2話「ブランチに誘われて」
期末テストよりも優先すべき事態。
そう、昼飯だ。
英語なんてな、世界の
それくらいは俺だってわかるんだぞ。要は勝てば官軍。
でっかい戦争での勝者が使っていただけ、という理由だって歴史の先生がな。
だから多少英語の結果がやばそうという現実から目を
いいんだ。俺は日本人。日本語で生きていく。
とりあえず特売の字だけは
安売りしていたトウモロコシを大量に
すると
時間を確かめる。昼前の十一時。青空が
七月の気候を考えれば暑くなり始めの
なにより鏡テオの白い
ふと、
いいや、
ラフな白シャツにジーンズ。それだけなのに手足が長いせいか、モデルかと
でもオーラ的な物が少し足りないというか、自信が欠けているような印象の男だ。
明るい茶色の
男の
こけしみたいな
というか……
そして視界に入れたくなかったが、着ぐるみ男をジャイアントスイングする
「
「今回は
不細工な
そんな背景はお構いなしに歌い続ける鏡テオ。あの度胸だけは見習っておきたい。
少しでも
なにせ聞き慣れているはずの俺でさえ、一曲終わるまで日射が強い場所で聞き続けたくらいだ。
鏡テオの歌だけは俺も無条件で認める。あれが才能だ。
歌い終わって、
すると俺に気付いたのか、鏡テオが手を
一気に視線が俺に集まった。大量にトウモロコシを買い込んだ男子高校生が、目の前にいるストリートミュージシャンとどんな関係なのか――
しかし
「サイター、ララー、ヤクモー」
ようやく理解した。同時に
いつの間にか俺の背後で無表情のまま手を振る
ああ、そういえば天鳥ヤクモは受験生だったな……期末テストやばかったのか。
「ガリ勉のくせして効率悪いな」
「クルリぃっ!?」
相変わらず仲良いな、こいつら。
あの枢クルリが
――いや、なんで引きこもり
俺は枢クルリの顔を
「クルリ、最近アクティブだな?」
「……ちっ」
まじか。枢クルリが反論もせずに舌打ちだけ返してきやがった。結構珍しいぞ。
ストローをがじがじと
それに気付かず天鳥ヤクモが説教しているが、効果なし。
「というか駅前でそんなに
多々良ララの発言に、俺は改めて気付いた。
枢クルリは
そういえば最近の運動会では日射や気温
「許可は取ってある」
それだけで終わり。説明する気もないらしい。
「ふーん。で、
お、多々良ララが
まあ女子に日焼けは大敵だしな。特に多々良ララはしっかりと白い肌をキープしているようだ。
あ、
多々良ララの固有魔法【
スカートから
「む……わ、私も日傘の下に」
「定員オーバーです」
「どう見ても
暑さで頭が働かない天鳥ヤクモも、
というか、その学校指定の白ベストを
「じゃあ俺も」
「重量オーバーです」
「その猫耳引き千切ってやろうか?」
俺にも
野球部用に短くした黒髪からも汗が垂れ落ちていく。左眉上の古傷にも
日焼けした肌は相変わらずで、白シャツと赤地に黒の漢字が
「まあクルリが外出している理由は明白だな」
扇風機の風を浴びて少し立ち直った天鳥ヤクモが、
「
と視線だけで薔薇の痣を持つ男を差す。
その男は妹と
背後では
サングラスが飛んだが……まあ、いつものことだな。
「七人目か……意外と早かったな」
「これだから眼鏡は
「お・ま・え・が! とんでもないことを計画したのが
パーカーの首元を
けれど枢クルリは負けじと、
「勝手に
と言い返していた。
どっちもどっちだ、
「ちなみに危険度は?」
どんな時もクールイケメン女子は
喧嘩する猫耳
「……わからない」
おっとお。ここで猫耳野郎がめっちゃ
視線はいまだに鏡テオと楽しく話している兄妹に向けられているが。
「サングラスの話では兄の方が童話を選んだという話だが……安直すぎて引っかかる」
「そんないまさら……」
「たまーにあるんだよなぁ。簡単な
それゲームの話だろう、確実に。
「わかるっす。
ヘルメット片手に
近場の
やはりバイクの運転中に
お古なのか、
しっかりした体格と合わさって様になっている。工業高校も期末テストだったようだ。残念なことに全員
「お前ら……昼飯の準備手伝えよ」
こんなに人数が多くなるとは。大量に買ってきたつもりだが、トウモロコシが足りないかもしれない。
特に多々良ララと大和ヤマトの食欲は
なんで俺……こいつらの
「ういっす。じゃあ俺は先に帰るので、袋預かるっすよ」
「おお、助かる。ありがとよ」
こういう
俺からエコバッグを受け取ると、大和ヤマトはヘルメットをかぶって
やっぱり、バイク良いな。俺もいつか
と思っていた俺の耳に、
『くぅぉらぁっ!! 止まれ、変態ライダー!!』
どっかから
大笑いしながら走り去っていく男には見覚えがあった。
仮面
そしてミニパトが
「姉さん……あのやり方は上司に怒られるっていうのに……」
まあ、そうだな。
「話が逸れたけど、とりあえずはこのままで良いと俺は思う」
「
「じゃないと進まないだろう。いいか? 一応俺達の当面の目的はヤマトの身内を助けることだろう」
「そ、うだったな……」
やっべ。忘れかけてた。
それもこれもお前が余計なことをしたからだろう、猫耳野郎……とは言いにくい。
なので続きを大人しく待つ。
「それで
さりげなーく
知識の魔人――ナレッジは大和ヤマトの家族だ。血の
