきわみだ。


 かんきつけいの炭酸飲料。スープバーからコンソメスープ。その二つをテーブルの上に置いて、次は温かいココアにホットミルクを混ぜ合わせておこう。

 冷房が効きすぎていると冷たいものだけではおなかこわすからな。飲み物だけでもばんぜん体制にした俺は、静かに座る。

 机に出された小さな冊子。その上にすいてきが付着しまくっているグラスを置く。じわりと、灰色の水みが紙に広がっていく。


「いらねぇ」


 当たり前の返答。見知らぬ誰かの情報なんて、俺は抱えたくない。


「だが候補を集め、きたるべき時に備えるのだろう?」

「……?」


 少し考えても、なにを言われたか要領がつかめなかった。ただなんとなくすれ違ったような、平行線の上にいる気分だ。

 上りと下りの電車が同時に駅構内を過ぎ去っていくような、日常にありふれた感覚。


「きたるべき時ってなんだよ?」

とびらだ。いずれ開くのだろう」


 まあかぎじょうがあるからな。扉も何度か単語として出てきたのをおぼえている。

 でも開くかどうかなんて決めていない。いや、それ以前に――俺達は大和ヤマトの家族をもどしたいだけなんだ。

 なんだろう。扉という言葉に嫌な予感を覚える。激しいだくりゅうまれた水球を、がらしにれているような。ぞわりとする。


「私は閉じたままにしておきたいが……鍵がそろえばはや時間の問題だ。ならば鍵の『質』くらいにはかんしておきたい」

「引っかかる言い方だな」

「単刀直入に告げよう。青路シュウだけはやめろ」


 ああ、そんなことか。


かれはあまりにも問題が多い。下手すれば鏡テオ以上だ。めんどう事はおたがいに無関心でいたいだろう?」


 まあな。けれど。


「彼以外の誰でも良い。他を選べ」


 無理だろ。そんなあつかい。


 ウェイトレスさんが笑顔で持ってきたハンバーグセットはじゅうじゅうと音がしていて、米もふっくらとしそうだ。

 だけれど俺は味わうというより、む勢いで食べていく。一秒でも速く終えられるのを目標とした。

 サイドメニューのフライドポテトも同じだ。無言で平らげていき、炭酸飲料を一気飲み。肉体的にげる感覚なんて無視する。


「ごちそうさん」


 目の前でかき氷がようやく届いた。眼鏡の位置を直しながら、岩泉洋行はだまって俺を睨んでいる。


「俺、くわしいことはよくわからねぇけどさ」


 もちろん青路シュウをかばう義理も、事情も、特にないけれど。


「そういうやり口はだいきらいなんだよ」


 選ばれない。他の誰でも良い。そんなのは大嫌いな童話を思い出す。

 助けてくれた相手ならば、誤解したままでも構わない王子。それをていせいしないはなよめ。選ばれなかったにんぎょひめ

 痛む二本足で地面をんで、大好きな男に辿り着いたおひめさましつれんしました――なんて報われない。何度聞いても、大嫌いしかかばない。


 五千円札をテーブルにたたきつけて、ファミレスから出て行く。奢りなのも嫌になった。意地っ張りくらいつらぬかせてもらうぜ。

 ガキっぽくおこった俺の背中をまどしに見つめながら、岩泉洋行は小さく呟いた。


「……ならばこうかいしろ。君が決めた道だ」


 そしてかたぶつサラリーマン風な外見に似合わないかき氷を、美味しそうに食べ始める。後に、SNSでその様子を拡散されたらしい。




 真っ黒な重い雲から、のうみつな水滴が落ちてきた。コンクリートの上でれつして、花火みたいな模様をえがく。

 それも無数に増えて、コンクリートを真っ黒にしてしまう。青や白がよく似合う気候が、あっという間に重苦しくなってしまった。

 ぼく――鏡テオはほうに暮れてしまう。こっそりと部屋をして、自由に散策していた矢先だ。


「まいったなぁ」


 りたたみがさは忘れてしまったし、あまがっもない。背中のうさぎリュックの中にはおとか携帯電話とか、そういうものだけだ。

 バケツをひっくり返したような雨を、閉店したのきさきながめる。息苦しいくらいに暑いし、湿しっひどい。

 コンクリートジャングルという言葉がとてもよく似合う。建ち並ぶビル群が灰色の木々で、路面を流れる水が小さな川だ。


