第9話「少女の夢」
無重力という言葉すら知らないミカにとって、その浮遊感に抗う術など思いつきもしなかった。しかし思考の余裕があったわけではない。
力尽きて動かない体に、異常な状況。朝日が輝く空を船が飛んでいるのだ。甲板から離れていくのを眺めながら、オウガやヤーも同じだと知る。誰もが前準備なしに船ごと突き上げられたのだ。仕方ない。
白い靄が空を覆っていた。それは幽霊達の集合体。知覚化された彼らは、認識した相手に襲いかかろうと蠢いている。まるで半透明化した津波のようだった。
「どうすんだよ、あんちゃん!?」
(僕やホアルゥの精霊術でも無理だ! 規模が大きすぎるし、まずどこから対処をすればいいのか)
背中が地面側。空を見上げながら落ちている。もちろん頭上には巨大な船。最早潰されるしかない。奥歯を噛みしめて、瞼を強く閉じる。来るであろう衝撃に備えようと、体が勝手に反応した。
だが予想とは違う、暴風に体が襲われた。渦巻く風にさらわれて、落下速度が減少した。船も幽霊も、人間も。目が回るほどの嵐に見舞われる。
「な、なにが起こって」
(借りるぞ、少年)
初めて聞く声に戸惑う暇もなく、膝が絨毯のような地面に触れた。季節外れの青々と茂る草に、色鮮やかに咲く花々。
少し遅れて地面がわずかに震えた。その勢いで幾つかの花が散り、花弁を空気中に舞い上げた。驚きの声が各所から漏れ、ホサンの船員確認の声が響き渡り始めた。
「い、たくない? どういうことよ、ミカ!」
「全員無事みたいだけどよ、幽霊相手にどう戦えってんだ?」
「ミカ殿? なんか、御身から風が流れて……」
従者三人の声が遠い。意識の内側から驚くレオの言葉さえも朧気だ。頭をトンカチで揺さぶるような痛みと溢れ出る力に、意識を保つだけで精一杯だ。
息も絶え絶えにミカは空を見上げる。かすかな記憶だけで構成されたであろう大きな両腕が広がっていた。半透明の白は不気味なほど冷たそうだった。
まるで雪か氷。そういえばそろそろ降る季節だったかと、熱い頬を撫でる風の温度差に背筋が震えた。ぼやける視界の中で、ミカは自分の体を抱きしめた。
「う、ぐっ、あ、ぁ……」
(なにをやっている!? 聖獣を羽衣術でなど、ミカの体が保たない!)
(……だがこれが最善だ)
(ふざけるな、アドー! アドー・カーム!!)
意識の内側で争う二つよりも、聖獣の体を構成していた濃密で大量の精霊が噴き出ていく。強制的に金色の瞳に緑色の輝きが灯る。炎のように激しく燃え上がり、顔の半分を覆った。
「に、げて……制御、できない!!」
名前を呼ばれた気がした。しかし誰かも判断できなかった。
暴風が花畑を荒らし、周囲にいた人間や幽霊すらも足を止めるほどの勢いで轟音を立てたからだ。
晴れやかな朝に空飛ぶ船。目撃者が家族を起こすための大声が、ご近所へと伝播し、港全域に広がっていった。
潮風が騒がしいのが常な港町ネルケだが、今朝だけは人々の騒がしさが勝っていた。それを聞きつけてブロッサム家の当主コンラーディンも義足を鳴らしながら外へと出ていく。
しかし遠くから地響きが聞こえてきた。誰もがその方向へと振り向き、続いて吹き荒れた風を真正面から受けて体をよろめかせる。
「なんだぁ?」
風には匂いがあった。いつもの塩辛さではなく、香しい甘さ。それは特産品の香油と同じで、コンラーディンは雲も吹き払われた青空を見上げる。
色鮮やかな雪。そう見紛うほどの軽やかさで花弁が降ってきた。
子供が花弁を掴み取ろうとした。しかし気まぐれな風によって手をすり抜けていき、広い海へと流れていく。
かすかに残っていた灰色の霧さえもさらっていくように、花弁が風に乗って絨毯みたいに広がっていく。
海面からそれを眺めていた海の聖獣は、久々の空気が色付いたことに笑う。
(昔から賑やかしだったが、相も変わらずかアドー)
彼らの目には視えなかったが、変化は起きていた。船にしがみつくことすらできなかった散り散りの幽霊達が風と共に消えた。浮き上がり、天へと昇っていく。
街の中に潜んでいたのも、海に漂って流されるままだったものも。少しずつ人の姿を取り戻し、朝日の光を受けながら上を目指した。
それはいまだ暴風が荒れる花畑でも同じだった。襲いかかろうとしていた幽霊の集合体が蜘蛛の子を散らすように掻き消えていった。
地面に四つん這いになっていたヤーだが、抵抗も虚しく体が浮き上がる。吹き飛んだ彼女の腕を掴んだクリス。その体を引き寄せたオウガは、長槍太刀を地面に突き刺して軸とする。
「ヤー! なにが視える!?」
「ほ、炎の仮面! ミカの顔を覆う転化術の光よ!」
「カッコイイですね! それ!」
「こんな時に目を輝かせてんじゃないわよ、幻想好き! それにあんなの……羽衣どころじゃないわ! 鎧よ! 精霊の鎧!!」
吹き荒れた草地の上で、ホサンやアニーなど船員達は体を伏せている。顔も上げられずに静まるのを待つだけ。
そんな状態の中、台風の目となったミカを捉えられるのは、クリスに腕を掴まれたまま空中を泳いでいるヤーだけだ。
引き千切れそうな腕の痛みに耐えながら、碧眼に映す。
馬を象徴とした鎧を纏い、膨大な金髪を風に揺らしている。顔を埋める炎の仮面は緑色に燃え盛っていた。わずかに覗く黄金の瞳から光は消えていない。
「ミカ! いい加減にしなさいよね、馬鹿!」
ヤーの声に反応して、ミカがわずかに顔を上げる。だが意識は内側へと向けられつつあった。
光り輝く獅子と風を生み出す馬。その二匹が睨み合っている。
馬の方は白い毛並みに緑色の鬣をしており、目は深い青だった。
(アドー! なにをやっている!? 今すぐミカの体から出ていけ!!)
