EPⅠ×Ⅴ【暗殺集団《Assassin×group》】
アイリッシュ連合王国の中心都市ロンダニア、スタッズストリート108番。そこは
住人自体が家を
そんな家が昼過ぎ、今、またもや
「もー、直すのも楽じゃないのですけど……ああ、そういえば制作ギルド【唐獅子】で蒸気機関
「ユーナちゃん、
重苦しい
ジタンはまたもや目の前に現れた不可思議な時計盤を見て首を
「この青魔法は『
「え!?」
チドリは深い
新品同様に戻らないのは、ユーナの美学なのかトキナガの限界なのかとギルド内で盛り上がったが、結局正しい答えには
「うーん。魔法を使った際に家に人間が保有する
「移動しているなら、ヤシロさんが
ナギサの疑問に
「おい。聞かせたくないからって力技がすぎるといつも思うんだが。相談してくれれば
「
「……どういうことだ?」
「緑魔法。物体に『
ユーナの簡潔な答え方にチドリは眉を寄せる。ナギサとハトリも顔を見合わせ、次にユーナに顔を向ける。
少し
いまだ電報が
『はい、こちら万福屋フーマオです! 輸入品から
電話口から明るい声が
背後から聞こえてくる貿易港から
「フーマオさん。単刀直入にいきますわ。マティウス・アソルダという名は
『これはこれは、ユーナのお
「
『……だそうですよ、アルトの旦那』
電話口から聞こえてきた名前にユーナは持っていた受話器を壊しそうになった。傍らで聞き耳を立てていたハトリ達も疑問を
通信先の向こう側では雨が降り出したにも関わらず港の賑やかな商売の声や人の会話が
『姫さん、
「……それよりも、
受話器を受け取ったであろうアルトの説明に頭が痛い思いをしつつ、ユーナは確信を持った声で
道理で蒸気機関自動車で
『なんだ。もうそこまで辿り着いちまったのかよ。せっかく俺様が最終局面で悪役の如く種明かししようと
「あ・な・た・は・こちら側でしょうがっ!! 他には? 他にはなにを
『俺様からすれば姫さんの嫌がらせなんて
「女装」
『よーし、なんでも聞いてくれ姫さん! 俺様喜んで情報提供しちゃうぜ!!』
コルセットで骨を折られたことがある男は明るく早口で
調子のいい電話口の相手をどうやったら
「ジラルドさんは
『ザキル団の
「……ジラルドさんはカンド
『
愛国精神が強いユーナでも産業革命による都市部への人口集中や追いつかない
貿易や産業革命による人材の流通問題は深刻だ。グレイベルに集まる異国の民という者には、連れてこられたという
過去においては
アイリッシュ連合王国は島国である。どうしても他国の者に
だからこそ他国から連れて来た人材を当初はもてはやすだろう。しかし時間経過によって様々な問題を理由に
『ついでに言えば妹はカンド帝国の人間が産んだ子供だ。だから
「……そう。良い人だったのですね」
『だから富豪おばさんに気に入られ、成り上がり……殺された。首を
「コージさんが聞いたら泣きそうな顔をしますわよ。で、警察ですら
またもや受話器を
『富豪おばさんが調べたに決まってんだろう、姫さん。まさかあの『
「……それは、
『そしてわかるのは、ジラルドっていう奴は
姿が見えないのにユーナの
本格的にユーナが受話器を
受話器に耳を近づけていたナギサとチドリは、ハトリのファインプレイに一息つく。ギルド内の破壊天使はナギサだが、破壊女王はユーナである。
「……完璧に死んだ人間に安全
『だーよーなー。大正解だ、姫さん! 特別に俺様のあつーい茶をプレゼントしちゃうぜ!』
「
安全棺とは、間違って
ジラルドはジタンが働いていた工場の人間であり、川に浮いて死んでいた人間。その生死に関しては警察だけでなく、世界で七人しかいない最高位魔導士が証明していた。
完璧に死亡が確認された人間。生き返ることはない。しかし彼の墓はまるで生きている、いや、動き出すのを予兆しているように鐘が鳴る仕組みの安全棺が
「……墓の手配は誰が?」
『紫水晶宮の魔導士。だから管理ギルド【魔導士管理協会】も、クロリック天主聖教会も疑わなかった!! あれは魔力処理がされた死体だと!!