「ねえ。チヅルは帰らなくていいの?」


 音もなく横に立っていた彼に、視線を向けないまま声をかける。

 本当は気配なんて掴めなかったし、今だって横にいる自信なんてかい。けれどふとしたひょうに隣に存在していると思った。

 そんな童話も知っている。昔、大好きな人に読み聞かせてもらったから。


「どこに?」


 返事があった。そしてとても難しい質問をされてしまった。

 僕はクルリみたいに考えるのが得意ではないし、正しい答えなんてよくわからない。

 だからおもかんだことを口に出すしかなかった。


「チヅルが帰りたい場所」


 雨音で消えてしまったのか、返事はなかった。

 ゲリラごうのせいで視界がくもってしまったようにめいりょうだ。車のヘッドライトの明かりも遠い気がする。

 世界が雨のせいで区切られたみたいだ。行き止まりに立ち尽くして、どうにかならないかとぼうぜんと見上げるだけ。


「人を殺したんだ」

 今日の給食にカレーが出たみたいな、気軽な声だった。

 だから僕も同じ調子で、


「どれくらい?」


 なんて尋ねてみた。


「たくさん。多分ね」

「変なの。まるで覚えがないみたい」

「うん。だってそういうものだから。人間も、幸せも」


 最近の流行は達観なのかもしれない。ずいぶんと視点の位置が高い。

 共感できるかって言われたら、少しまどってしまうけどね。まあ、そうなんじゃない、なんてありきたりな感想だけ。

 本当はもっと身近な視点がいいな。たとえば明日はチャーハンが食べたい、なんて楽しい内容が浮かべば幸せ。


「生きるってそういうことさ」

「違うよ」


 明確なこんきょはなかったから、条件反射で声が出た。

 真っ黒な雲が少しずつうすれて、白くなっていく。雨の気配が遠ざかっていくと、せみの声が耳に届いた。


「七年間眠った蝉が、七日間生きるために鳴く。まるで歌ってるみたいだよね」

「うるさいだけさ」

「あれはこいの歌だから。でも地面に転がった蝉が、結ばれたかなんて僕らにはわからない」


 もしかしたらフラれたのかもね。だけど運命の蝉に出会って、なにかを残したのかもしれない。

 だから来年も恋の歌が耳に痛いほどひびわたって、夏がやって来たと喜ぶのだろう。青空まで届いて、僕達は苦笑いだ。


「生きるってそういうことだよ」

「……」

「僕達は生命をおうしてるんだ」

 

 太陽の光が雲を割って、目にんできた。思わずまぶたを閉じて、聞こえた内容にすぐ反応することができなかった。


「生まれてこない命もあるのさ」


 ゆっくりと瞼を上げれば、横には誰もいなかった。

 駄菓子屋の軒先には僕一人だけ。立つ鳥があとにごさなかったから、本当に存在していたかもあやしい。

 青空が姿を見せて、世界がつながったみたいに人々が目の前に現れ始めた。


「……うーん、シュウはやっぱり気付いてないのかな」


 梓が色々調べているみたいだけど、多分それはあまり必要ないだろうな。

 だって根底がちがっていたら、大木だってくずちてしまうから。こわいのはがいなのを忘れてはいけない。

 歩き出した僕は、水たまりにあえて足をむ。水がはじけてがった。きらきらと光を受けて綺麗だし、楽しい。


れんきんじゅつ機関だっけ? ソフィアが関与してたなら……僕でも辿たどれるかも」

「その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 目の前に白い服がよく似合う女の子が立っていた。綺麗なくろかみに、黒しんじゅみたいなひとみ。ただふんだけが怖かった。


じんさん?」

「……そうだ」


 僕の言い方に引っかかりを覚えたのか、返事に間が空いた。まあそれはどうでもいいかな。

 必要なのは「彼」が僕に声をかけたきたということなんだろうね。


 だから僕はこっそりと、秘密の計画を打ち明けた。

 錬金術師機関から「錠」を全部ぬすんでしまう、かいとう大作戦を。

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