(……)
(聞いているのか!? 貴様は昔から唐突に来たかと思えば、いきなり場を荒らし回った挙げ句に片付け一つせずに鼻歌交じりで去るような風来坊なのが……)
(いいのか?)
(なにが!?)
(れ、レオ! えっと……アドーの話も聞いてあげないと)
慌てて二匹の間に入ったミカだが、何故かそのままアドーに頭を甘噛みされてしまう。
臼歯のため刺さると言うことはないが、感覚的に微妙な気持ちだ。
(ミカ、そいつから離れろ!! 我はこいつについては昔から噛んでやりたくて仕方ないんだ!!)
(で、でもおかげで幽霊は払えたみたいだし……ん? アドーは魂が視えるの?)
(……)
問いに答えないまま、はむはむ、と音がしそうな噛み方を続けるアドー。段々とレオの苛立ちと怒りが湧き上がっていくのが目に見えた。
外見は優美な馬なのだが、喋らないまま自由に行動をしている。これが風の聖獣かとミカが感心しつつ、試しに話しかけてみる。
(喋って良いよ。ついでに俺の頭も離してくれないかな)
(かたじけない)
吐き出すようにミカの頭を解放したアドーは、首を軽く振って嘶きを上げる。まるで人間の咳払いのようだと思った矢先だった。
(いやー!! あんがとな、少年! もー、昔のそれまた前? こいつにお前はやかましいと噛まれるわ引っかかれるわの大乱闘! それ以来、許可を取るまでは基本無口でいろとか言ってさー! 風が音を立てるなとか無茶やろ!? あかんやろ!? でもこいつを怒らすの本当怖くてかなわんのよ! さすが天の二大! って昔の話やないかーい! まあちょいびっくりしたな! まさか獣憑きなんて、しかも王族生まれ!? 転生したら王族の五男でした展開、とかそれもうありきたりやあらへん? もう少しニッチな所狙わんと生き残るのは難しいなーというわけで)
(やっぱり黙ってろ、アドー!!)
嵐の夜みたいな騒がしさで話し始めたアドーだったが、即座にレオが怒鳴り声を上げたので一瞬にして静かになる。
唾を飛ばされまくったミカは苦笑いだ。
城内の噂好きの使用人に似た話し方の者がいる。ふくよかな体型の彼女に散々酷い噂を流されたので、おしゃべりというのも一長一短だろう。
(こちらの質問だけ答えろ。どうしてやって来た?)
(精霊風だ。あれはあかん。ただでさえ風の聖獣は十年前から信仰が得られないのに)
(もしかして「国殺し」の一件で?)
(そや。水の聖獣はええよなー。十年前も五年前も大活躍でー)
少しふてくされたように説明するアドーは歯を剥き出しにしてふざけている。馬らしい表情だが、うっかり笑いそうになるのをミカは堪える。
話が逸れかけたことにレオが爪を見せると、あっという間にアドーは美麗な馬としての装いへと戻る。
(何故ミカの体へ?)
(なんか妖精使って楽しそうなことしてたやん? やってみたいやん!)
(本気で噛み砕いてやろうか……)
(阿呆か! 急に聖獣が消えたら大変なことになるってお前が一番知ってるやん!)
