スチーム×ヴァンパイア(吸血鬼編・クイーンズエイジ1881の10月)
私立探偵の推理劇とハロウィーンと
EPⅡ×Ⅰ【私立探偵《private×detective》】
世の中には『化け物』が存在する。ロンダニア
しかしそれ以上に人を
アイリッシュ連合王国、蒸気機関と工場の
すぐさま脈を確かめたが、音は感じ取れず、体の
しかし警官は三十分前に同じ場所を巡回しており、その時に男の死体を
容疑者は五人。全員が死体発見前後一時間のアリバイがない。また被害者と
そして判明するのは、容疑者の中で
しかし魔法となればトリックなど風に
新聞記者
だが一人の外勤主任が異を唱えた。彼は最も疑いをかけられた容疑者の知り合いであり、同じギルド仲間であるため、公平さに欠けると上層部から
男は
「ユーナくんならば死体を
そしてありのまま真正面から
被害者ケビンの
デヴィッド・ムイは被害者の友人。金を何度か借りており、最近
美しい外見の
ユーナ・ヴィオレッドは被害者の知人。ギルドとして相談を受けたが、
ウィクべス・ゲルダは
死体発見現場である
青年は車椅子を
「ほんじゃあ、推理はじめよっか」
犯人は決まっている。人間一人では無理な所業による犯行。ならば人間以上の力を
紫魔導士は落ちこぼれ、資格
「ケビン・ディルム殺人事件、犯人はそこの四人や」
青年はユーナ以外の容疑者全てを指差した。迷いなく
一分前の決めつけの空気すら無視して、夕刊には
「
「そんなん全てまるっとごりっとお見通しに決まっているやん。ああ、そういえば
「あ、ああ……こんな汚れた服で写真
デヴィッドは
青年は車椅子の左肘掛けにもたれかかるように姿勢を
「事件が起きたのは五日前。証拠を隠すのにはうってつけの期間や。けど……仕事を利用して汚れたままにしといたのは間違いやったな」
「な、なんだと!? なんなら間近でこの機械油汚れを見るか!? 洗っても落ちねぇ、
「僕が
「んな訳ねぇだろうがっ!! こ、これは俺がミスで機械油を零した……だけの……」
少しずつ声が小さくなっていくデヴィッドの
しかし
美しい女性であるキリルは
「だったらもう少し流れたような
「あ、あ、ああああ!! な、なんなんだ、お前は!?」
「探偵や。ほな次は眼鏡の汚れを気にしとる質屋の主人やな。良い眼鏡をつけとるなぁ。それは
「ふん。これは死んだ
ウィクべスは特に
目を細めて青年の顔を
服も古びたシャツにズボンと物持ちの良さを表している。腰に当てているのとは反対の手は宙を
「まさか
「あらへんな。おじいちゃんは大切にするのが僕の方針やから、さっきのおっちゃんみたいに
「ふん。ならとっとと容疑を晴らして帰らせてほしいもんだがね。その前に犯人
「せやからサクッと行こうか。で、おじいちゃん。なんで胸刺された位置を知ってるん?」
深々と
「し、新聞で見たんだ! 連日報道しとるじゃないか、男は胸を刺された! 儂は前に何度か出会っているから、胸の位置はわかるんじゃ!!」
「せやったなー。もー、最近の新聞の情報収集率はどうなっとるんやろね。確か何度も刺された上に、シャツは穴だらけやったそうな」
「
「うんうん。せやね。まさにその通りやったけど、傷の数は警察が
愛読している新聞には確かに傷は一つとあり、他に目立った傷はない。スーツを着ていたが、白いシャツは血が滲んで酷い有様だと
「この
「まじかいな!? 本当に最近の記者の
「ははっ、大馬鹿め! 血が流れているはずがない! なぜなら奴は……あ」
「どうしたん?
新聞に流血していたとは記述されていない。血が滲んで酷い有様だとしか載っていない。しかし事情を知らない者が見れば、こう思うはずだ。
男は刺された。ならば現場には血が流れており、それを警官が発見したのだと。だが老人は
「奴は見つかるまでに一時間の死後硬直が見受けられたはずだ! だったら移動させられたとしか思えない! 結論は一つ、そこの大男が運んだのだ!」
「おじいちゃん、意外と勉強熱心やね。なら他にどんな状態であったかわかるんかい?」
「お前も言っていたじゃないか。うつ伏せで倒れていたと! だが血は止まっていた! だから……あれ?」
「うんうん。おじいちゃん……うつ伏せで血が流れてなかったら、
警官は蒸気灯の光で確認して脈を計っている。一度も
血は流れていない死体。三十分前の巡回で見つからなかった男。新聞では
近付いて光で照らしただけで一発で殺されたと判明する、胸を刺された死体。ならば体はうつ伏せではなく、
「でもな、死体を
「し、死者の体に手を加えた……だと!? ぼ、
「ついでに口の中や胃も見せてもらったで。すると口内に羊皮紙が丸めてあったんや。質屋ウィクべスの受領書や」
「ありえん! 奴は儂の店に一度も品を預けたことなどない!! 大体そんな決定的な証拠があるなら、誰もが儂を犯人と責めたてるじゃろう!
