色欲編
青い鳥を追いかけて色欲から逃れたいビーストパスト
1話「ラストのラスト」
暑い。痛い。苦しい。しかし
重い。体も、空気も、心も。
視界が揺れる。内臓を
本ではこれが愛情の確かめ方とあった。宗教では人間の罪とあった。どちらを信じればいいのだろうか。
一つだけわかるのは、この
実の子供を
ああ、早く決めなくては。この男が赤ん坊に手を出す前に。
――殺さないと。
暑いなー、と
ストリートミュージシャンとはいえ、こんな誰もが
ゲーム、映画、アニメ、本。なんでもいいから新しい物に
家庭的な曲、とかどうだろうか。しかし僕はそういうのに
やっぱりサイタに聞くのが一番かな。もしくはヤマト。なんかララとクルリは僕とは違う感じで家庭という
首筋くらいに
「
結局、口から出たのは
仕方ないから起き上がる。平日の昼間はサイタ
東京って美術館や個展
ブランド品から手作りまで。その人の個性が表れている。服装よりも、
中にはアニメやゲームのキャラクターの
そうやって気ままに歩いていたら、どうにも学生服を多く見かける。駅前なんかでは期末テストの結果を話し合っている学生がいた。テストがあると、授業って早く終わるのかな。
すると使い古したエコバッグと、お守りの青い鳥形の
小走りの少女を見失わないように歩く。青い鳥を追いかけるなんて、まるでソフィアが話してくれた童話みたいだ。ああ、確かそれは少しだけ悲しいような、綺麗で、希望が
少女が立ち止まる。よく見るととても小さい。中学生かな。こけしみたいな
半袖のシャツに黒のスラックス。それだけだと会社員みたいだけれど、
「おい、
「うん。鈴の音、綺麗だったから」
「……は?」
妹を背に
僕としては困らせたいと思ったわけではないし、同じ鈴を持っている他の人に
「その鈴の商品名が知りたいんだ」
「
「もう、兄さん。えっと、あの……もしかして駅前でよく歌ってる、白雪さんですか?」
「そうだよ。えへへ、なんか知ってもらえてて
自分の知名度なんてわからない。CDがどれだけ売れているかも椚に任せているし、僕はただ好きにやるだけ。だからこそ
「クラスの子に曲
「そう? じゃあこれあげる。困らせちゃった……お礼?」
「お
「それそれ。いやー、
兎リュックの背中に手を
CDを受け取った少女は少し困った顔になったけれど、大事そうに
「じゃあ僕はこれで。すーいきんすずー」
「待て待て待て!」
商品名を忘れないために適当なメロディで歌う。そのまま去ろうとした僕のパーカーフードを
軽く首が
「タダでは
「気を
「……成人だよな? その思ったことを口からポンポン出すのは
「歌手だからかな。本音を口に出せないと、歌詞にするって難しいんだよ」
「まあいいや。なにか食べたいのは? 高いのは無理だけど、量に関してはオススメの店があるんだ」
「じゃあ家庭的な味!」
そうだ。これは新曲の
ただ彼は理解不能といった顔をしている。なにか変なこと言ったかな。まあいいや。僕は期待を
少女とひそひそ話をした彼は、
「仕方ない。俺達の住居に来いよ。丁度、昼飯を作るところだったからな」
エコバッグを掴んだ彼は、僕を手招きする。少女の方も戸惑いつつ帰り道を
半ばスキップしながら僕はついていった。
「改めて。俺は
「僕は鏡テオ。えっとね、
兎リュックの中身を
ミチルは小さな台所で
名刺入れを拾い上げて、一枚取り出す。古い電灯が必要ない昼間で良かった。どうやら僕の名前は日本人にとって長くて読みにくいらしい、シュウも
「英語……じゃない?」
「あ、それはドイツ語の方だった。ごめんね、こっちが日本語用」
失敗しちゃった。色んな国を
それでもシュウは名刺から目を
「日本語ペラペラだったからカラコン使用した派手な奴かと思ったんだが……」
