怠惰編
猫耳は自堕落オールナイトで怠惰に勝利する
1話「猫耳にハローハロー」
少なくとも
そんな
というのも占いの直後に一波乱が起きたが、その後一週間は平和な学校生活というのを送れている。
高校二年野球部所属の
原因ではないが、
なにせ
その横では
それを見てスマホで写真を
横ではいまだにどのパンを先に食べるか
別に
「サイタ、お前最近
「トウゴはネット中毒すぎんだよ。あー、
西山トウゴが俺を
まあ
「彼女が出来ればネット
原西ユカリは空気を読まなかった。
「ふざけんなよ、ユカリ、どうせまた三
「でさでさ、どっちのパンを先に食べようか? チョココロネ? メロンパン?」
本当に平和だなと思いつつ紙パックの中身をストローで飲み干す。
暑い日差しが日焼けした
まだ六月半ばとはいえ、夏は早足でやって来たようだ。
本当はシャツの
「
「
「
こんな夏空の下で変わらずふざけたことで、ぶっちゃけパンの
あの
で、原西ユカリが余計なことを言い始めるわけで、
「トウゴも彼女を作ろうぜー。ネット彼女とかさ、ある意味顔もわからないロマン
など
「いや俺は二次元にしか興味ないから」
断言した西山トウゴの
しかし
前に一度からかった男が、三時間にわたる二次元理論から始まる講演会もどきに
深く追求しなければ西山トウゴは人に強制することはない。
興味があると感知したら
山瀬キオはようやく食べるパンを決めたらしく、ホットドッグを
さっきの二択は一体どこにいったのか。
田原リキヤは次に
相変わらず食べ物運がない。
しかもいつも変な食べ物ばかり買ってくるので、こいつにだけは買い出しは任せられない。
前に一度飲み物を
とりあえず閉じるのとは逆の方向に折りたたもうと上の部分
その気配を察したのか素早くかわし「やっぱりミウたんは俺だけのエンジェル」とか言い始めた。
折ればよかった。
横で瀬田ユウが俺も合コン成功していればとのたうち回っている。
その必死さが彼女ができない原因じゃないのか。
しかし
「でも一人気になるのが最近いる」
「え!? まじネット彼女!?」
「いや男だけど」
「ホモじゃねーか!!」
「
「聞きたくないから話進めろよ」
うっかり濃い二次元トークに入る前に制止をかける。
まあ
ちなみにときキスは有名恋愛ゲームらしく、翼ちゃんというキャラクターはグッズ
なので携帯電話を操作している
最先端の携帯電話が
ツインテール赤縁眼鏡のハイニーソという、これぞ二次元を具現化したような少女を
ちなみに二番目が原西ユカリ。
だから彼女もできるのだが……チャラすぎて大体は
あとは
ちなみに背は一番俺が低いわけで、百六十五より
とりあえずそんな無関係なことを考えつつ、携帯電話を操作する西山トウゴに全員の視線が集まるのだが、
「これ見てくれ」
携帯電話を便利にするアプリというシステム。
その一つで、有名動画サイトに接続できるアプリがある。
西山トウゴはそこのランキング上位であるゲーム
「こいつがやばい」
まずランキングというのは流行によって
その中でチェスゲームという古くから存在するボードゲームがランキングに
「え? なに? お前、このデュフ、デュフフ丸、ぶっは、が気になるの!?」
「いや全然。こいつの実況基本
「でも他の
「問題は相手だよ。対戦相手」
再生された動画には黒の
両方とも真顔で見るにはきつい名前だ。
デュフフ丸の声は思ったよりも
だが相手を
どうも文字チャット形式の対戦ゲームらしくて、デュフフ丸の声しか聞こえない。
流れていく文字でルールを知らない俺は
最初は相手の長考で「俺の実力にビビッてやがりますね」と調子こいていたデュフフ丸だが、後半から
特に
塔の駒が
しかも二つも侵入させていることに
バックランク・メイト――塔
デュフフ丸は
王を取られた直後、キーボードで相手にチャットを送った。
その内容が、
『もう一回勝負しろ』
という再戦の
そのことに対し
ある意味、なにも言えないほど短く。
『やだよ。メンドー』
その後デュフフ丸の
はっきり言ってデュフフ丸の完敗である。
どんな非難の声を上げようと、
主コメというアップロード者であるデュフフ丸のメッセージでは「
情けない奴だ。しょうもない。
しかしこの動画で話題を呼んだらしく「猫耳野郎に
調べれば同じハンドルネームで
そして全ての勝負に勝利している。
今や時の人
ただし本人は文字チャットの会話しかせず、大体は短い返答でたまに返事しない……
しかしオンラインゲームで女性キャラクターに、
「女ですか?」
と聞かれて、
「男ではある」
と言ったことで性別だけ確定したんだとよ。
西山トウゴは目を
やはり
猫耳野郎は猫耳が好き。
それはオンラインゲームでキャラメイクを見た時の感想。
どんなゲームでも必ず装着している。
弱いネタアイテムでも
