第4話 愚痴

「……これにて軍戦術の講義を終了する。だが、まだ時間が余っているな。ちょうどいい機会だ。どうもお前達にはUAF訓練生としての自覚に欠けている。もう一度お前たちの役割を叩き込まねばなるまい」


 アキラは厳しい表情で訓練生たちに視線を向ける。


「カナ訓練生! 我々UAFの目的は何だ!?」

「は、はいっ! 外敵から、このユートピアを守ることであります!」

「そうだっ! ここユートピアは地球唯一の中立国である。平和な国だ。しかし、平和は黙って得られるものではない。この平和はお前たちの先輩方であるUAFの正規軍が外敵から守ることによって成り立っている! 貴様らがこうして安全に研修することができるのも先輩方が苦心した賜物であることを忘れるな! 下らない雑談や喧騒を起こすことは先輩方への侮辱に値する。今後同じように気の抜けた行動を行ったらこれまで以上にしごいてやる。わかったか!」


 アキラはそう言うと、講義室のドアを激しく閉めて去って行った。


「……俺たちだって好きで訓練生になったわけじゃねえってのによ……!」

「ボラスくん……! 気持ちはわかるけど……、そんなこと言ったら……だめだよ……」


 ボラスの愚痴をカナが諌める。


 彼ら訓練生は自らが望んでUAFに入隊したわけではない。ユートピア国民は3歳の時点で適正検査にかけられる。そこで適正ありと判断された選ばれし子供たちがUAF訓練生となるのだ。一応、入隊の意志を聞かれはするが、それは形式的なものであり、選ばれた子供を持つ家庭は必ず入隊させなければならないという暗黙の了解がこの国には存在していた。


「……さ、皆元気出して……? 次は実戦訓練よ。遅れたらまた、アキラ教官に怒鳴られちゃう」


 どこか意気消沈した訓練生たちにカナが声をかけると、皆少し腰を重たそうにしながらも動き始めた。

 

キョウは実戦訓練が大嫌いであった。自分の能力のなさをもっとも思い知らされる講義だからである。


「キョウ、お前なんでそんなに遅いんだよ!」


 ボラスがキョウに舌打ちをする。個人装備を装着しての長距離移動訓練。キョウは男女含めた訓練生の中で最も後方で走っていた。


「くそ! 遅くしたくて遅いんじゃない」とキョウは心に思うが口にはしなかった。ただの負け惜しみだからだ。キョウは身体能力が他の訓練生と比べ、格段に低かった。それ故、男子訓練生はキョウと組むのを嫌がった。訓練生たちの冷ややかな目線がキョウに振りかかる。


「ちくしょう……!」


 キョウは皆に聞こえないように小さく言葉をもらすのだった。

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ワールドシェルター 向風歩夢 @diskffn

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