(辞世の句と引き継ぎを忘れるなよ)
(あかーん。これまじもんのやつやーん)
隠れきれないとわかりつつ、ミカの背中へと移動するアドー。
その行動さえレオの沸点を低くするのだが、盾となったミカが身振り手振りで落ち着かせようと試みる。
初めて他の聖獣とレオが会話したのを見たミカは、意外な一面を知れて少しだけ得した気分を味わっていた。
(それにしても海の聖獣まで巻き込まれてたとは……北にすぐ向かわんで良かったわ)
(北?)
(なんや少年、気付かんか? 今年はめっちゃ寒うなるで。豊富な秋の蓄えも心細くなるくらいにな)
(そんなに!? 兄上にはこのことを把握してるのかな……)
ミカの素直な反応に上機嫌になったアドーが、嬉しそうに鼻息を鳴らす。
その息だけで金髪が大きく揺れた。しかし生臭いと言うことはない。爽やかな夏の風の匂いがして、やはり聖獣は普通の生き物とは違うのを思い知らされる。
(まあそれだけやないんけどな。そろそろ本題に入ろっか)
(幽霊が視えるってところ?)
(ちゃうちゃう。つーか、そんなん視えへんわ。風の異変を察知して解決しようと思って……んで、困ったことにな)
(ん?)
(ぶっちゃけ、この状態の解除方法がわからへん)
ミカは慌てて意識をわずかに外側へと向けた。
暴風吹き荒れる花畑でヤーが声を嗄らす勢いで叫んでいるが、全く聞き取れない。着地した船も削り取られるように壊れ始めている。
地面を転がる船員も何人かおり、少しずつ船を壁代わりにしようと一箇所に集まり始めたくらいだ。
(どうして!?)
(なーんか糸で絡まってる感じやねん。はよ解放してくれーや)
(この考えなしの馬鹿が……)
悪態をつくレオにミカは視線を向ける。獅子の顔だが、表情は読み取れた。
怒りと困惑。両方が同時に表現されていた。
(レオ、早く! 俺は解除の方法なんてわからないよ!?)
(え? そうなん?)
(視覚や行動はミカだが、術は我が担当してるからな。しかし聖獣は妖精との質量や存在感が桁違いだ。だが荒っぽい方法がある)
(お、まじ? で、なんで噛もうとすんねん!!)
茶化したアドーへと飛びかかったレオ。その光景はまさしく草食獣を襲う百獣の王だった。
しかし真横で暴れ始めた動物の食物連鎖にミカは肝が冷えた。止めようと動く前に声を張り上げたアドーが疾走する。
レオは追いかけることはせず、鼻を鳴らす。意識からアドーの姿が消えた瞬間、耳をつんざくヤーの言葉が届いた。
「ミカ!!」
「ふぇっ!? あ、アドーは!?」
首を動かそうとしたミカだったが、視界が揺れた。同時に柔らかい草地へと寝転がってしまう。
体全体が心臓になったように震えている。呼吸の仕方も忘れていたかのように、肺が激しく動いていることさえも感じられた。大量の汗で服が肌に張り付いているほどだ。
腰に紐で括り付けていた花灯りの灯篭からホアルゥも姿を見せた。動けるようになったらしいが、全身筋肉痛のような動きでミカの体を這い上がって肩まで辿り着く。
(ミカちゃま! 大丈夫でしゅか!?)
「だ、めかも……体がバラバラに吹っ飛んですぐに戻ったみたいな感覚」
口元を押さえて吐き気を堪えたかったミカだが、指先すら動かない。
そこへいち早く駆けつけたのはクリスで、その次にヤー。そしてオウガが信じられないものを見る目で上空へ視線を向けている。
「……馬?」
「ミカ殿! 御無事でなによりです!!」
「これって無事なのかしら? アンタね、ただでさえ羽衣術のために精霊からの影響を受けやすくなってるんだから、無茶してんじゃないわよ」
励ましてくるクリスに、額へデコピンを食らわすヤー。上手く飴と鞭の役割ができているとアトミスが感心するが、それよりも圧倒的な存在が船員やアニー達の注目を集めていた。
「風を纏う馬……風の聖獣、か?」
「これが!? まじかよ、親父!」
「わかんねぇ……けど象並みに大きい馬で、この威圧感……普通じゃねぇよ」
今にも腰を抜かしそうな様子でホサンは見上げていた。実際にアニーは地面に尻餅をつかないようにホサンにしがみつき、驚きすぎた船員の一人は失神している。
オウガは鋭い目つきで睨み上げる。十年前、家族を失った流行病。その原因の一端とも言える存在に出会ってしまったからだ。
(騒がせたな。しかし幽霊も、精霊風も。全てを払った故安心するがよい)
「あれ? アドーの雰囲気がなんかちが」
(私はこれから北へ足を運ばねばならぬ。さらばだ、勇気ある船乗り達よ。雪に用心しとくと良い)
半ばミカの言葉を遮りながら早口で告げたアドーは、柔らかな風と共に空へと駆けていく。その姿を眺めながら、クリスは頬を染める。あんなに美しい馬を見たことがないと感動を顕わにしているのだ。