猫耳大好き男――猫耳野郎。そのまんまか。
昼休みが終わるまで俺はそいつに関連した動画を見た。
あまりにも多いので、西山トウゴにオススメしてもらってよかったかもしれない。
その中で一つだけ気になるものがあった。
投稿者は
チャットによる質問で
俺はその質問に似たことに最近答えた。
流れていく文字では何故か選べないだの意味不明とか、誰も選択していない。
こんなの七つの中から一つ選ぶだけのはずなのに。
猫耳野郎は特に考える時間もなく、簡素に返事している。
『ラプンツェル。塔に引きこもっていれば楽だったのに、苦労するから』
それ以降はチャットもなく七並べでまたもや圧勝する猫耳野郎。
けどその勝利よりも俺は別のことに気を取られる。
選べないはずの七択に答えた。
それはつい最近俺が体験したのと同じだ。
ある可能性として対象にされる――危険な兆候。
なんとか猫耳野郎に会ってみたかったが、相手はネット上の存在。
しかも
俺は
俺と同じように七択から一つを選んだイケメン顔の女子高生だ。
今日はスカートを
「よ。部活帰り?」
「まあな。そっちこそ部活?」
「いや。委員会の用事を済ませてた。アタシ帰宅部だし」
俺と多々良ララの共通点は
あと七択から一つを選び、急に襲われたということだ。
瀬田ユウに頼まれて行った合コンが俺の運命を
と言っても通常者も固有魔法所有者も、どちらも二人に一人は当てはまる。
半々というだけのありふれた話なんだがな。
昼休みで集まった奴らでいえば「
瀬田ユウを
固有魔法ってのは個人によって差異がある。
また所有者特有の色と形を持った
俺だったら右手の平に青い魚の痣。
多々良ララは左足の
魔法の形式と痣によって魔法名も政府から
しかし
だから大体は痣を
そこまで思い出して俺は少し
確か俺を襲った奴は痣を
ネット動画で見た猫耳野郎は質問に答えただけで、固有魔法所有者かどうかまではわかっていない。
調べるべきか、それとも無視するか。
俺はとりあえず秘密を共有している多々良ララに事情を説明する。
「あの質問に答えたゲームに強い猫耳好き男ねぇ……」
「なんかこう、ひっかかって部活に集中できなくて困ってんだよ」
「でもさ、
多々良ララの冷静な発言に俺は言葉を
確かにその通りの話で、別に無視しても問題ない話なのだ。
しかし
なにせ死にかかった身としては、放置するのも微妙だ。
だけど知り合いではないし、本名どころが猫耳好きの男以外の情報を全く知らない相手にどう
頭を
「そういう思い上がり、アタシには
「得意って
「アタシは苦手なんだけどさ、そういう謎の人物ほど誰かが調べてアップするのがネットなんでしょ」
多々良ララは不得手な人物みたいな、ネット特有の
あながち
しかしあんなに秘密主義みたいな相手の個人情報が転がっているものだろうか。
俺は半信半疑で携帯電話を取り出す。
どうせ多々良ララとは同じマンションで帰り道も電車だろうというので、調べながら
並んで恋人同士には見えないほどのイケメン女子とチ……平均身長の俺。
なんだかなぁ……まあ今は無関係な悩みだな。
電車を待つ間もネットの記事を調べていく。
多々良ララは無言でバックから取り出した文庫本を読んでいる。
話しかけられても
クラスの口うるさい女子みたいな扱いしなくて済むし。
そんな関係ないこと考えながらかなりのページ数を見た時、有名総合
題は「猫耳野郎の個人情報特定した」とかいう、ネット用語も使った本気にするのも馬鹿らしい類いのだ。
しかし長時間も画面を眺めて疲れた俺は、無関係だったらすぐに
すると例の
だけどかなり下の方。
誰も見ていないような最下層にひっそりと書かれていた文字に目が
『猫耳野郎、どうやら固有魔法所有者らしいよ』
『マジか、キタ――――――!!』
『ktkr!! くっ、俺の
『ガセだろ、どうせwww』
『ソースキボンヌ』
『さっきオンラインゲームチャットで魔法は使わないのかって聞いた奴が、現実で使えるからと返答いただきましたー!』
『つwかwえwるwww現代に参上した猫耳ゲーマー魔法少女www』
『ヤローだからwww』
そこからはもうネット用語の乱用に顔文字だらけで見る気を失くした。
それでも無関係でいられる状況ではなくなってきたかもしれない。
俺と多々良ララの共通点。
固有魔法所有者、七択選択、
電車がやってきて多くの人が降りていき、
俺は多々良ララに
「猫耳野郎は
だよな……結局どこの誰かまではわかっていない。
調べた時間が
そして
周囲の視線をものともせずに、多々良ララは肩を動かさないように文庫本に
その白い肌の耳がわずかに
しかし
何故ならばショートカットの
駅に着いた途端立ち上がった多々良ララのせいで、俺はほんのり
何が起きたのかわからないまま、さっさと降りていく多々良ララを追いかける。
