EPⅠ×Ⅲ【蒸気機関車《steam×locomotive》】
フェンチェスト・ストリート駅。
小型の駅であり、終着駅としての機能も果たす。
整備倉庫も点在しており、整備車両用の道もいくつか
蒸気自動車に乗っているユーナ
倉庫に整備
雨の
しかし倉庫内部は機械油や鉄の
不自然なほど大きな
倉庫内は
遠くから聞こえる汽笛や車輪の音は、少年にとって現実
「おーい、ピンボケおっさん。
「年上に向かってその
窓から手が伸び、招くように動く。
男性の声に
アルトは倉庫の
車両の中に入った少年は息を
蒸気機関車の車内自体が初めてだが、その
上品な
備え付けの机には、
赤い
その車両を自分の家に使うような男が、白衣を旅行
男は
彼は広い額が印象的だが、
「こちらはジュオンさん」
「人助けギルド【流星の旗】の一員であり、医師
「小生よりもそっちの
「じ、ジタン」
小声で名乗った少年に対し、ジュオンは理知的な
「よろしくな、ジタン」
「その
メルの
こびりついた
この状態のままでは正しい
車両の外で話し合っていた青年二人に、ジュオンは声を張り上げた。
「
「え? 火の用意は……」
「ボタンを押せ。それだけでいい」
樽に近付けば、最新どころが発表もされていない
流通も整っていない製品の登場に、コージは
「こ、これは!?」
「マダム・ビヨンドからだ。実験体代わりに、この車両を短期間借用してるんだ」
「それって危険性があるのでは?」
「安心しろ。ミスター・ウォーカーの自信作だ」
「りょ、
感心するコージの背後では、アルトが適当なボタンを押して
こぽこぽ、と
「ジタン、妹さんをお
「え……?」
基本は冷たい水での行水しか体験していないジタンは、
妹は熱に浮かされる意識があやふやな状態だ。熱い水に触れさせて問題ないのか。
下手すると死んでしまうのではないかと、妹を抱えたまま
「風呂には保温効果があるんだ」
「?」
「湯冷ましは危険だが体を清潔にしないといけない」
「……?」
説得を試みるジュオンだが、少年にとって
視界に映るのは、疑問が消えない表情だけ。長い
「
ユーナは
「洗い方ならばコージさんが教えてくれますから、妹さんのためにもお願いします」
「で、でも」
「あ、この
しかしジュオンにとっては、首が痛むほどの速度で
「小生のブランド石鹸!? ぐっ……仕方ない。今日だけ特別だ」
車両の窓から
しかし気に
「もうなにがあっても驚かないからな。この間なんか……」
「カンド
今までの事件を総ざらいし、文句を言おうとした。
しかし聞こえてきた名前に
新記録でも打ち出せそうな速度で受け止めるが、それ以上に動揺が治まらない。
「あんまりメルの体を見るなよ」
「善処する」
「好きになってもいいけど、
「そういう心配だったのか!? 幼子に手を出すほど女日照りに見えるのか!?」
初めての熱湯風呂にジタンは、年相応にはしゃいでいた。肌が
誤解されかけているコージは苦笑いだが、少年の
平和な光景に見えるが、妹の意識は
その意味を理解しているユーナは溜め息をつき、肩を竦めて説明を始めた。
「事の始まりは
「昔に流行した小説で見たぞ。
小説の内容を思い出して、ジュオンは
空気が消えて苦しくなっていく過程と、
その生々しさは
「とある墓場で
「……」
「チリン、チリン、と夜明けまでずっと……
「うわぁ」
暗い夜の
それを具体的に
「それが一つならまだいいですわよ」
「複数かよ」
「十、十五……それ以上の墓が、鐘を鳴らしていたようです」
げんなりしてきたジュオンにも構わず、話を続ける。
「チリリン、リリリン、と合奏。挙げ句の果てには、死体が動き回るとかいう
「いきなり気が
体を
彼の横には、いつの間にか
コージが驚いたように声をかけ、渡された領収書に悲鳴を上げた。
だがメルに目覚める気配はない。
「約三か月前に死んだ工場主任」
小さな新聞記事を取り出す。
ポケットに入れていたせいで
川に浮かんだ水死体。
「もしかしてジラルドさんか? あの人は良いおっさんだった」
心当たりがあるジュオンは、しみじみと