「せや。僕は大嘘つきや。けどな、真実はもっと
「お、お前が年配である儂を敬わずいつまでもネチネチと言い訳するからじゃろうがっ!! 大体杖は修理中じゃ! この眼鏡と
「お熱いなぁ……そんじゃあ僕はそのおばあちゃんに感謝せないかんな。ちなみに修理中ということは折れたのではなく部品が外れた……
「お前なんか
青年の手の中にある
足の震えを大きくして老人は右往左往する。しかし路地裏には警官と記者がごった返ししているだけでなく、屋根から一般人が見守っている状況まで発展していた。
なにか支えが
「良いおばあちゃんやな。アンタの
「……」
つばの広い
「アンタの場合は、最も簡単で難しい……まずは手軽なとこからいこっか。綺麗なドレスやね、
「……」
「上等な絹のドレスやし、所々宝石もあしらわれている。アンタの給金で買える類やない……貿易商、もしくは弁護士の給金じゃないと」
「…………」
キリルは
だが
「私の給金は家庭教師の分だけではなく、タイプライターからも作れる物よ、
「カロック・アームズは僕も大好物ですわ。けど最近では
「あんな子供向けと一緒にされても困るわ。私が書くのは大人に贈る本格ラブストーリー。禁断の恋も紙面なら思うまま」
「そうやな。紙面なら、
胸の上で化粧鞄を両手で持っているキリルは
しかし次に顔を上げた時、青年の笑みに
「捨てたわよ。あんなつまらない男、そりゃあ結婚は迫ったけど……もう結構! 私は次の男を見つければいいもの!」
「男は胸ポケットに片割れを持っていたのに、
キリルは
あまりにも赤く汚れているので刻印されている字は見えないが、その大きさは死んだ男の指に合うサイズであった。
「……う、うぅ、で、でも、私は……私は犯人じゃない!!」
その悲痛な姿に見守っていた観衆の中でも女性から批判が
雪のように白い手は
「インク汚れもドレスの
女の
「確かアンタのアリバイは、深夜は作業が
「……私、器用なの」
「じゃあなんで手袋を外してるんや?
ドレスを着る女性は夜会ではない限りなるべく肌を晒さないのが
しかし多くの者達の視線がキリルの手元ではなくユーナの衣服に向かう。白のワンピースコートに短いフリルスカート。長めの
細長い体と比例して足も細いため、肉に
「あ、そこの紫
「ちょっと聞き捨てならないんですけど」
ユーナの言葉を
「汚してしまったの。
「嘘や」
「嘘じゃないわ。それにこのドレスで人を刺したら、血を浴びるでしょう? でも
花のように広がる裾を
だからこそ視線が最初に
「だから私は作品を書き上げていたの。今世紀最大の
「……くくっ。本当に女性は最大の敵や。真実を知らなければ僕すら同情しかねない役者や」
「どういうことかしら? まるで実際に私が
「あんなぁ、僕は最初から犯人は四人と明言しとる。それなのにアンタはなんで……自分が刺してないと必死に否定するん?」
青年は指を組み合わせるように重ね、車椅子を揺らす。デヴィッドとウィクべスは追い詰められていたし、デヴィッドなど最初に血の跡を隠しているのをばらされた。
だからこそ心構えができていたとも言える。しかしそれは間違いだった。青年は一度も誰が刺したと指摘していない。犯人を指差しただけだ。
「家で作業するのにそのドレス自体がおかしいんや。
「なっ、馬鹿にしないで!! だ、大体犯人とか言われたら刺殺した相手を指すのが普通……」
「死体の傷は一つや。それ以外に外傷はなし。しかし犯人は四人。同じ傷を数人で刺して
「わ、私じゃない! 血の跡はない!! 探すことなんてできないはず……」
石畳を靴で鳴らしながら
「化粧で誤魔化すのは
近くにいた警官がキリルの靴の下に手を差し出し、苦痛で顔を
そして
「好きな男に贈られたドレスと、ずっと着けていた指輪の手で刺したんやろ。せやから指輪はおじいちゃんの店に預けた」
「なんで、わかるのよ……ドレスには血がついてないはずなのに……綺麗なままなのに」
「だからや。この街の霧事情は知ってるやろ。十月の寒空の下、
「うぅ……汚せるはずがない。でも
始終おどおどしていたミラリックは歯の根が合わない様子で青年を見る。残った一人、それはもう決まってしまったかのように彼を
「犯行現場は質屋ウィクべス! 刺したのはキリル女史! その死体をケースに詰め込んで運んだのはデヴィッド……せやけど一番
「ち、違う!! 僕じゃない!! 大体僕は彼の同僚で弁護士だ! 殺す必要性などどこにもない!!」
「アンタ以外に被害者を