駅の出口から
しかしいつもより熱気があるというか、人が集まっている気配に首を
都内とはいえ、そんなに混むような駅でもない。住宅街が集まっているような場所だからな。
多々良ララもいつもと違う駅前に立ち止まって
人の黄色い声に
夕焼け空に
携帯電話のカメラをいくつも向けられているのは、細身の男だった。
多々良ララと同じくらいかそれより数センチ上程度の身長。
両手の一本指でキーボードを鳴らす、子供のような演奏方法。
それで
それくらい
男の容姿は
そして髪の一部分を
首筋には真っ赤な林檎の痣。どうやら固有魔法所有者だな。
二人に一人は当てはまることだから、珍しくはないけど。
「白雪ー! 次は流行の曲おねがーい」
「……?」
歌い終わった相手にリクエストする若いギャルがいたが、相手はわからないといった顔のまま――別の童謡へ。
しかし白雪か……確かに絵本に出てくる
残念なことに男だけど。まあ
俺と多々良ララはそれ以上の興味を持つことなく、路上ライブをしている男に背を向ける。
どうせアイツについて数分後には無関心しか残っていないだろう。
耳に届く歌声は
それよりも猫耳野郎だ。
まじでどうしようかと考えていた矢先、ジャージ姿にサンダルという都内ではある意味珍しい出で立ちの男とすれ違う。
髪は
バンダナには猫耳が付属されており、
「え?」
思わず足を止めて見てしまう。
一瞬オタクのコスプレかと思ったが、あんなにやる気のない姿はその道の人に失礼すぎる。
コンビニのビニール
サンダルの
むしろ見るなというのが無理というほどの違和感装備。
「あの、すいません」
「……」
声をかければ、相手の肩が動いた。
が、すぐに猫耳バンダナは早足で歩いていく。明らかに
確証がない以上引き止めるのも変な話だろうか。それにしても猫耳が――あれが重要な
どうしようかと
「すっいません! もしかしてぇ、猫耳野郎さんじゃないですかぁ? アタシ、大ファンなんですぅ!!!」
アニメで登場する美少女のように高くて胸が高鳴るような、西山トウゴだったら声も出ないほど
猫耳バンダナが期待を
俺も思わず声がした方を
しかし声とは裏腹に、多々良ララの表情はクールそのもの。
しかも
猫耳バンダナは他に声を出した女子がいないかと見回している。
先程の可愛いアニメ声ではなく、
「どうやらあれが猫耳野郎みたいだけど?」
「てか、今の声どこから出した!!?」
普段とのギャップで思わずツッコミをいれてしまう。
しかし多々良ララは「問題はそこじゃない」という非難の視線だ。
野郎は明らかに
顔はたれ目にクマを作っていて、人相が悪いというのが第一印象。
しかし
「なに? これからオールでゲームする予定なんだけど」
「いや、その、最近変なことなかったか?」
「……知らない奴に声かけられた、今」
そのバンダナについている猫耳を引き千切ってやろうかとも考えた。
しかしそれよりも大事なことがあるため、今は堪える――いつまで保つかはわからんがな。
少しだけ
不安は当たらなければいいけど。
「俺は雑賀サイタ。こっちは多々良ララ。実は俺達共通点があって、調べたらお前もその共通点に……」
「世界の
「違う!! よし、まずは名前だ! お前の名前を教えやがれ!!」
「……………………
くるるくるり。
音にすると
この引きこもりゲーマーみたいな猫耳野郎の名前が――枢クルリ。
親は一体どういった意図で名づけたのだろうか。
思わず全く関係ない出生のところまで思考が飛び去る。
多々良ララは冷静に「可愛い名前で羨ましい」と言うが、お前のララって名前も
枢クルリは明らかに
長いタテガミみたいでライオンのようにも思える。
あ、ネコ科か。
「メンドーな反応があるから、名乗るのは
「それは悪かった。でも俺はどうしてもお前に会いたかったんだ。なんか変な七択に答えただろう?」
「ああ、どの童話が嫌いかってやつか」
よし。ここまで話が進めば、なんとかなるかもしれない。
「そう! お前も固有魔法所有者なんだろう? 俺も多々良も同じ七択を選んで、魔法を持っている……そして襲われたんだ」
「……とりあえず俺の家に来る?」
一瞬視線を他へと
俺と多々良ララは目を合わせ、誘いに乗るのを確認して
多分、目をつけられた気がする。
もしかしたら俺達が関わったことで、枢クルリがばれたのかもしれない。
しかし
俺達は少しでも襲われた件について調べた方がいいと思う。
傲慢だとしても、自分の力で解決しなければいけないはずだ。
やる気のない足取りで歩き出す枢クルリの背中を追う。
猫背のせいで不真面目な印象が強い。
――だけどその背中から感じる気配は張りつめていた。
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