「僕、言語を覚えるの得意なんだ。特にリスニングは」
少しだけ
「これって
「
「どうして? アンティークみたいなものでしょう? それともヴィンテージかな」
「そういう
快活に笑うシュウの顔を
最中、鼻を
「あれは?」
「勉強机だよ。ちゃぶ台は一応食事用な。まあ俺から兄妹への入学祝いみたいなもんだ」
小さなライトと参考書が置かれた四角い机が一つ、
視線を動かすと鏡台が一つ。こちらは勉強机よりも古くて、木目に味が出ている。
「親は?」
「どっちも死んじまったよ。まあ昔の話さ」
打ち切るような、強い言い方だった。もしかして聞いてはいけないことだったのかな。
「そうだ。おーい、ミチル。チヅルから
「ないよ。いつものことだよ、兄さん。どうせ私達の知らない所にいるんだよ」
「全く、仕方ない奴だな。学校もサボっているみたいだし、なにやってんだか」
「誰?」
「俺の弟で、ミチルの
湯飲みに入れた麦茶を一気飲みするシュウだったけれど、そんなに
「へえ。僕もお母さんが死んでて、双子の弟がいるよ。なんだか似てるね」
「まじか。ははっ、
笑い合っていたら、お皿と
お箸が使えるか
けれど足りない。どうにもこの違和感が消えない。でも美味しそうな冷やし中華を目の前に、僕の疑問は
「じゃあいただきまーす!」
「どうせチヅルは外食だろうし、好きなだけ食え。ほら、ミチルも」
「う、うん」
妹のお
でも部屋の
「そうだ、今度CDプレーヤーを買ってきてやるよ。早めの誕生日プレゼントな」
「え? でも……」
「それくらい
ミチルの頭を
お
「じゃあ僕は行くね。お昼ご飯ありがとう、美味しかったよ」
「おう。駅前で歌ってんだろ? 今度暇があったら寄ってやるよ」
「えへへ。それは張り切っちゃおうかな。あ、そうだ。シュウはどんなお仕事?」
「接客業だよ。トークとお酒、少しの
その言葉に僕は
もう一つ、新曲の手掛かりを手に入れた。僕は鼻歌交じりに歩いて行く。メロディラインは今から決めてしまえばいい。筆も紙も必要ない。
歌声だけで音楽は作れるのだから。
夕焼けを背に、駅前で歌う。新曲
夕焼けの下では少しだけ
長い髪をひとまとめにして、馬の
「こんにちは。うちの兄貴と妹が世話になったみたいで」
「僕の方こそ。えっと、チヅルでいいのかな」
「まあね。本当はチルチルって名前だったんだけど、それは日本ではきついと思ってさ」
小首を
半袖シャツに
そのせいか中性的な印象だ。チヅルは会えて満足したのか、青い鳥の鈴が鳴る学生鞄片手に背中を向けた。すると不思議な気配。
「ねえ、チヅルって固有
「そうだよ。ミチルは通常者だけどね。二人に一人は当てはまる……ありふれた話さ」
意地悪な物言いだった。
鳥は飛び立っても羽根を残すわけではない。
まるで最初から存在していなかったみたいに。僕はただ
薄暗くした室内に派手な光が散っている。
まるで
「ねえ、ビースト。七つの童話から
並べられた物語を前に、男は一つを口に出す。
しなだれかかる女が問いかける。どうして、と。
「獣は愛されたって、人間にはなれないからだよ」
「うふふ。ビーストなら大丈夫よ。ね、シュウ?」
「さあ。今だって誰かに愛されたい獣なのかもよ、俺は」
酒で
サングラスのホストが、今の問いを聞いてしまった。目を丸くして、しかるべき相手にメールを送る。仕事中だと店主に
夕食を待ちわびる鏡テオの鼻歌がリビングに響く。料理をしながら耳に届いたメロディに意識を
「それで? その曲のヒントとなった相手がなんだって?」
「うん、あのね」
心底楽しそうに鏡テオは答えた。
「ほっぺに綺麗な薔薇の痣がある、優しい人なんだ」
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