第31話

精霊に見せられている光景。

そこは暗い場所だった。明かりが無い牢の中で絶望感や悲壮感を感じされる多くの人々。

その中に一人の男がやってきた。その男の両手には一本ずつ剣が握られていた。


そこから始まったのは蹂躙であった。

剣を持った男は牢に入るやいなや一番近くにいた女性を斬りつける。

即死ではなかったがもう間も無く出血多量で死んでしまうであろう傷を負わされてしまった。その瞬間の牢の中での反応は三つ。悲鳴をあげるもの、悲鳴すらあげれずガタガタと震えるもの。そして男を取り抑えようとしたもの。

取り押さえようとした数名の者は皆揃って闘いに覚えのあるものだった。

しかしそれを相手にしながらも男は両手に握っている剣こそが自分の腕だというかのように滑らかに一切の隙を見せずに屠ってしまった。

そのようなものを見せられれば牢の中にいるものも諦めたようで、皆静かに目を閉じる。



そこで場面は切り替わる。

今度は、、、実験室だろうか?中央に男性が寝させられている大きな手術台が置かれ回りには多くの人や魔物の死骸や骨が無造作に散らばっていた。

そこには1人の眼鏡をかけた老人。その老人は不気味な笑みを浮かべながら生気を失った様な顔をしている男の体をナイフで何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も刺し続けた。

ようやく満足したかと思いきや、今度は魔法を使い出す。青白いモノを男に埋め込んだその瞬間男はビクンと大きく跳ねた。その反応を見た老人は狂ったように笑い出し、もう一度男の胸を刺す。否一度ではない。二度目、三度目、四度目...何度も刺し続け、、、


それからも場面は幾度となく切り替わる。

その度に誰が傷ついていく。老若男女問わず、中には知能ある魔物がバラバラに引き裂かれ殺されるなんてものもあった。

それをやっているのは誰もかれも人間であった。






「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「おや、もう目が覚めたか。思ったより早かったね」


目が覚めるとそこにいたのは満面の笑みの精霊。


「なんなんですか、今のは、、、」


「んーっとね、さっきも言ったけどあれはノンフィクションで実際にあったもの。800年前にね」


800年前といえば、、、お母さんがちょうどその頃に大戦があったって言ってたな。たしか人魔大戦だったかな。


「そう、人魔大戦で合ってるよ。人と魔物がある日突然争い始めた戦争。この国では魔物が国の重鎮を殺したことから始まったとされている。でも真実は違う」


珍しく真面目な話し方をする精霊。

その顔を笑っているようだが、どこか寂しそうにも感じられた。


「最初に攻撃したのは今も伝説として伝えられている英雄ジークリアン。彼が魔物の国に大きな魔法をぶっ放したのが始まりなのさ」


「英雄ジークリアンが、、、」


まさに衝撃の事実だった。

なにせ戦争から国を救った英雄だというのにそもそも戦争を起こしたのが彼だと言うのならば本末転倒だ。


「といってもそう仕向けたのは僕なんだけどねー」


ケラケラと浮遊しながら俺の反応を楽しんでいる。しかしそんなことに憤る暇はないほどに情報が多すぎる。最近入ってくる情報多すぎだよ。


「ちなみにさっき見せた僕のほんの一部の記憶。それも大方僕のせいだね。中には関係ないのもあるけど」


だんだんと先生がなぜ精霊を殺したいと言っていた理由がわかってきた気がする。

本来なかったはずの戦争、それを引き起こした精霊への恨みからなんだろう。


「なんのためにそんなことを、、、それにあなたの目的は一体なんなんですかっ」


「質問が多いねぇ、まぁ答えてあげるけど。何のためにそんなことをするかって言ったら理由は単純。僕は人間が大嫌いなんだよ。あいつらは僕の家族を平然と消していく。だから僕もやり返したそれだけさ。魔物はその中での犠牲だね。で、僕の目的は800年前と変わらず人間共を絶望の淵に堕とすこと。眠っちゃってた間に随分と人が増えちゃってたから今はどういう風にするか考えてるんだよねー。説明としては以上だよ」


「そう、ですか」


精霊というものはよく分かっていないし、この精霊にも何があったのかは分からない。

それでもこの精霊に好きには絶対にさせちゃダメだ。


「絶対にあなたの思い通りにはさせません」


へぇ


そう小さく呟いた精霊は最後に一言。


「僕を止めてくれることを期待してるよ」


そう言い姿を消していった。

どんなことをしでかすかは分からない。

でも絶対に止めてみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る