「でも
誰も正体を知らない最高位魔導士。しかしその権力は女王によって
管理ギルド【魔導士管理協会】の
どちらの責任か。元から『
そしてアルトが口に出した富豪おばさん、緑鉛玉の富豪ヴィクトリア・ビヨンドは最高位魔導士。紫水晶宮の魔導士とは知り合いである。
責任の
アルトはそんな時に便利な男である。
紫水晶宮の魔導士は正体を置いてけぼりのまま、名前だけが独り歩きしている状態だ。しかし女王から
だからこそ疑う者が出始める。本当に目の前でその名前を使う者が、女王から一字を与えられるに
垂らした
「ちゃっかり車まで手に入れやがりましたわね! この野蛮猿! つまり墓場にわたくしを連れて行ったのも貴方の企みですわね!?」
『いやー。実はクロリック天主聖教会から紫水晶宮の魔導士が何でも屋ギルド【紅焔】を
「ここであのエール腹が出てきやがりますのね!! 今警察で取り調べ受けていますわよ!
『あー見えておっさん白魔法得意だからなぁ。少し
家の外から
ヤシロが留守の今はナギサの失敗をフォローできる者が近くにいない。少しでも家への被害を減らすための
「……で、墓場にどんな仕組みを? わたくしの推測だと
『
「魔法の法則文は墓に刻めばいいですわね。見えないように、
『姫さんはなにを招こうとしたかわかっているようだな。坊主に聞かせて
ユーナは横目でいまだチドリに背負われているジタンを見る。
「ええ。
勢いよく顔を上げたジタンの顔は真っ赤と真っ青を行き来する。ばれていた
ナギサは起きていたことに大げさに
「死体に残した魔力を青錫の鐘で
『魔道具
「ただし緑魔法は物体に『
『あの時、まだ発明王は依頼を
ジタンは進められていく話に口が
嫌な
何故ならばジタンは
「ジタンは『
ユーナの冷静な声が水のように頭の中を冷やしていく。ジタンはどこかで
だから何度も狙われた。妹だけでなく、兄であるジタンも。そのせいでコージは首を折られ、ユーナ達と
ずっと守られていた。事実を認めたくないジタンは顔を
「ただまぁ……杖刀でちょこっと壊したせいで、法則文と魔力の統制が崩れ、暴走。死体に『
『あれをちょこっとなんて
アルトの言葉が終わらぬ内にハトリは受話器を置いていた。チドリの背中を
今にも降りだしそうな空の下、
時には通行人の女性にぶつかり、
スリだと思われても仕方ないとジタンは考えていた。それに近い生き方と場所で育った。むしろ警察を呼ばれなくて良かったと安心したことに
ユーナ達に出会って嫌とも応とも言えないまま一緒に過ごした時間。それを思い出せば過去で
幼い
感謝はしている。
グレイベルの工場
今も助けようと追いかけてくる足音が聞こえるのも。嬉しいと同時に
妹のメルがどこにいるかも知らない。ジラルドはもうどこにもいない。家族はいない。友も、仕事場も、どこにもない。
ここは
「う、あ、あああ、あああああああああああ!!」
「ジタン! 落ち着け!」
一足早く追いついたチドリが
それすら苦痛になったジタンは暴れる。通りを歩く人々は何事かと嫌な視線を向ける。そちらの方がジタンは落ち着いた。
人々は急ぎ足で家へと帰っていく。その背中をチドリの
もしもこの件が終われば、もうユーナ達の
ぶら下がり宿で大人達と一緒に
「なんで!? なんでだよぉっ!! なんで俺に、俺に優しくするんだよぉっ!? 幸せなんか知りたくない!! 知りたくなかった!!」
圧し
立ち上がれなくなる。幸せを知る前ならば誰でも
「こんな世界……こんな世界に生まれたくなかった!!」
親の顔も知らない。優しくしてくれた人は死んでしまう。大切な妹は贄の扱い。未来に救いはない。
どんなに幸せになっても、ジタンの生まれは変えられない。産業革命によって
チドリは耳の横で響く叫びに
ただひたすら強く抱きしめて離れないようにするので
雨が
石畳を叩く
「パードリー……お姉さま! もしかして……」
ナギサが拾い物をした犬のように
ただ紫色の
「――血脈よ、示せ!! 主への道筋を!! 心臓が動き続ける限り、その命の限り!!――わたくしの
雨にも負けず、風にも負けず、水溜まりに浮かんでいた血は一本の糸となって伸びていく。それは死体が動き出した墓場に向かっていた。
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