風が去る頃、空が薄暗くなった。灰色の雲から軽やかに雪が落ちてくる。冬の訪れだと、ヤーが白い息を吐いた。例年よりも少し遅い、降雪だ。
体が動かないミカは、鼻を擽る甘い香りと、視界にちらつく綿雪を味わう。
熱い火の夜が遠くなり、霧も消えた早朝。
花が散ると同時に雪が舞う。
港町は幽霊が漂っていた時とは違う寒さに覆われ、少しずつ支度を始めた。
その気配を感じ取りながら、ミカは瞼を閉じる。意識の内側でレオが微睡んでおり、ミカは獅子の体に寄りかかって眠りについた。
翌日。
丸一日寝ていたミカは、窓越しに積もった雪を見る。同時に港町の様子も。白くぼやけた風景となったが、幽霊の気配は大分薄くなったと言える。
アドーによって多くが昇天できたのだ。風と花、そして朝日。ありとあらゆる要因が功を奏したのだ。
もちろん完全な零にはならない。今も波間で手を伸ばす白い影はある。だがそれも人に危害を及ぼすほどではなかった。
「なあ、ミカ……本当かよ?」
「うん」
深刻そうな表情のオウガに、ミカは厳かに頷く。
信じられないと何度も首を横に振る彼だが、観念した。
「風の聖獣が訛りのきついチャラい性格って」
「そ、そこまでは言ってないけど」
「どう聞いてもそうだろうがよ。レオはまだマシだったんだな」
大きな溜め息を吐いたオウガは、予想外の落差に肩を落とした。恨みを向ける相手かもしれない。と思っていた分余計に力が抜けていく。
意識の内側ではレオが同じ様子で呆れていた。起きる少し前に意識内部で会話して判明したのだが、アドーの目的は精霊風のみだったらしい。
ただミカの目を通して事態の大きさに気付き、あれもこれもと手を伸ばした結果、暴走に近い状態となったのだとか。ミカとしてはおかげで全てが解決したので、結果的には良かったと安堵するのだが、レオは違う。
(あいつは昔から行き当たりばったりなんだ。まさに風だよ、むかつくくらいにな)
そう言ってふて寝を始めるレオに、ミカは苦笑いしか浮かべられない。ただ彼には秘密なのだが、元太陽の聖獣の素顔に触れた気がして楽しかった面もある。
「と、とりあえず体が動くし、今日の内に帰る準備を整えないといけないから……ヤー達と一緒に港へ行かないと」
「ホサンのおっさんも可哀想に。傍迷惑な聖獣のせいで船が大破だとよ」
「え?」
「船の脊髄とも言える竜骨が割れてたんだとよ。その件でブロッサム家がどうとかクリスが話し合いに参加してるのを見たぜ」
寝ている間に深刻な話題が上がっていた事実に、ミカは顔面蒼白になる。起きてすぐに確認できたのは、腰に括り付けていた花灯りの灯篭が消えていたこと。そしてオウガに暴走の原因はなんだと問い詰められたくらいだ。
まだふらつく体に鞭打ち、ミカは赤と黒を基調とした服を着込む。暖炉に炎が煌々と燃え盛っているが、雪によって冷えた空気に若干負けている。
「アトミスは?」
「ヤー達が持っているぜ。風の聖獣について研究心と幻想好きが疼いたらしい」
「じゃあまずはコンラーディンおじさんに四人で挨拶を……」
「それには及ばねぇぜ、グッドモーニング!! ナイスな感じで雪が積もって寒いな!」
話を聞いていたのかと思うほどタイミング良く扉を開くコンラーディン。実際に機会を見計らっていたのかもしれない。
雪が降ったことで薄手の長袖を着た彼の背後に、厚着をしたヤーとにこやかな笑顔のクリスが立っていた。
準備が終わっていなかったのは自分だけかと、慌てて金髪の前髪を邪魔にならないようにヘアバンドで整える。
「ヘイヘーイ! そんじゃあホサンの所に向かうぞ! 幽霊船解決祝いに船を贈るんだしな、景気よく行こうぜ!」
「船を!? だ、大丈夫なの!?」
「モーマンタイだぜ! 貴族裁判の時に予想被害額の資料を提出してるんでな。義理息子が。いやまじでやべーわ。なんなのアイツ。ツェリはあれと渡り合ってんのか……」
肩を震わせたコンラーディンに対し、クリスとミカはフィルの計算能力の高さを尊敬する。
しかしオウガとヤーは、あの腹黒王子の先読み能力が鋭すぎて怖い、くらいには思っていた。下手すると予知能力の疑いを持った方が良いかもしれない。
「けど実際の被害額は資料よりも低い。ミカ、お手柄だ! 俺が王様宛の親書に今回の件について褒めまくってやる! 喜べ、義理息子の腹違いブラザー!!」
「わわっ、ありがとう、おじさん」
首に腕を回され、すぐに頭を荒く撫でられる。ボサボサだった金髪がさらに酷くなるのだが、ミカは照れくさそうに笑う。心の底では嬉しさで一杯だった。
