第10話

「水の刃よ、その力をもって敵を切り刻め!ウォータースラッシュ!」


水の刃が魔物の腹を切り開き鮮血が飛び散る。

水魔法を使い目の前の大型の魔物を辛うじて倒すサラ。

その額には汗が浮かんでおりかなりの激戦だったことがうかがえる。


「小型の魔物ならまだしも、大型の魔物も引き寄せる魔道具なんて...」


先程から小型の魔物が村を襲ってきている。

そのことからきっと魔道具を使われたのだろうということは分かっていた。

しかし大型の魔物を呼び寄せる魔道具などそうそう出回らない。それを持っているとなるとハートの依頼主は只者ではないのだろう。


「まったく、無事なんでしょうね二人とも...」


二人の心配をしながら少しだけ気を緩めたサラ。


その瞬間サラに熊のような魔物が襲いかかりその爪を振りかぶる。

サラは一瞬の隙をつかれ反応が遅れる。

周りの村人は今にも殺されそうなサラに悲鳴をあげる。誰もがもう間に合わないと悟った。サラ自身ももうダメだと目を閉じる。






しかしいくら待っても衝撃はこない。

おそるおそる目を開けるとそこには倒れている魔物と、その魔物に炎の槍を突き刺しているジークだった。


「ジーくっ!」


「ごめん、お母さん遅くなって。大丈夫だった?」


炎の槍を消しサラに返事をする。

魔物の刺された部分は風穴が空いており断面は焦げている。


「急に飛び出して行って...ホントに心配したのよ。でも無事ならよかった...

そういえばマルクスは?一緒じゃないの?」


ジークと一緒にいるはずのマルクスがいない。そのことに急激に不安が襲ってくる。


「もしかして、違うところに救助に行ってるのかしら?だったらしょうがないわよね」


そんなはずはない。

マルクスが死ぬなんてことがあるはずがない。これからも三人で楽しく過ごすんだ。

そんなサラの気持ちを一瞬で消すかのようにジークはただ一言


「...お父さんは殺されたよ...」


そう告げる。

なんとなく、そんな気はしてた。

しかし目の前のジークの言葉を信じたくは無い。あの人が死ぬなんて。そんなことあるはずがない!あってはいいはずがない!


「ねぇ...ジーク冗談よね?どうせまた私を驚かせようとしてるんでしょ?まったくジークったら言っていい嘘と悪い嘘があるのよ?だから、言ってよ。マルクスは生きてるって!お願いだから、、ジーク...」


涙を流しながらジークに藁にでも縋るように近寄るサラ。

そんな母を見て思わず誤魔化すべきかとも思ったジーク。

しかし先延ばしにしても何ら変わらない。むしろなおさら酷くなるかもしれない。

だからはっきり告げよう。そう思い口を開いた瞬間


「うわぁぁぁぁ!」

「大型が二体でたぞー!」

「まじかよ、こっちには三体だ!」

「こっちにも小型が大量にきてるわよ!」


まわりからの悲鳴が聞こえてきた。

声のした方向には十数体の大型の魔物と大量の小型の魔物が、、、

そのことに戸惑っている間に村はどんどん魔物に壊されていく。家は大型の魔物の腕の一振りで、、、畑は大量の小型の魔物に踏み荒らされ、、、すでに壊滅的な状況だった。


そんな光景を見ているジークの脳裏に走ったのは一つの父の言葉だった。



あのな、ジークお前は英雄になんてなれなくたっていいんだ。お前が大切だと思えるもの。それだけを全力で守れ。



僕の目に映っているものは何か?


僕が生まれ育った大切な村だ...


それを守らなくてどうするんだ!


「ファイアージャグリング!」


魔法を唱えた瞬間ジークの周りには50個ほどの小さな火球が飛び交う。それを操るかのようにして両手を振り回し小型の魔物を一匹ずつ確実に焼き殺してゆく。

そして火球が無くなり辺りを見回した時にはすでに小型の魔物はただの焼死体へと成り果てていた。


「次、、、大型」


残るは大型の魔物のみだ。

腰にぶら下げていた父の剣を手に取り正面に構える。


「いくぞっ、、、"加速"!」


自身のスピードを上げ一気に魔物へ詰め寄る。それに反応が遅れた魔物は一瞬で腹部が切られ血を吹き出しながら絶命した。

その後も加速により上がったスピードで魔物を殲滅しにかかるジーク。

そんなジークの耳にたまたま聞こえた村の人のジークを指す言葉。


バケモノ


わかっていた自分でも。この力が異常だということなど。だから今気にしている場合などではない。その後も気にせずに魔物を斬りふせる。ジークに浴びせられる魔物の返り血。それを見る村の人のジークを見る目はだんだんと恐怖へと変わっていった。


これが人なのか、、、


もはやバケモノだ、、、


そんな言葉は気にせずひたすらに魔物を狩っていく。そして最期の一匹。熊の魔物の首を落とし殲滅が終わった。そしてジークが辺りを見渡すと村の人、そして母親すらも、ジークを怯えるような目で見ているのだった。



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