浅黒い肌が健康的な男で、
「子供が好きでな。工場の仕事が終わった後、学校に行けない子に計算や語学を教えていたからな」
「彼の墓も鐘を鳴らし始めたということで、ヴィクトリアさんからアルトさんへ
「マダムの依頼か。難題をふっかけられたな」
「気軽に
意地悪に笑うジュオンを見つめつつ、肩を落とす。
「いざ墓場に行ったらどこかの
「死体に残った
「それについてはまた後に。とりあえず
「うわぁ」
「気持ち悪いというのに野蛮猿は
ジュオンの目に浮かぶ。
霧が深い夜。冷たい地面から
アルトは器用に
すぐにでもアルトを
最終的に
問題解決が可能な『
「どうやら別事件があったようでして、ジタンはその時に警察の保護下に。そして今に至りますわ」
「本当にアルトが
大体の事情を
「妹を助けたい少年を、無下に
「いつものことだろうが、それ」
正義感で動いているならば苦言を渡せる。
だが完全な自己満足で行動するため、説教も無意味だ。
ジタンが妹を抱きかかえ、車両に入ってくる。
真新しい服を着たメルは、
しかし苦しそうに
乾いたばかりの黒い
青いエプロンドレスでも、隠しきれない病気の深刻さ。
ジュオンは少女の額に手を当て、様子を窺いながら白魔法を使う。
「
「額に第三の目が血で描かれていましたわ」
お湯で消えてしまった
ぴりっと痺れる感覚が、
「血は黒き母への
「……おい、さっきの件は魔方陣で引き出すと言ってたよな? まさか!?」
「確証はありません。だけど死体が勝手に動き出したなら、緑魔法で簡単に説明がつきますもの」
舌打ちしたい
痛みの軽減により安定して眠る妹が、ジタンの目には映っていた。
アルトと共にコージが、車両にゆっくり入ってくる。
寝台で横になっている少女の
不安そうな顔をするジタンの肩を抱いて、ユーナは少し考えた。
気付かれないように、
急性的な
「コージさん、ジタンを横に」
「あ、ああ……」
少女の強硬手段は
空いている寝台に少年を
「緑魔法は『
「さっきの続きか。それで?」
治療の手も止めず、ジュオンは聞き耳を立てる。
「死体が動いたならば、魔力に引き寄せられた『
説明を続けたユーナに、非難の視線を向ける。聞かせたくないとはいえ、手段が
ジュオンの睨みを無視して、少女は頭の中に仮定を組み立てる。
「どうも墓場の横に彼を
寝台で毛布に
「それに追っ手。赤魔法を使った
「火球を投げた者か。あれがどうして赤魔法と?」
「
魔法が楽と言われても、コージにはいまいちピンとこなかった。
「察知する前に飛んできた。つまり魔力に任せた、
「姫さんはザキル団に魔法を教授した奴がいて、そいつが主導権を
アルトのまとめに小さく頷く。簡素だが、一番わかりやすい結論。
しかし治療を続けるジュオンは、
「追っ手はどうなった?」
「杖刀の
「それは暴挙だ。絶対、その物騒なものを小生に近付けるなよ!」
帯刀されている黒い杖刀。大人しく見えるが、今にも動きそうな
それを恐れ、警告する。魔力を吸われては治療どころではない。
魔力の流れをほぼ正常に戻したおかげか、メルは少しずつ
しかし熱による汗が酷く、額に手を当て続けているジュオンの手も
「コージ、タオルを水に濡らしてくれ」
「わかりました」
「氷を魔法で作れるか?」
「もちろんですわ」
人手が欲しい。足りないものはその場で補っていく。
次々に指示を出していくジュオンは、
「そこに米があるだろ。
「なんで
ぶつぶつと文句を言いつつ、アルトは
秋の寒い風を肌が感じてしまうと、
野菜スープを作り、そこに米を入れようと
「――海の果てで眠る
現れた氷の表面には
かんかんと屋根を打つ雨の音が、倉庫内の
「雨も降り始めたようだ。私は警察署と
「そうだな。今夜一晩は様子を見た方がいい」
「敵の心配は?」
「ここはマダム・ビヨンドが立ち上げた鉄道会社の駅だ。
胸を張って語るジュオンだったが、そのせいでアルトの
電信機器を探すコージに、意地悪な耳打ち。
「んなっ!?」
「おっと。
どうせろくでもないことだろうと考え、あっさりと視線を