誰かに褒められるなど、久しぶりのことだった。それも十六貴族の一人ともなれば、認められたような気がして涙が滲みかけるほど喜ばしい。
「ついでになんかねだれ! 義理息子は可愛くない上に、なにも要求してこないのが逆に怖い! ホラーだぜ、ホラー! 海の幸なら幾らでもだ!」
「あははは……兄上は多分、欲しいものは自分で手に入れないと気が済まないんだと思うよ」
目標が高すぎて輝きまくっているフィルの魂を思い出し、ミカは曖昧な笑いで誤魔化す。
そのままコンラーディンに連れられて港町を馬車で移動する。雪が降っているため、滑らないようにゆっくりとした時間が流れたが、徒歩よりも早く港へ辿り着く。
船員と大量の紙を抱えたホサンが、アニーとまたもや口喧嘩をしていた。しかし周囲の視線は日常が戻ってきたと楽しそうなものだった
「だーかーら! 次は商船一択! 武器なんて積み荷が減るし、沈む危険性を高めるだけだっつーの! そろそろ賊時代のこと忘れろっての、くそ親父」
「馬鹿! アイリッシュ連合王国が大航海時代に行った数々の偉業と悪行を学んでおけ! 今だって奴隷島なんて怪しい噂の人工交易島あるっていう伝説がな」
「商船で一攫千金!」
「大砲は男のロマン!」
ロマンの方向性で喧嘩する二人だったが、最終的に口で終わることができなかったらしい。足や拳による大乱闘の末、冷たい海に水柱が立った。
船員達が力合わせて二人を引き上げる。その顛末を黙って見ていたミカ達は、いち早く駆け出したアニーが自分の要望通りの船設計図をコンラーディンへと渡す。
「コンラーディン様! これ! アタシはこれで親父の跡を継ぐから!」
「オーケイ! 承ったぜ、キャプテンレディ!」
「コンラーディン、てめぇ!」
「観念しろよ、ホサン。良い娘じゃねぇか。お前が船で積み上げてきた物全てを受け継ぎたいなんて……親冥利に尽きるだろ?」
コンラーディンが歯を見せて笑う。そう言われては、ホサンは反論することもできずに唸ってしまう。
勝ち誇った笑みのまま、アニーは盛大なくしゃみをする。雪が積もった港でずぶ濡れになったのだから、当たり前である。
「うー、さみー! ホアルゥ、火! 暖めて!」
(もう、アニーしゃんはしょうがないでしゅね)
船員から渡されたタオルに身を包みながら、アニーは木箱の上に置いていた花灯りの灯篭に駆け寄る。その蓋を内側から開けたホアルゥが、華やかな香りの油を使って火を点す。
白い視界の中で温かい光が灯る。それに導かれるように船員達も集まっていき、ミカ達も歩み寄る。
ほっぺを真っ赤にしたホアルゥは、嬉しそうにミカを見上げる。倉庫の奥で大事にしまわれることも、眠り続ける必要もなくなった妖精は背中の羽根を動かして飛ぶ。
ホアルゥの羽根は、燃える鳥の翼に似ていた。揺れ動きながら、確かな芯を持っている。だから形が崩れる不安も、消える心配もない。
(ミカちゃま! 丁度よかったでしゅ。こっちこっち!)
「わかったよ。アニー、灯篭を持ってきて」
「あいよ!」
急かすようにミカの髪の毛を引っ張るホアルゥ。本体である花灯りの灯篭とあまり距離を離さないようにするため、アニーに協力して貰う。
誘われるまま港の外れ、砂浜が見える場所へと連れて行かれる。穏やかな水面が膨れ上がったかと思った矢先、黒い巨体が目の前に現れる。
「海の聖獣? えーと……名前、聞いてもいいかな?」
(もちろんだ。私はオルカ・キングス。王海グランカを担う七つの海の長だ)
「すげぇ……まともだ」
風の聖獣について相当な衝撃を受けたせいか、思わずといった様子でオウガが呟く。
(ああ、アドーに驚いたか? ふふ、仕方ない。あの自由さが風たる由縁だろう。私は気に入っているよ。それよりも……出てきたらどうだ? レオ)
「……知っていたのか? すまないが、我はそちらを把握しておらなんだ。恥ずかしい限りだ」
意識内部にて静かに交代したレオは、困ったようにオルカを見つめる。一直線の傷が跨ぐ左目には炎のような輝きが循環していた。
相当気まずいのか、レオは視線を逸らそうとする。だが短い笑い声と共に、オルカはなんてことのないように話を続ける。
(それもまた仕方ない。天の二大は空が管轄だ。人間が思うよりも海と空は遠い。なにより海は広く、深い。海の聖獣も私だけではないしな。ただ、な)
「ん?」
(私がお前に惚れていたのだよ。いわゆる、片思いだ)
レオだけでなく、背後でオウガやヤーも絶句した。クリスなどは興奮を抑えるように口元に手を添えた。アニーは指笛で囃し立てるが、ホアルゥが何度もレオとオルカの顔を見比べている。
(じょ、女性だったんでしゅか!?)
