第5話

目の前の光景にジークはただ言葉を失うことしかできなかった。


窓から雨が滴る音が聞こえる中目の前には

呻きながら倒れている父親マルクスとそれを見ながら出す笑い声だった。



事件の日の朝


ジークはマルクスと日課の訓練をしていた。


「よし、素振りが終わったな。じゃあ、今日は実戦訓練じゃなくて魔法を教えてやろう!」


「え?お父さんが魔法を教えてくれるの?何か悪いのでも食べたの?」


「お前最近俺の扱いが酷いな...

まぁいいだろう。それで俺が教える魔法は俺が唯一使える魔法"身体強化"だ」


マルクスが胸を張りながら自慢げに言う


「身体強化?」


ジークは初めて聞いた魔法に首を傾げながらマルクスに問う。


「あぁ、例えばだな実戦訓練の時俺の動きが急に早くなる時があるだろ?」


「うん。これで一本取れる!って思った時にいつも動きが早くなって躱されたり防がれたりしちゃうんだよなぁ。あの時に魔力をいつも感じるんだけどもしかしてあれが身体強化なの?」


ジークはいつもの訓練を思い出し疑問を投げかける


「もう魔力感知もできるのか...まぁジークだしな。で、お前の疑問だがそれであってるぞ。あれは身体強化の内の"加速"を使ってたんだ」


「身体強化の内のってことは他にもあるの?」


「あぁ、もう一つ増強ってのがある。簡単に説明するとだな言葉の通りなんだが加速が自分の速度を上げて、増強が力を強くするって感じだな。使う魔力の量によって効力も変わってくぞ。」


マルクスの説明を聞いている時ジークの心の中ではずっと引っかかっていることがあった。それは...


「加速を使っていたってつまりお父さんは訓練の時僕に魔法を使うのを禁止しているのに自分がピンチになったら使ってたの?僕は何回も木刀で叩かれたのに?

それに、お父さん加速使った時僕が聞いたらたまたま反応ができたなんて言ってたよね?」


魔法である。


「...よし魔法を教えるぞー。まずはだな...」


「はぐらかさないでよ!」


訓練時ジークはマルクスより魔法の使用は禁止されている。自分が魔法が使えず父の木刀を受けその恨みを晴らすべく一本入りそうな時は思いっきり木刀を振っていた。

しかしそれを魔法を使って躱されあまつさえ父には魔法ではないと嘘まで言われたのだこれが我慢できるはずもない。


「...今夜お母さんに言ってやる」


マルクスに聞こえないほどの小さな声でジークが呟く。


「ったく、仕方ないだろ?お前時々俺が魔法使わないと防げないくらい早い時あるし、魔法使わないで負けたらジークに負けるっていのはなんか嫌だし」


「つまりさすがのお父さんでも僕の剣速に恐れをなしたと?」


すごく嬉しそうな顔をしながらマルクスに迫る。


「お前本当に褒めるとめんどくさいよな。

そんなことはいいから早く魔法の練習を始めるぞ!」


「はーい!」


ジークは笑顔でマルクスの下へ駆け寄った。






「よし、じゃあ今から身体強化の使い方を教える。まぁ、使い方は簡単で強化したい場所に魔力を送るんだ。加速を使いたいなら足に

増強を使いたいなら腕にって感じだな。まぁ一回やってみろ。お前ならすぐにできると思うし」


「うん、わかった!」


返事をし、やる気をみなぎらせながら立ち上がる。


「んーっと、とりあえず加速を使ってみるか

足に魔力を送ってっと...一回走ってみるか」


そう言いながら走りだすジーク。

その速さはいつものジークが走る速度の3、4倍にあたる。その速さのせいかジークは一瞬で目の前にまで迫った木を避けることができなかった。


「いっったぁぁ!」

速度が上がっていたため木にぶつかった衝撃も強く転がり回るジーク。

そんなジークの下にマルクスが呆れた顔をしながら近づいてきて


「お前なぁ、身体強化は送る魔力量によって効力が変わるって言っただろ?お前のはあれは魔力を送りすぎだ。もう少し抑えとけ」


「うぅ、はぁい」


項垂れながら返事をする

そもそもジークにとっては大した魔力は送ってはいなかった。ジークにとってはだが。ジークは魔法の才能に加え、魔力量もまた他人とは比べものにならないほど多い。そのため送る魔力も多くなったのだ。


「まぁ、身体強化が使えるようになったしよしとしよう。それじゃ、今日の訓練は終わりだ。家に帰るぞー」


「あれ?もう訓練終わっちゃうの?まだ昼にもなってないのに」


ジークとマルクスは普段午前中にランニング、素振り、マルクスからの指導を行い午後に実戦訓練を行う。そのため今日はいつもにくらべかなり訓練が終わる時間が早いのだ。


「あのなぁ、昨日の夜に言ったろ?明日は村祭りがあるからって。それに俺らは顔を出さないといけないんだよ。サラは村長の一人娘だしな」


アステラ村では年に一度収穫を祝う村祭りが午後からある。小さな村ではあるがほとんどの村人が参加するため、かなりの人数となる。

また、多くの屋台も出ており森の中心ならではの獣肉やキノコ類の料理もある。

ジークの好物もまた肉であり今日の村祭りを楽しみにしていたのだ。


「そういえばそうだったね!早く家に帰って準備しよ!"加速"」


そう言い魔法を発動するジーク


「おいバカ!そんなにスピード出してるとまたっ...」


マルクスが注意するが時すでに遅し。


ドン!


「ぎゃあああ!」



案の定木にぶつかったジークだった。

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