コージが倉庫から出て行く。その足取りはとてつもなく重い。
しかしアルトは鼻歌を口ずさみ、小型アルコールランプに火を
ランプの上に鍋を置き、材料を入れていく。にやにやと笑いながら
その晩は一等車両による
それでもメルは目覚めない。まるでなにかに
雨は
「え?」
倉庫にやって来た警官達に、治療
コージが何度も
「善良な市民の報告により、車内に
実際にその様子を見せられては、言葉が出てこなかった。
ジタンは警察にいい思い出があまりないので、一等車両内で姿を隠している。
「いやー、事故に
陽気な明るい声。
「これも
「お・ま・え・か! 最初からわかって、コージに警察署へ電報を送らせたな!」
アルトに
警察の前で事件を起こすのは得策ではないため、コージが
「本当にすまない。しかし警察としては危険物は見過ごせない。時間はかかりますが、なんとか上に計らいますから」
「これだからお前達は
悲痛な叫びに、ユーナは深く頷く。ただし
しかし助けられるようなことではないので、
あっという間に車を持って行かれ、倉庫の
「仕方ない。看病もあるし、
そう告げたジュオンは、旅行鞄に荷物をまとめようと歩き出す。
警察が去ったのを
「重いだろう。持ってやろうか?」
「やだ」
打ち解けたと思っていたアルトだったが、首を横に
笑みが固まった青年に対し、少年から
「アルトの話すことは面白いけど……信じたら痛い
「はーはっははははは、ざまあみろ! 幼子にすら
「うるせぇっ、キャラブレブレのピンボケおっさんが!」
高笑いするジュオンに対して、耳を赤くしながら
その様子を微笑ましいと
「私は署に出勤するため、ここまでだ。後は
「もちろんです。
「了解だ。そちらもよろしくな」
コージは
「はい、そこ。機関車で借家にいきますわよ」
「おっさんが!」
「アルトが!」
「平手ではっ
近くに置かれていたドラム
手の平型の穴が空き、中に入っていた水が
次は自分の番だと理解し、二人は顔を青ざめさせる。
「野蛮猿、他にも隠していませんか?」
「どうだろうなー」
駅の改札口に向かいながらユーナは考える。
味方であるアルトだが、事件をややこしくする要因でもある。
しかし
「ジタン、小生の白衣を掴むといい」
「でもメルが……」
「だったら小生が抱えよう。
「……」
観光客や労働者、
小さなジタンは埋もれそうで、
「……落としたら許さない」
「わかってる。大事にするさ」
腕の中で眠る少女に手を当て、白魔法による治療を再開する。
動きながらも他人に魔力を流せる
「ジタン、ジュオンさんは本当に
「どこらへんが?」
「白魔法は他の魔法と
魔法の違いに詳しくない少年だが、体に作用するのだと
見えない力で、体を
「そのため体の構造にひたすら詳しいか、感覚で行うかの二極に別れますわ」
「だけど他人の体に自分の魔力で干渉するのは、前者じゃないと危険な
アルトの補足に、少年は用心深く睨む。
だがジュオンは変わらぬ様子のまま、人混みを
「動きながら誰かを治療するのは難しいですわ」
「……」
「ジュオンさんに感謝しとくといいですわよ」
大半に要領を得なかった少年だが、感謝という部分で気まずそうな表情を作る。
しかもジュオンは「背中が
ますますジタンは言葉を失くしていく。縮こまった姿は、どこにでもいる少年そのものだった。
「野蛮猿。あの車も
「うげっ。姫さん、
話題を
強く睨まれてしまい、軽い口がぺらぺらと動き出す。
「俺様も入手した後で爆弾に気付いてさ。それを調べてたら、
額に青筋が浮かんだ少女は、
「つまり墓場からのあれやこれも、大体は把握済みと。帰ったら説教ですからね!」
「黄金
「……」
「和国で魔法を広げてて
アルトの最後の言葉に、深々と頷く。
遠い目で、駅構内に入ってくる機関車を眺めた。
乗車から降車、そして徒歩まで。
五人は問題なく、スタッズストリート108番の借家まで
帰って来た音を察知したナギサが、メイド服姿で
愛らしい
黒い目は大きく、丸い顔とも相まって幼く見える。
本人の
しかし今も転びそうになり、スカートが