(心の性別と言えば、そうなるのだろう。聖獣の性別基準などそれだけだ。恋愛も同じだ。聖獣にとって不必要なものだが、心が求めるのだから仕方ない)
「な、な、な……」
「レオが言葉も出ないくらいに驚いてるわね……」
狼狽するレオの様子が面白く、ヤーはその顔を覗き込む。赤面した十五歳の少年、よりも少し大人びた顔つきで照れている。
ヤーはその表情に見惚れた。ミカでは絶対見られない。少しだけ胸に痛みが走り、その正体が掴めずに顔をしかめる。
(お前に助けられて嬉しかったよ。なにより私が救った小さな妖精を、お前は必要とした。ありがとう)
「……いや、我ではない。ミカだ。今回の件はユルザック王国の第五王子、ミカルダ・レオナス・ユルザックの功績だ。どうか胸に留めてくれ」
(そうか。ではお別れだ、レオ。ミカに礼を伝えたいのでな)
「ああ。お前の気持ちは嬉しいのだが……今の我は応えられない。理解してくれ」
(わかっている。お前は二十年前に死んだ獣だ。なにより、月の聖獣に私は勝てない。誰よりもお前に寄り添う獣だ)
「や、奴とはそういう関係ではないし、性別など気にしたこともない! 勘違いは止めてくれ!」
息を切らしながら訂正を試みたレオだったが、これ以上話す必要はないと最後に穏やかな微笑みをオルカに向ける。
瞼を閉じると同時に炎に似た輝きは消え、金色の瞳が確かな意思と共に現れた。
「……なんか、今回はレオのユニークな部分をたくさん見られて楽しいや。では改めて。俺がミカ。こちらこそ、ホアルゥとアニーを助けてくれてありがとう。それに船を飛ばしてくれたことも。なんとか丸く収まったよ」
(王子と聞いたが、らしくないな。だがそれがお前の魅力なのだろう。ならば貸し借りはなしだ。ありがとう、王子とその一行よ。またこの海を、私は守っていく)
「オルカ。少しでも良い。魔人達の目的や、その裏に心当たりは?」
真剣な眼差しで問いかけるミカだったが、オルカはわずかに沈黙した。
瘴気に呑み込まれないように十年以上耐え続けた故、意識の多くもそこに割いた。断片的な記憶しか保持していない。
(わかるのは、工場は既に何人も魔人を作り上げたことだけだ)
「そっか……うん、でも収穫だった。ありがとう」
(アドーは北へと移動したな? ならばお前も向かうべきだ。奴は異変察知能力が誰よりも早い。風を追え、王子よ)
「わかった。じゃあ……あとはアニーとホアルゥだね」
オルカの助言に頷いたミカは、灯篭を手にしているアニーを手招く。
戸惑う二人を残し、ミカ達はオルカへと手を振る。返事をするように水面から尾を出して左右に動かすオルカを呆然と眺め、アニーは言葉を待つ。
(大きくなったな、人の子よ。小樽の中に入っていたとは思えぬ。小さき者は……羽根が生えたか。様々な変化があったようだな。十四年など海にとっては些末な年数だが、生命にとってなんと掛け替えのない時間なのだろうか)
「……ありがとう。体を張って助けてくれたんだろう? おかげで親父に会えたし、ホアルゥから本当のことも聞けた。おかげでアタシ、もう迷わない。海の女として生きていくよ」
(出生の話はいらぬか? 望むならば、教えよう)
「いいよ。アタシはアニー・スー! 将来は荒くれ共をまとめる女船長さ! なにかあったら、加護よろしく!」
仁王立ちで笑うアニーに、オルカは大笑いした。海の聖獣相手に物怖じせず、前を真っ直ぐ見つめる強さ。十四歳の少女とは思えない胆力である。
灯篭に腰をかけたホアルゥは呆れながらも微笑む。一晩で起きたこと全てを乗り越えてもなお、少女の夢は揺るがない。それは目指すべき背中が近くにあるからなのだろう。
(いいだろう。一度繋がった縁によって助けられた身だ。その熱意を認め、アニー・スーに我が加護を)
「よっしゃ! ありがとう! 代わりに困ったことがあったらアタシに言えよ! 助けてやっからさ!」
(ふふ、期待しておこう。そして――ホアルゥ)
(は、はいでしゅ!)
