第3話 講義
「おーい、キョウちゃんよう、次の座学の課題写させろよ!」
ここは訓練生の講義室。ボラスがキョウに話しかけていた。先日、カバンを奪われ、塀の上に置きっ放しにされたキョウからすれば、全くもって面白くないお願いだろう。
「嫌だね、他の人に写させてもらえよ」
「ああ!? 勉強くらいしか取り柄が無え癖によ。俺が頼ってやってるんだぜ? 素直に従えよ!」
「死んでも嫌だね」
どうやら、このキョウという少年はいじめを受けてはいるが、根っからのいじめられっ子という訳ではなさそうだ。悪口を言われれば、言い返すし、殴られれば殴り返すくらいの精神を持っているようだ。その精神がボラスの「いじめてやる」という心境に拍車をかけてしまうのだろう。
「コラ! ボラスくん! また、キョウちゃんをいじめてるの!? そんなことしたらダメっていつも言ってるでしょ!」
「チッ。カナか……。助かったな、キョウ」
ボラスは捨て台詞を吐いて自席に戻って行った。カナは困った顔をしながらキョウに話しかける。
「キョウくん。また、ボラスくんが意地悪してきたらすぐに私に言ってね。守ってあげるから」
カナはそう言ってキョウに微笑む。カナは訓練生のこのクラスの委員長的ポジションに立っていた。そして、キョウに好意を持っていた。キョウは身長も低く、身体能力も低いが顔立ちは整っており美少年と呼んでいい存在だった。訓練生の中では一際小さく女性徒からはかわいい弟的扱いをされていたのである。ボラスたちいじめっ子はそれも気に食わなかった。ちょっと顔がいいだけのヒョロガリくんが女子に気に入られているのが腹立たしかったのだ。ちょっとした嫉妬だろう。
キョウもまた、女子生徒にかわいいと言われるのは不本意であった。キョウは男らしい男を目指していたからである。今日日、男らしいは差別だと言われるが、キョウは身体能力の高い筋骨隆々な姿に憧れていたのだ。それ故、女性徒からかわいいと言われながら守られるのは気分の良いものではなかった。
「守ってもらわなくたっていいよ! 僕は強い男なんだから!」とキョウは強がる。
「あはは。そうだね。いつかはキョウくんも強くなるよ。でもそれまでは私が守ってあげるから!」
いつか強くなるからとかそんなんじゃない、プライドの問題なんだとキョウはカナに言い聞かせたかったが、実際助けてもらっている手前、それ以上反論はできなかった。
「あらあら、キョウちゃんは今日も女の子にまもってもらってるんでちゅねぇ」
ボラスが分かりやすくキョウに悪口を言っていた。
「こら! ボラスくんダメって言ってるでしょ!?」
「お前たち何をやっている!?」
声を荒げたのはこのクラスの担当教官アキラである。
「もう講義の時間だぞ! 席に着け!」
アキラの怒号に静まり返った教室。生徒たちは各々自席に着いていった。
「お前たちは栄誉あるUAFの訓練生なんだぞ! 騒ぎに騒いで……先輩方に恥ずかしいと思わないのか!? ……まあいい。講義を始める! 軍戦術のテキスト55ページを開け!」
アキラの言葉に訓練生全員が背筋を伸ばし、緊張した面持ちで講義を受ける。これがわずか10歳のUAF訓練生たちの日常であった。
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