第8話

「すいません、村長。少しお話があるのですがよろしいですか?」


マルクスは村長の家の扉を叩き返事を待つ。

しかし返事はない。


「村長!いませんか?」


そういいながらもう一度ドアを叩く。

しかし返事はない。


「すいませんが、勝手に上がらせてもらいます!」


そう言いドアを開け村長の家に入る。

すると散々に荒らされた玄関。


「くそっ遅かったか」


悔しさをにじませながら家の中を探索する。

しかし村長もミラもハートも誰一人としていない。


どこだ、どこにいるんだっ


自然と焦りが生じてくる。

ジークの言う通りやはりハートは黒だった。

そのことに我が子ながら鋭い洞察力だと実感するマルクス。


ハートの狙いはなんなんだっ。


考える、考える。

あいつはなぜ村長を襲ったのか。

なぜ俺たちは襲わなかったのか。

なぜハートは魔物に襲われなかったのか。

そう考えた途端馬車に乗っていた一つのおこう型の魔道具を思い出す。


おこう型の魔道具は魔物の嫌う匂いを放ちあまり魔物を寄せにくくするものと、魔物が好み、寄ってくる物の2つがある。

もしもあれが魔物を寄せにくくするものではなく魔物を引き寄せるものだったら。

もしハートがテイムの魔法が使えたら。

そしてあの5匹のワーウルフがすでにテイムされているものだったとしたら、マルクス達が助けにはいったときにハートが襲われていなかったのも頷ける。


もしハートの狙いが村を魔物に襲わせることだったとしたら...村中がパニックになり大きな被害が及ぶだろう。


「くそっ、あいつどこに行きやがったんだっ」


ハートの居場所を必死に考える。

もし魔物を一気にテイムするなら障害物のないひらけた場所がいいはずだ。

それでいて人目がつきにくいところ...


そう思い浮かぶ場所はただ一つ


「俺たちの訓練所...か」


ふつうに考えたらほとんどの確率でいないだろう。しかしマルクスはなぜか確信していた。あそこにきっとハートはいる。と


そしてマルクスはいつもの場所へ走り出す。





「やぁやぁ、待ってましたよ。遅すぎてつい村長さんを殺りそうになっちゃってました。

ナイフを片手にそういうハート。

その横には縛られ意識を失っている村長とミラ。


「貴様っ...何が目的なんだ」


2人を人質に取られているため迂闊に動けないマルクス。


「なぁに。ここに来れたってことは大方わかっているんでしょう?あなたが思っているように私は依頼されてこの村を潰しに来たんですよ。このお香を使って魔物を呼び寄せて、ね」


そう言いながらお香型の魔道具を取りだす。


「やはり、あの時のワーウルフも」


「えぇ、私がテイムしていた魔物ですよ。

あなたたちに一瞬で殺され邪魔されましたがあれにも一応任務を与えていたんですよ?

大型の魔物を挑発して村に誘導するっていうね」


次々とネタバラシをしていく。

それを聞くたびにハートへのマルクスの憎悪は膨らんでいく。


「なぜこんなことをするっ...」


「だから依頼だと言ったでしょう?

むしろこれをやらないと私が消されちゃうんです」


そう言われ心当たりを探すも何も見つからない。


「ワンドさんか?」


「これ以上は守秘義務になるので答えることはできません。それにどうせ貴方はここで死ぬのですし、ね。あなたをここに連れ出すために村長達を誘拐してきたんですよ。

依頼主もあなたとその妻は元冒険者だから気をつけろと言われていたのでこういう手を取らせていただきました」


そう言いながらナイフをミラに向ける


「くっ、やめろ!」


「しょうがないですね。ほら!」


ミラをマルクスの下へ蹴り飛ばす。

その衝撃でミラは目を覚ます。


「っつう。ここは...あなたっ!」


現在の状況が分からず一瞬困惑するも目の前に夫が縛られたまま意識を失っていたため思わず声を上げるミラ。


「安心してくださいミラさん、まだ無事ですから。それよりも村の人たちに魔物が襲ってくる可能性があるため厳重注意と伝えてきて下さい」


ミラを縛っていた縄を切りながらそう頼む


「え?え?」


マルクスにそう言われるも話についていけない。そもそもなぜこんな場所にいたのかもわからない。


「今日あなたの家に訪れたこの男が村を滅ぼすために魔物を引きつける魔道具を用いているんです。村長は私が必ず助けますから、ミラさんは村の皆にこのことを!」


そう言われてやっと理解できたミラは村に向かって立ち上がる。


「今さら向かったところで遅いと思いますがね。もうすぐここには大量の魔物がやってきてあなたをなぶり殺しにします。そのあとは村を襲わせます。ご婦人、このまま逃げた方が得策では?」


ゲスい笑みを浮かべながらそういうハート。

その言葉に怯むミラ。


「大丈夫です!魔物はきっと俺がなんとかしますから!だから村をお願いします!」


そう叫ぶマルクス。

その言葉を聞き覚悟を決めたミラは頷き村へと走り出す。


「まったく。今から来る魔物は最低でも50匹はいますよ?あなたにどうにかできるとでも思っているのですか?」


呆れた顔をしながら深くため息を吐くハート


「どうにかするさ。それができなきゃ俺は自分を誇れねぇ」


そう言いながら突然背後の草むらから襲ってきたワーウルフを切り落とす。


「こんな危機を救ってこそ最高にカッコいい生き方だろ?」


こうしてマルクスと魔物の戦闘が始まった。


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