禁酒法の街に響く賛美歌 03

今日も走る~転ぶ~そして~刺される~。

状況を整理しよう。

三叉路は「Y」の字をイメージして欲しい。

その中心あたりでコケるテミスと長身痩躯のチンピラA。

左の頂点あたりから接近してくる背が低めのチンピラBと、相対するリック。

下の頂点から巨漢のチンピラC。

そしてこの中のどこかにいるが視界に映らないメイ。という構図だ。


チンピラBは拳を引きながら駆け寄る。

迎え撃つために銃を構えるリック。

しかしこの距離では銃は間に合わない、目の前にチンピラBが迫ったその時だった。


リックには見えた。

消えたはずのメイが、逃げたと思っていたメイが、チンピラBの背後でナイフを持ったまま、笑っている。いや、嘲笑っている。


次の瞬間、チンピラBが呻き声を上げた。

よく見れば、脇から血を流している。動脈を切ったのだろうか。


チンピラBはたまらず腕を振りかぶる。

しかしメイはゆらりゆらりと攻撃を避ける。

避けているというよりは、運良く当たっていない、が正しいのかも知れないが。


リックは銃を抜き、メイに当たらぬように慎重に照準を定める。しかし、その、正直にいって動き回るメイが邪魔だ!!


後方からは巨漢のチンピラCはどすどすと近づいてくる。乱戦になれば苦戦は必至。1人は無力化したいところだ。


背中を刺されて地に伏していたテミスは筋力に任せて地面を叩き飛び起きる。

同時にチンピラAの土手っ腹に鉛玉をお見舞いしていた。

当たったのは一発だったが、急所を貫通している。

チンピラAはその場に崩れ落ちた。


メイは再度ナイフを振るも、戦闘スキルなど持ち合わせていない、「比較的」一般人の彼女の攻撃など当たるはずもなく。


しかし手負いであるチンピラBの攻撃もメイには当たらず。

泥沼になるかと思われたその時。


目の前でチンピラBの頭は吹き飛んだ。

メイが脳漿越しに見た景色は、リックが針の穴を通すようなヘッドショットを決めた姿だった。


「無事か?」

「もちろんー。」

「さて、シスターは……デカいのに行ったか。」


テミスはチンピラAが倒れるのを確認すると、そのまま巨漢のチンピラCに向き直り地面を蹴る。

もちろん背中にナイフが刺さったままで。


チンピラCは向かってくるテミスを抑え込もうとするが、テミスは股の下をするりと抜ける。


今度こそ、2丁での4発射撃が、大きな胴体に命中する。一点に注ぎ込まれた弾丸は、風穴を開けた。


こうして血の雨は上がった。

惨状をその場に残して。


「おつかれ。さて、ここまでやる必要はあったか?」

「必要はありませんでしたけど、ネタになるかと。」

「敵意を向けられましたから?」

「まぁ、いいか。とりあえずどいつか叩き起こそうぜ。」

「どうしましょうね。医学の知識なんてありませんよ。」

「止血くらいできるだろ。やってみようぜ。」


頭の吹っ飛んだチンピラBはさておき、五体満足の残りのチンピラを手当てする事にした一行。……約1名背中にナイフが突き刺さったままなのだが。


「デカい奴から行くか。」

「お手伝いしますね。」

「……包帯じゃだめか。シスター、止血剤をくれ。」

「はい。」スッ


手に取ったそれを使ったところで、急変した。

巨漢はチューブの止血剤を突っ込まれたところで、ビクビクンッと痙攣し、動かなくなった。


「あれ、あっ、オイ!!」

「はい?」

「これ辛子じゃねーか!!!」

「あらやだ間違えましたわ。」

「仕方ねえ次行くか。」

「切り替え速度早すぎませんかぁ??」

「おっ、このチンピラAはは行けそうだ。……よし大丈夫だ。」

「もうじき目を冷ますだろ。」

「じゃあ他のやつはお片付けしておきますねぇ。」


ズルズルと遺体を引き摺ってゴミ捨て場に放り込み、新聞を被せて適当に隠蔽しているのは、当たり前のようにメイだ。

それを横目にテミスはリックの助けを得てナイフを抜き止血している。

あらかた終わった頃、チンピラAは目を覚ました。


「う……生きて、るの、か…?」

「ええ、誠に残念な事に。」


テミスは銃を突きつけ、ホールドアップを促す。


「もう何もしねえよ。何が望みだ。あいつらはどうした。」

「望みは道案内と情報。あいつら、と申されますと、生ゴミと化したアレですか?」

「なーに?もうすぐ処理終わるよー?」

「との事です。さぁどうしますか?」

「ま、まて!!」

「なんです?」

「弔いをさせろ。」

「ええもちろんです。是非お祈りしてあげてください。手短かに。」


運良く、いやこの場合は運悪く、生き残ってしまったチンピラAは、よろよろと亡骸の横にしゃがみ込み、ゴソゴソと漁っている。


しばらくして、男はナックルダスターとペンダントを手に戻ってきた。


「これでいい、さぁ何が望みだ。」

「まずはアル・カセッティという男についての情報を。」

「知る限りでは、イタリアンマフィアの一員。あの臆病なナリで良くやっていけているものだ。」

「他には?」

「行きつけのバーがあるらしいが、そこまでは分からんな。酔って帰ってくる姿を何度か見ている。」

「最近はいつ目撃した?」

「2〜3日前から見ていない。」

「やつの下宿は?」

「こっちだ。」


チンピラはちらっとゴミ捨て場を見て、少しうつむき、歩みだす。

しばらくヨロヨロと歩き、あるアパートの前で止まった。


「ここだ。ここから奴が出てくるのを見ている。これでいいか。」

「ええ、ありがとうございました。あなたに主のご加護があらん事を。」


テミスは袖の中に仕込んだ銃に手をかけている。

チンピラはテミスの両手を警戒しながら、一時も目を離さずに、ジリジリと横道へ消えていった。


「さて、一瞬の間に色々あったが、到着か。」


やっと、やっとの到着である。

だが、アルの下宿にたどり着いた彼らは、背後から近づく者に気付くよしもなかった。





幕間PL会話


見学者「殺す事無くない!?!?」

テミス(PL)「売られた喧嘩だし…思いっきり刺されたし。」

メイ(GM)「売った相手が悪い。でもワンキルされるとは思わなかったわ。」

リック(PL)「ある程度火力はわかったし上々。」

メイ(GM)「成り上がりのマッポがダークホースとは思わなんだよ。」

見学者「今のシーン、お前らが1番悪役だよ!!」

メイ(GM)「そろそろルーナPLが来るから合流できるようにな。」

全PL「うっす。」


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