北の風音
迷いを吹き払う風
第1話「前触れ」
北風が窓を
天領山ヘルヴォール。別名は
しかし正しくは地獄竜の丘。たった一人の女のために、竜が山になった。
その墓所は
連れ子山マンドラは竜が流した
この神話を知る者も、いまや数少なくなってしまった。
ああ、シェンリン。君と共に学んだ日々を
できれば最後の時間を君と語らいあいたかったが、山の
この試練の森で君を待ち続け、長い時間が過ぎ去った。
せめて心血注いで作った『
北風が命を
森の
心残りばかりが多くて、
この『拳銃』が生きた証となるならば、悪くない人生だった。
ツェリがミカの頭を
「ああ、ミカちゃん。なんだか久しぶりね」
「そうだね、ツェリ姉上」
頭を
「
「腹黒はいつでも会えるじゃない! 私は制限されるのよ!?」
ツェリの大声が頭に
「それで
「うん、まあ。そうなんだけど……」
歯切れが悪いまま、フィルは執務机の引き出しを
そして書類の
それに見覚えがあったミカは目を丸くし、思わずツェリを
「それってエディ・ターチの!?」
「南の領海を
「ああ、ウチのシマ荒らしてた
けろり、と軽い調子でツェリは流してしまう。
同じことを考えたのか、フィルさえもうなだれてしまった。
「ブロッサム家では銃関連の
「そうなんだ。確かにオウガも『
身を
ユルザック王国では情報規制を
「ただエディ・ターチが
気分
1766年の一月
城下では
第五王子が十五
「……灰の森ゲルダにて、銃職人がいたと」
聞こえた名前に、背中がぶわりと逆立った。
約十年前に
かつては迷いの森と
「この銃は、その職人の
美術品と言われても
「でもエディが活躍してたのは、何十年も前のはず……」
南の港町ネルケ。そこで出会った赤い
ホサンがかつて生活を共にし、父親と思っていたのがエディ・ターチである。
「製作者も死んでるんじゃない? 特に灰の森なら……」
十年前の
空気中に散布した火の精霊が体の中に入り、内部から肉体を焼く。
そうして水分を失っていき、
原因である火山の灰に埋もれた森ともなれば、考えることは
「そこで領地を
銃をずらし、その下に敷いていた書類を手に取る。
赤い
金に光る紋章印を見て、さすがのツェリも顔を
「灰の森で正体不明の
「それって、まさか」
「しかも」
ミカの推測を
「西の大国の人間が
北の領地、十年前の
そこで立て続けになにかが起きている。
一つは風の聖獣アドー・カーム。
二つ目はコルニクスと名乗った、魔人の少女。
――北へ。
異変は
「そういえば気になってたんだけど」
あえて軽い口調で切り出し、ツェリはミカの
「なんかミカちゃんの肩に、キラキラしたのがあるわよね」
少しだけ視る才能を持っているツェリが、
しかし光はまるで小動物のように動き、ミカの頭へと移動してしまう。
才能がないフィルは目を細めるが、なにも見えなかった。
「まさかレオちゃんだったりして!」
その様子だけで察知したフィルが、冷たくもにこやかな
「ミカ、報告」
「はい……」
様々な細かい事情はカットし、魔人の少女と城内で出会ったこと。
彼女の
「レオは今、
「消すチャンスかな……いたっ」
「
ぼそりと
近くにあった書類の束を投げ、フィルの顔面に見事ぶつける。
一連の流れに置いて行かれそうになりながらも、ミカは話を続ける。
「でもレオの意識がないと、俺も少し困ってて……」
「…………まさか」
ヤーの報告を聞いていたフィルは、嫌な予感に
「
少年にとっての切り札は、少女の口づけだけで
部下となったハリエットやラルクが
椅子の上でそんな座り方をして早一時間。魂が
「あの、ヤーさん。
「うん」
気のない返事。どちらの意味かと
すると本の山を
「抜け
「うん」
まるで声に反応するだけの道具。
「ラルクさん!」
「ご、ごめん」
ハリエットに
しかし今度は反応はなく、少女は空を見上げていた。
(様子を見ろって言われたけど……)
(あかんやつでしゅね)
室内の
アトミスとホアルゥはお手上げ状態のまま、少女を半ば放置している。
年末の
ミカの前では
かろうじて整えられたこげ茶の髪には、カチューシャ代わりのゴーグル。
いつもならば理知的に光る
ホアルゥが
(僕の髪で遊ぶな!)
深海に似た
彼の感情を表現するように、
背中に生えた四枚羽もぶるぶると震え、硝子の花弁が
(てへぺろでしゅ☆)
わざとらしいあざとさを
ホアルゥは手の平ほどの大きさな少女を模し、
(意地悪しないでほしいでしゅ)
燃えるような赤い瞳には
花弁で作ったように
背中に生えた燃える二枚羽は、火の鳥の
「……はぁ」
時折、ヤーが軽く溜め息をつく。
室内の空気が少し固まり、
息を吐いた彼女は、自らの服装へと視線を下ろす。
水色と白を基調にしたローブに、
ミカが赤と黒の王子服を着るため、同じ色の服はできる限り避けるもの。
思い出すのは魔人。戦場の
「……ハリエット」
「は、はい!」
緊張で声が裏返ったハリエットだが、すぐさま少女へと
「
「……はい?」
研究一筋の天才精霊術師ヤー。十六歳の冬。
生まれて初めて思春期らしい
「王子の
「あー、うん。そうだな」
「子供ができたら責任問題に発展するのですよ!? どうしましょう!?」
毛並みを整える
今も子犬のメザマシ二世の
「王子の子供……絶対可愛いですけど、相手に問題がありすぎます!」
「あんまり城内でそういうこと大声で言うなよ」
厩舎で働くものは少なからず存在する。
そんな彼らが何事かと視線を送るので、オウガは気まずさを味わっていた。
「そ、そうですね……」
「それにキスだけで子供はできねぇよ」
「え?」
きょとん、とクリスが前提が崩されたことに
嫌な予感を覚えたオウガが子犬を抱きかかえ、こっそり立ち去ろうとする。
しかし
「そ、それでは
見上げてくる蒼眼は
馬の世話をしていたはずなのに、
改めて貴族の
「オウガ
しかし二歩強
白と
しかし
対するオウガは十八歳の青年。
服装は藍色と黒を
だが服などは
第五王子の従者という立場だが、城内では隠れファンがいるのも事実だ。
なので、こんな光景で誤解を招きたくないと彼が考えていた最中。
「あのー、フィル王子から
「待ってくれ!」
伝言係の女中をどうにか引き留め、オウガは難を
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