(あの熱い夜は終わった。太陽が昇り、風が全てを吹き払った。約束を守り、よくぞここまで辿り着いた。故に、選ぶが良い。お前は自由なのだ)
優しい声に、ホアルゥは堪えようとした。しかし大粒の涙が歯を食いしばっても零れていく。どんなに拭っても、顔を濡らしていく。けれど火は消えることはない。
(自らの夢を照らせ。心に従え。お前がそうと考えたならば、決意は誰にも止められぬ炎となる。もう、決めているのだろう?)
(……はい。ホアルゥは――)
ブロッサム家の屋敷に戻ったミカ達は荷物をまとめていく。四人に馬一頭なので、身軽さが特徴だ。荷物自体も然程多くなく、王族への土産もシェーネフラウだけで持ち運べるくらいだ。
しかし距離が遠い。一ヶ月近くはかかってしまう上に、南の領地で雪まで降り始めた。首都へ近付くほど積雪は増えていく。用心して進もうと思えば移動時間はさらに増加するだろう。
重い風邪をひいたような体調のミカは、ベッドに腰掛けながら忘れ物はないかと確認する。親指に着けた氷水晶の指輪からアトミスが浮かび上がる。
(あの若輩妖精はどうするんだい?)
「ホアルゥはアニーにとってお母さんの遺品に宿った妖精だよ。俺の都合でどうこうなんてできないよ」
(ふーん……)
「お、寂しいのかよ?」
(違う! あんなうるさくて可愛くないのがいなくなって清々するね!)
にやり笑いを隠さないオウガに対し、アトミスは大声で言い訳を募らせていく。
しかし言葉を重ねるほど本心が透けて見えていくので、オウガは笑みを深くするだけだった。
「ミカ、コンラーディンさんがお話があるから荷物を持って中庭に来いって」
「わかった。今、行くよ」
ノックをしてから入ってきたヤーに、ミカは返事する。それだけで軽い頭痛に襲われるのだが、笑って誤魔化す。
ヤーは部屋を覗き込む態勢のまま、ミカの顔を見つめる。ヘタ村の時に覚えた違和感を昨日、もう一度味わった。
最初の印象ほどミカのことが嫌いなわけではない。むしろ他人と比べれば好意の方が多いだろう。だがそれはどちらに対する気持ちなのだろうか。
ミカとレオ。彼女は同じ体に宿る二つの意識両方に、惹かれていた。
「どうしたんだよ?」
「な、なんでもないわ! アタシ、先に向かってるから!!」
怪訝な顔のオウガに問いかけられ、ヤーは慌てて自らの荷物を取りに行く。貴族の屋敷を走って行く少女の背中を眺めながら、オウガは呟く。
「難儀なこった……」
「なにが?」
「いや、独り言だよ」
荷物を背負ったミカに尋ねられたが、あえて白を切る。今はまだ当人達の問題であるため、オウガは見守ることを選んだ。
ブロッサム家の屋敷も見納めだと、廊下をゆっくり歩きながら中庭へ向かう。途中で慌てる女中の叫びと子犬らしき鳴き声を耳にする。十六貴族の屋敷だが、賑やかさはどこか自由な雰囲気だった。
緑色の芝を隠しつつある白い雪を踏んでいく。靴裏からサクサクとした触感が返ってきて、浮き足立ってしまうのをミカは楽しんでいた。
中庭には既に荷物をまとめたクリスがシェーネフラウの滑らかな背中を撫でていた。興奮して風の聖獣の話や、幽霊船がいかに手強く恐ろしかったかを身振り手振りをつけて語っている。
傍から見ていて微笑ましい光景で、ヤーが寒がりながら足を運ぶまで誰も止めなかった。三人が揃った気配に気付いたクリスは、顔を真っ赤にして両手で隠した。
「ちょっと。なによ、これ?」
ヤーが寒さを誤魔化すようにその場で足踏みする中、庭の中央に敷かれた大きな布地に疑問を抱く。
複雑な文様と円陣を組み合わせ、さらには大量の魚が入った箱が置かれている。箱には見向きせず、布地に描かれた円陣に注目するヤー。童話の中に出てくる魔方陣のようだとクリスも近寄っていく。
「これって……まさか」
「ヘーイ! 待たせたな、ボーイズ&ガール!」
「間に合った! あんちゃん、帰るの早いぞ!」
「コンラーディンおじさんに、アニーとホサンさんも!?」
布に包まれた箱を抱えたコンラーディンの横を、アニーが背中に手を隠しながら歩いていた。ホサンは手ぶらだったが、表情は柔らかい。
「ほら、精霊術師の嬢ちゃんにはこれな! ツェリによろしくと伝えて渡してくれ」
「アタシよりミカの方が良いと思うわよ」
「あんちゃんにはこっちだよ! ほら、御礼と餞別!」
アニーが背中に隠していた品物を渡す。繊細な細工が施された灯篭が綺麗に磨かれていた。蓋が内側から開き、飛び出てきた妖精がミカの頬にキスをする。
箱を渡されたヤーが肩を尖らせ、アトミスが言葉をなくした。手の平に載るほど小さな妖精のホアルゥが、満面の笑みをミカへと向ける。
(ホアルゥはミカちゃまについていきましゅ! レオしゃまも大好きでしゅけど、ミカちゃまも大好きでしゅ!)