「違うぅうううぅうううぅぅぅううううう!! 僕じゃない!! 僕じゃないんだぁああああ!! 殺したのはそこの女だ!!」
「観念せい!! アンタが馬鹿なことを考えなければ、誰かが手を汚して泣くなんてなかったんや!!」
まずは被害者であるケビンと一悶着起きた人物を集める。集合した後に今回の事件の計画と流れについて説明する。
役割を分担し、一人では不可能な犯行にすることで、疑いの視線を散らしていく。
体が小さいウィクべスには無理な
もしも誰か一人に疑いをかけられ、裁判になっても弁護士である自分が証拠を
質屋の倉庫に招き入れてしまえば人目は限られた者だけに。アイリッシュ連合王国にとって質屋とは担保を元に小金を手に入れる銀行に近く、信用できる質屋は倉庫の構造がしっかりとしている。
ウィクべスが前の裁判でケビンに言い忘れたことと証拠があると、質屋の倉庫へミラリックと共に入り、そこでキリルが外套を着た姿で涙ながらに
動揺したケビンの体をミラリックが
隠れていたデヴィッドが動かなくなったケビンの体をうつ伏せの姿勢を崩さないように
背中に血が付着していれば他の場所で血が出たと証明することになるため、
ケースやナイフ、キリルの指輪などはウィクべスが預かり、質屋の倉庫の中でも
後は全員でアリバイがないと告げるだけ。アリバイがあっても、容疑者同士で作ってしまえば
「アンタは世紀の大馬鹿や! 被害者がどんだけアンタを信頼してたか、相談を持ちかけられたギルドメンバーが知っとるわ!」
「あのー、ギルドにも
「死人に口なしや! 文句言うこともできひん! ぱぱっと喋ったれ!」
「……友人の
泣き崩れていたキリルの涙が止まる。同時に
ユーナは思い出しながら怒り始める。
「胸ポケットに入っていた指輪はそういうことやねん……つまりな、ミラリックがケビンを呼んだ理由はそこや。自分が協力したるさかい、人目のない所で話し合ってみてはどうかとな」
「……あの……あの男はぁあああああああああああああああ!!!!」
怒りの
美人の顔を崩しながら
「す、すみませんんんん! でも僕だって仕事が欲しくて、注目が集まる不可解な事件の弁護なら、しかも自分が裏側を知っている事件ならってぇええええ!!」
キリルの形相に心底
推理劇が終わり、犯人は護送馬車によって連行され、集まっていた記者や一般人も去っていった路地裏には四人の人物が残っていた。
一人は車椅子に乗った青年、もう一人は助手、容疑者から外れて清々したユーナ。そして何故ユーナが犯人に含まれないのかと怪しむドバイカム・グレープという警部だ。
くたびれ
「魔導士が事件を起こした言うて、アリバイないこと自体がおかしいんや。せやから最初から容疑を外していたわ、
「その呼ばれ方が
「……カナン・ボイル、捜査の協力非常に感謝するが……あの助手の
「酷いな、ドバイカムくん。吾輩はこう見えて小説のために警察の
ドバイカムに指を差されたバロックは、蝙蝠傘を開いて日差しを避けるように立つ。
「お前の小説なぞ見たことも聞いたこともない! どうせ本屋にも並ばない三流作家め!」
「今度新聞で
「絶対見るもんか! 大体コージ外勤主任も相変わらず怪しい人脈と人望を作りおって! カナン・ボイルと知り合いでなければ上層部に
「ま、今回のコージさんの行動は
コチカネット警察では現在人手が足りない状態で、巡回する警官も
ドバイカムもこれから急いで署に戻って調書を作成しなくてはならないため、近々謝礼を持って行くとカナンに告げて立ち去った。
「……さて、バロックんは連載があると
「それがアルトさんは緑鉛玉の
「ほな、ユーナんはどないやねん? もしかしたら今回は魔導士の知識必要な事態かもしれんし、白魔法しかない僕には一緒にいてくれると心強いんやけど」
「さすが。
そしてバロックに別れを告げてからユーナはカナンの車椅子を動かし、助手としてロンダニアの街を歩いていく。
秋も深まる
「カメリア合衆国やと、ハロウィーンっていうアイリッシュ連合王国じゃ古い祭りで
「一応、十月三十一日は古来において年の節目ですから。でもあれって地方の祭りですし……やはりロンダニアでは
「うーん……せやけど今回僕が関わりたいのは、そっち方面やねん。なあ、
「それは『
「僕もそれが知りたいんや。だから専門家の意見が必要やってん。これから情報提供者に会いに行くんで、
わざと
これは
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