第2話 library

 入学手続きをするんだった。学生課に行かねば。学府は街の一角を締めておりその面積はかなり大きい。昔の大学で言う総合大学に当たるだろう学府は様々な学部を有している。その中で学生課は主に事務手続きをしたり学徒の生活の支援などを行っている。僕はまずは学生課で入学手続きをする事にした。学生課は学府の中央にある。様々な施設のある学府の中央にあるのはそれだけ利用頻度が高いからでもある。これまでの経歴・名前・出身地などを記載した書類を提出し、学生証を発行してもらう。これで手続きは終わりだ。学生証は学徒である証であり、電子マネー機能も付随している。首都では汎用的な身分証として扱われる。学生課のお姉さんから学生証を受け取った僕は図書館に向かうことにした。

 図書館はかなり大きい。首都全市民に解放されていて、学府の中だけではなく、地域の公共施設として利用されている。専門書から小説、ビジネス書、古書などカバーしてる範囲はかなり広い。図書館は混んでいた。蔵書の数は一千万とも電子化されたものも合わせると1億とも言われている。これだけ多くの情報が集まっているのだから、それを求めて訪れる人も多い。学府同様、老若男女問わず色んな人がいる。

 ふと、視界の端に白い何かがよぎった。周りを観てみると、白い、布だ。いや、正確には白衣だろうか。それがちょこちょこ動き回っているようだ。錬金術の棚の辺りで、どうやら上の方にある本を取りたいらしいが、届かなくて困っているようだ。それにしても小さい。背丈はせいぜい百四十センチくらいしかないんじゃないか。僕は百六十センチはあるが、男としては小柄な方だ。その僕と比べてもやたらと小さい。僕は本を取って上げることにした。

 「はい。これでいいかな?」

 本を手渡す。相手は驚いた様子で、

 「!?あ、ありがとう。」

 と礼を言った。声からすると女性らしい。まだ子供だろうか。ちなみに取った本は「錬金術ーその歴史と変遷」だった。・・・子供が読む本にしては難しい気がする。

 「錬金術の勉強?でも難しすぎない?もっと簡単な・・・そうだな絵本とかだったらあっちの棚に・・・」

 ん?相手がぷるぷる震えてる。観ると白衣の袖も裾も余っている。ぶかぶかだ。その白衣が震えてる。

 「わ、私は大人だ!!」

 ・・・子供だと思ったら大人だった。しかも学府に所属しているらしく、僕の先輩にあたる。子供扱いに酷くご立腹の様子。どうしたら機嫌を直してくれるのだろうか。ん~思いつかない。「見た目で人を判断するな」とか、「敬意が足りない」とか喚いている。困ったな。

 「錬金術、詳しいんですか?」

 相手の関心が向いてるものに話題を移そう。

 「む?私はゴレームと錬金術について主に学んでいるの。錬金術ではホムンクルスを創るけれど、その技術をゴレームに応用できたら面白いなって。」

 お、作戦成功。どうやら機嫌は直ったらしい。しかもゴレームと来た。これは仲良くなっておかねば。

 「僕は今年から学府に入りました、ゴレーム造りに興味があります。」

 「今年から?それじゃ私の後輩ね。ゴレームについて知りたいならおしえてあげるわよ。」

 白衣さんによるとゴレームは科学技術のみで造られたわけではない。魔術や錬金術などのオカルト系の技術も組み込まれているらしい。この世界では科学技術のみが発展したわけではない。魔術も発展している。幾つかの技術体系が組み合わさって社会が構成されている。錬金術ではゴレームとはまた異なる人造人間が創られている。それはホムンクルスだ。ホムンクルスは蒸留器に人間の精液を入れて四十日密閉し腐敗させて造るらしい。昔は、精液の中に人間を小さくしたものが入っていて、それが成長して大きくなって人間になると考えられていたとか。実際には精子と卵子が受精して発生し段々と人のkたちを成していって胎児ができていくわけだが、昔の人はそう考えなかったらしい。

 さて、ゴレームはホムンクルスと違い、人間の精子を使ったりなんてしないわけだが、ではどうやって造られるのか?機械工学、電子工学、ロボット工学、人工知能、etc・・・と様々な分野の知識が集まって造られているという。中々難しそうだ。人工知能が人間の知性を超えて早半世紀、人工知能によって人間には出来ない設計が行われるようになった。人間は人工知能が提案した設計案の中から気に入ったもの、目的に合致したものを選択すればいい。ゴレームの設計にも人工知能は活用されている。まあ、今や人工知能が利用されない分野の方が珍しいわけだが。図書館の机で白衣さんの講釈を受ける僕。中々面白い。

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