「お姉さま、お帰りなさいませ! ジュオンさんもお久しぶりです!」
「ああ、元気そうだな。ナギサちゃんはまだ感覚で白魔法を使ってんのか?」
「えへへ。たまにお皿を縦に割ったりしますが、元気です! あ、お子さんですか?」
「ナギサちゃん相手じゃ怒れないが、違うんだ。おーい、ヤシロ。今すぐ
苦笑いしつつ、
予期していたように、ヤシロが階段を下りてくる。
「二階の居間。準備はできている」
冷静な様子のまま告げ、執事は食堂の方へと歩いて行く。
階段上から
少女に抱きつく彼女の後ろをゆっくりと追うのが、物静かな美青年である。
「大変よん! ヤシロくんが一晩
「ああ、やっぱりですか」
予知できた内容に、少女はおどろくことはなかった。
「新しいの買うかで話し合っていたけど、どうするん?」
「リーダーはコージさんですから、一声かけたいですけど……チドリさん、制作ギルド【唐獅子】はなんと?」
美少女に抱きつかれたまま、美青年へと問いかける。
美しき
「直せないようなら新しいのを
「あら? お優しいような……」
「ただし用件があるとのことだ。気になる依頼が
オイシイ話は存在せず、タダより高いものもない。
それを痛感し、少女は簡単な予測を立てる。
「サハラさんが怪しむならば、意味がありますわね。マグナスさんは根がお
抱きついてきた美少女になされるがままの体勢で、少女は用事が増えたと息を
最中にジタンは
美少女――ハトリは
美しい
彼女の後ろに
目の色も落ち着いた深緑。自前の
ただし仕立てのいいスーツにストライプのチョッキなど。服装センスが
「俺様を忘れ過ぎじゃない? 挨拶くらいしてくれよ」
「アルトくんは
「それじゃあお言葉に甘えて存分に!」
少女から離れ、
その豊かな胸に、アルトの視線が全て注がれる。
コルセットでも隠しきれない
そんな彼と美少女の間に立つのがチドリである。
無言で
呆れた少女がジタンを連れ、メイドと共に居間へ歩いて行く。
すでにジュオンは二階の居間に進んでおり、美少女も一進一退の
取り残された二人は、溜め息を吐く。
その動作が
二階の居間は少しだけ様変わりしていた。
蒸気機関暖房器の横に工具箱が置かれており、
ナギサは
ヤシロが用意していた寝床は、二人分だった。
一晩中修理していた執事と、それに付き添うナギサのために作った簡易的なものだ。
それでもメルの体には、一人分だけでも大きいくらいだった。
「熱で長いこと食事を口にしていない」
「流動食やスープが適切か。
「スプーン
食堂から軽食を持ってきていた執事だが、それをメイドに渡す。
改めて食事を作るため、彼は階段を下りていった。
「妹さんもザキル団に
「う、うん。俺が
問いかけに答える少年だが、思い出すのさえ苦痛という表情を浮かべている。
「その時、他に変なこと言ってませんでしたか? 少しでもいいので、教えてくださいな」
視線を合わせるように床へ
強い
「えっと『女神に選ばれた体ならば、大丈夫。すぐに治るけど、それは俺
「
昨日の新聞を求めると、すぐにメイドが勉強用の新聞を持ってくる。
並んだ死亡記事、その内の一つをジタンは指差す。
絞殺された
指先が震えるのを反対の手で押さえるが、体全体が
「ここに連れてかれた」
小さな子供を連れて行くには、
少女の内心に
それを理性で
「
少年の手を握りしめ、新聞を彼から離す。
「しかし殺されている――ということは、連れてきた相手が代わりにやったようですわね。野蛮猿、この
「姫さんが俺様に下世話な意見を求めた!? 明日は雨じゃなくて雪か。どれどれ……うわ、かなりの高級娼館だ」
「わたくしはこういうのに詳しくないんですの。知りたくもありません! しかし今だけは感謝しますわ!!」
怒りながらお礼を告げ、新聞を眺めていく。
昨日の新聞一面には夜に急に現れた竜の恐ろしさを語る記事。
他を見ていけば、上流階級によるカンド帝国への訪問記録が
和国への強気な姿勢による外交と条約、下の広告記事には
一昨日と今日の新聞を求めたユーナに、執事がいち早く察知してその手に届ける。
