第3話 golem

 ゴレームの誕生には科学技術だけでなく魔術のようなオカルトと言われる技術体系が寄与している。機械工学やロボット工学だけでは人間の動作をトレースし、しかも人間の様に柔軟な動作を実現するのは困難だった。そこで魔術や錬金術といった技術が注目された。ゴレームは土から出来ている。かつて土塊から作られたヒトがいた。彼は王の友人として冒険を繰り広げ没した。ゴレームも彼の様な人類のよき隣人となるべく、労働の代替装置として開発された。人間の体と同じ運動自由度を持つが、外見までもが人間そっくりというわけではない。人間の社会に溶け込むゴレームが、人間に置き換わる事への恐怖からか、開発者達は不気味の谷を超えてヒトとしてゴレームを創る事を躊躇った。その結果、ヒトとは似ても似つかない労働の代替装置ができあがった。彼らは人間たちのよき隣人として、社会に溶け込んでいる。最早、産業はゴレーム無しでは成り立たない。工場労働者の仕事をゴレームが代替するようになり、人間は長時間の重労働や単純作業から開放された。今ではゴレームのメンテナンスやラインの管理が主な仕事だ。

 ゴレームが労働力として人間に取って代わることができたのは、人間と同じ運動自由度を有する腕と人間の様な繊細な動きが可能な指、そしてヒトの様な眼を持ったからだった。これらと人工知能が組み合わさることで、労働の現場でのゴレームの価値が飛躍的に向上した。こうしてゴレームが普及する事になった。シンギュラリティを迎え、人間の知恵の及ばない領域で演算をするようになったAIが機体を得た意義は大きかった。AIがコンピュータの中から外へと直接影響を及ぼせる様になったわけだ。現実世界に直接干渉できる機体を得たことで、コンピュータの中のヴァーチャルからコンピュータの外のリアルな世界へとその影響力が及んだ。これにより我々の世界は加速度的に変化したと思われるかもしれない。だが、AIが機体を得た事で変わった事にはあまり気づかない。しかし確実に世界は変わっている。

 

 ゴレームは飽くまで労働の大体装置であり、人間とコミュニケーションを取る様な事は実は得意とはしていない。接客業にゴレームが使われる事もあるが、簡単なやり取りは出来るものの、あまり複雑な会話はできない。ゴレームによるワンオペが行われている事もあるが、客とのやり取りは最小限にとどまる場合が多い。この辺りもゴレームが人間に親しみ過ぎるのを恐れたが故の仕様だろうか。

 「と、まあこんなところね、ゴレームの概要は。」

 一通り話し終えた先輩-白衣さん-が言う。

 「私はゴレームの会話力を向上させるにはどうしたらいいか研究しているわ。データを収集して学習させる方法や人間が裏でサポートするとか色々模索しているのよ。あなたも何か役立ちそうなアイディアがあったら言いなさいな。」

 アイディアを求められてしまった。それならば、

 「人工知能を使って学習させたらそれなりに会話できるようになるんじゃ?」

 「確かにある程度はそれでもできるけれど、細部が不自然になるわ。人間の様には行かないの。」

 う~ん。難しいらしい。人工知能万能だと思ったんだけどなあ。技術的特異点を超えて久しいが、まだ人工知能には改善の余地があるという事か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る