それを
「で、知識の魔人が大家さんの手から
「……あれもか」
もう声すら聞こえない所まで遠ざかった慈愛の魔人。
あれも対象か。俺はどちらの味方をすれば良いのか、なんかわかりづらい。
とりあえずあれを
「あれはあれで
「お前が小賢しいとか言うのか」
天鳥ヤクモが適度なツッコミを入れるが、それを無視した猫耳野郎は続ける。
「一番難しいのは忠義の魔人だろうな……
「餌?」
「お前だよ」
「俺は
「小魚が
「よっしゃあ!! その喧嘩買ったぁっ!! 表出やがれ!!」
「
ああ言えば、こう言う。なんて生意気なんだ、こいつ。
天鳥ヤクモと再会して以来、特に口が達者になりやがって。
「ヤクモぉっ! 俺の味方をしろぉっ!」
「え!? いや、あの……まあクルリの考えがわかるような気も……」
「お前がそんなんだから、こいつがつけ上がるんだろうがっ!! しっかりしやがれ!!」
「ええっ!? しかし最近の付き合いでいうなら雑賀の方が上……」
喧嘩する俺を多々良ララが冷めた目で眺めながら、
「家族ドラマのさ『お父さんもなにか言ってちょうだい』からの『俺は
「長い説明どーも」
と解説し、枢クルリは呆れていた。
「サイター、ヤクモー! なにやってるの?」
「ここで末っ子の
「その茶番は続くのか」
むしろホームビデオの大型犬乱入の間違いじゃないか。
というか、誰がパパとママだ。おい。
「あのね、最近お話しして仲良くなったの!」
「あん?」
「こんにちは。
「は、初めまして。青路ミチルです」
これがまた
大和ヤマトとは違う
「どうも。雑賀サイタです。えーと、こっちが多々良ララ」
「よろしく」
「天鳥ヤクモです。こちらは
「……どーも」
「テオから聞いてるよ。
すげぇ。おそらく
大人だ。これが大人の対応力だ。
なんていうか俺らに足りないのはこういうのではないのだろうか。
「じゃあ俺は夜から仕事だし、そろそろ帰るよ」
「えー? お昼一緒に食べようよ!
「あのなぁ……お前のそういう
「むー……はぁい」
え? まじで!? 鏡テオが素直に言うことを聞いているぞ。
あの爽やかお兄さん、中々の実力者だな。俺と同じ長男属性みたいだし、まあ七人目でも問題は……あるな。
そうだ。すっかり頭から
残った童話は「美女と
つまりこの爽やかお兄さんは――エロいのか?
俺は残念な男子高校生だったらしい。
けれど一度はそう思ってしまったので、
ちなみに固有魔法所有者かどうかなんて、
「でもサイタのご飯は
「
「トウモロコシ……」
おっと、ここで爽やかお兄さんの目の色が変わった。
「……えー、ごほん。ま、まあ
「あ、そういうの別に良いです。こいつらも基本は飯
そわそわしながら
まあ大和ヤマトと枢クルリ、鏡テオはしっかりと食費を頂いているしな。多々良ララに関しては……今後に問題を置いておこう。女子だし。
「妹さんも一緒にどうぞ。
「
「余計なお世話だ、この天然!」
鏡テオの一言に俺が怒る寸前、
全然痛くないらしく、鏡テオは照れたように謝っている。どうやら相当
考えてみれば鏡テオと同年代のは、今まで身近にいなかったな。
「じゃあこっちです」
「悪いね。お兄さんのことは気軽に呼び捨てで良いし、敬語もいらないよ」
「
「
そう言って見事なウィンクを決めた。これは中々の
慣れていないと大体が変顔になるからな。
男の俺でも思わず
「兄さん……」
「ん? どうしたミチル……ああ、チヅルにメールを入れておけってことか」
「どうせメールなんて届かないよ。そうじゃなくてね……」
「おいおい。
けれど具体的なことはわからない。ただなんか変というか、
頭を
時折、
そんな俺達を見下ろす
青空に浮かぶ
しかしフェデルタの表情は厳しいもので、
「おい。一番
『彼はハズレくじを引く天才なのかな?』
海の中でイルカが
「最悪のルートだ。場合によっては……隠しきれない」
『ただでさえ
魔法管理政府の日本支部は連日のように起きる事件のせいで、対応が後手に回る羽目になっていた。
それは当然、支部長の責任問題や
「……最後まで
『待ってくれ。私が君を
彼にしては珍しい弱気な声に、フェデルタは
「もう
『しかしだな! こうして私が大成できたのは君が助けてくれたおかげで……』
「いいや。お前の実力だ。俺はなにもできないさ……昔からそうだった」
海のような青い瞳に
浮かんでくる
最善を選んでいるはずが、いつの間にか最悪に
「お前は過去の事件を洗いざらい調べてくれ。そして真実を掴め」
『父親殺しの件はもう
フェデルタはそれを静かに聞きながら、真っ青な空を見上げる。
海の底から水面を
「そうでもないさ……犯人が『人間』とは限らない」
『それは『
「調べろ。あいつらが真相に
言い終えて、フェデルタは一方的に通話を切る。
青空を見上げながら体を
頭から落下していたはずの少年は誰にも気付かれず、静かに消えた。
代わりに白い
流れる黒髪に、黒
「はぁ……」
呆れたように溜め息を吐き、少女――フェデルタは人波に
「誰が殺した
それだけが残された忠義の証明であると信じているから。
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