やはり一般市民の要望も
「一昨日と昨日は
ユーナの目には
記者でなくても書ける場所。お金を出せば、内容問わず。
「気軽に
「メルのことか? まさか!?」
ジタンが苦心しながらも、広告の文字を読む。
文体は違えども、同一容姿の少女を求める声が並んでいた。
しかし今日の新聞には
広告記事に
逆に不可解になるのは、どうして妹がこれだけ重要なのか。
ジュオンは会話を聞きながら、白魔法の治療を続ける。
そこにメイドが心配したように声をかけた。
「あわわわ、
「料理以外で頼む」
メイドの
「俺が簡単なのを作ってくる。姉貴は淑女らしく、なにもせず、大人しく、
「むー。アタシの方がお姉ちゃんなのにん! 双子って
しかし美少女の料理も知っているジュオンは、美青年の言葉に深く感謝した。
「わたくしとジタンにもなにかお願いしますわ。野蛮猿のもついでに」
チドリが「了解した」と告げ、コート
メイドも手伝おうと
アルトは凹んだ暖房器に手を触れ、
暖房器を
「なあ、姫さん」
「カロック・アームズのネタバレはするんじゃねぇですわよ」
「飛空挺が出てきたことも?」
「この野蛮猿がっ!」
楽しみにしていた特別出張
来客用の椅子は
「埃を立てるな。治療の邪魔だ」
「……すみません」
集中を続けるジュオンに注意され、少女はソファを元の位置に戻す。
わずかな震動が
「長引きそうだ。飯食ったら出かけるといいかもな」
「留守番は?」
「アルトとヤシロで充分だろう」
底が空いたバケツのように、一時的に回復してもすぐ悪化する。
「わかりました。ハトリさん、よろしいですか?」
「ユーナちゃんとデート!?」
「……まあ、お好きにどうぞ」
「もちろん行くわよーん! ナギサちゃんも一緒に行きましょうよん!」
「は、はい! こ、これがトリプルデート……僕、なんだかドキドキしてきました」
はしゃぐ女子二人に対し、アルトは自分も連れて行けと眼力で語る。
だが少女も負けない視線で、戦力不足は許さないと
メリットとデメリットを計算し、比類する女子の輪という華やかな空間を
アルトは
チドリが
話の流れをジュオンから聞き、はしゃぐ姉に不安を覚える。
「俺も同行する」
「クインテットデートですか!?」
「一人多い。カルテットだ。いや、デートの頭数に俺を入れるな」
「お二人は揃った方が強いですから、お願いしますわ」
「ああ。姉貴は任せろ」
言い草に多少の引っかかりを覚えたが、少女は深く追求しなかった。
「とりあえずコージさんに、戻ってきてほしいと電報を送らなくては」
明らかに人員の差ができる。青年や執事が強者の部類に入るとはいえ不安になる。
ジュオンは戦力としては数えていない。治療が第一であり、
お出かけ用の服を
彼女の手伝いをしようと、双子の弟とメイドが付き添う。
「お、俺は……」
「気分
「でもメルが」
「小生が見ておくさ。任せておけ」
妹を治療し続ける男の言葉は無下にできず、ジタンは渋々頷く。
アルトはその頭を
「サハラさんがわたくしに意見を求めるって、魔法関連かしら?」
「むしろ姫さんに他でなにを相談しろと? 恋愛経験も薄いくせに」
からかう言葉を聞き、
やばいと思った
「……そういえばお説教を忘れてましたわね、野蛮猿」
逃げようとした青年の目前に、杖刀が降ってきた。
床板に
「今すぐそこに正座! おばあ様に比べれば可愛い説教とやら、とくと味わいなさい!」
「せめて食ってからにしようぜ!? 色男の料理が冷めちまうぜ?」
背後には少女、前方には杖刀。
挟まれた青年は机の上に助けを求めるが、美青年が冷ややかに告げる。
「冷えているものばかりだ。存分に前菜として
「色男、この
下品な言い方は焼け石に水だった。
さらに腹を立てた少女は、怒りの一撃で背中を押す。
杖刀に青年の体を触れさせ、魔力を
その後は望み通り、
階下から戻ってきた執事が、赤魔法で音を
しかし家具を揺らすほど激しい大声は、青年から余裕を
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