「え、え!? あ、アニーは良いの?」
「もちろんタダじゃねぇぜ、あんちゃん。アタシが船長になって大活躍するためにも、王族御贔屓は必要だからな! 南の海にアニー・スー船長ありって、宣伝よろしく!」
「は、はは……アニーらしいや。うん、わかった。ありがとう」
「あとこれもな」
もう一度、頬に柔らかい感触。アニーの大胆な行動に、ホサンの目がつり上がった。ヤーなどは硬直してしまい、流石のクリスも目を丸くしてしまった。
なによりミカ自体も顔を真っ赤になった。花灯りの灯篭を手にしたまま、口を何度も開閉させている。
「親父や皆を助けてくれてありがとよ! 婿の貰い手がなかったらアタシが受けてやるから、いつでも南に来いよな!」
豪快に笑いながらミカの背中を陽気に叩くアニー。赤い髪が揺れるだけで潮風の匂いが漂う。
眉を八の字にして笑うしかないミカの背後で、オウガが各々の顔を見て面白いことになってきたと判断していた。
「そんじゃあ布地の上にゴーゴー! 時間は有限だぜ、ミカ!」
「ちょ、待ちなさいよ!? まさかこれって」
「嬢ちゃんのブラザーが開発した転移精霊術陣だとよ! 一瞬で首都行きだぜ! ちなみに人間での移動はお前達が初だ! ファーストだぜ、縁起が良いな!」
「人体実験って言葉を知ってる!?」
背中をぐいぐい押すコンラーディンの勢いに負け、四人と一匹、そして妖精二人も布地の上へと乗ることになった。花灯りの灯篭を大事に抱えたミカは、慌ててアニー達へと振り向く。
「ありがとう、皆! 元気でね!」
「おうよ! ツェリや義理息子によろしくな」
「あんちゃんもしっかり生きろよ!」
「御礼を言うのはこっちだ。長年のケジメがつけられたからよ」
そして視界が反転する。
ミカ達の姿はブロッサム家の中庭から消えた。音もなく、鮮やかに。
「行っちまったか。寂しいな、親父」
「それよりも嫁入り前の娘があんなことするなんて!? まあ婿候補としては……悪くはない、か?」
「当たり前だろう! アタシには見る目があんだからな!」
「ははっ! ホサンの後継問題は安泰じゃねぇか! まあこれも出会いって奴だ、明るく受け止めようぜ!」
コンラーディンとアニーに揃って背中を叩かれたホサンは、盛大に咽せる。涙目ながらも、口元は嬉しそうに弧を描いていた。
「ったく、港町には前向きな奴ばっかりだな。後ろを向く暇もねぇ」
「おかげで人生エンジョイだろ? ほら、船の打ち合わせの続きと行こうぜ。名前はどうするんだ?」
「アタシがもう決めてるよ!」
雪の上で踊るように歩き出したアニーが、懐から一枚の紙を取り出す。
腕に残った火傷の百合と鯱、そして炎の花。それら三つを組み合わせた華やかな図案。横には迷いない文字が書かれている。
「グロース・オルカ号! 海の聖獣の加護を得た、世界一の船さ!」
冬の寒さにも負けない笑顔でアニーが宣言した。
少女の熱意はいずれ海へと広がり、王都だけでなく異国へと響くだろう。
ユルザック王国には有能な女船長率いる大商船団がある、と。
そして首都ヘルガンド。王城カルドナにて。
帰還を果たした少年が意識を失っていた。花灯りの灯篭を壊さないように抱いているが、腕には力がこもっていない。
従者達が何度声をかけても目覚めない。そして意識の内側では獅子も焦っていた。
少年の意識が砕けたのだ。
記憶が欠片となって散らばり、どうにか残った意識の核は赤子のように弱々しい姿を象っている。小さな手が記憶を掴み、亀の歩みと同じくらいの速度で集めていく。
会話することも不可能に陥った少年の意識を前に、獅子は苦悩に満ちた表情で決意する。無防備となった少年の体を守るために、意識の主導を一時的に切り替えるのだ。
瞼が開く。一直線の傷が跨ぐ左目には弱々しい炎の輝きが瞳に宿っていた。他人から見て目の光が揺らいでいる程度にしか捉えられない。
「ややこしいことになった」
苦々しい表情で、レオはそう呟いた。
忘却から、少年と獅子の入れ替わりが始まる。
それは避けられない過去と向き合うきっかけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます