第3話
「まさか浮遊魔法が使えるなんて...」
夜の帳が下りてジークが寝静まった頃
リビングで話し合うサラとマルクス。
「浮遊魔法ってあれだよな?あの、古代魔法ってやつ」
古代魔法
亜人戦争以前にに使われており現在では使えるものがほとんどいない魔法を一括りでそう呼ばれている。古代魔法の多くは強力でその中でも使い方次第では国をも落とせる魔法もある。
「ええ、古代魔法よ。それも英雄ジークリアンが使っていたね」
「英雄ジークリアン...か」
サラの言葉に考え込むマルクス。
ジークの名前は英雄ジークリアンからとったものだ。ジークリアンの様に大切な人を守れるような人になってほしい、と。
そのジークが今ジークリアンと同じ魔法を使っている。それもまだ2歳で。
喜ぶべきなのではあろうが、しかし素直に喜ぶことはできない。
たしかに自分の子供が強くなってくれるのは嬉しい。だがあくまでも人並みにだ。
異常な力を持って沢山の人を粉骨砕身して守るよりも、多少の力を持って大切な人だけでも守れる。そんな力を持ってくれるだけでよかった。
「浮遊魔法に間違い無いのか?もっと違う魔法だったりとか...」
「それは恐らく間違いないわ。あんなに不思議な魔力は感じたことがないから。」
「そうか...」
魔法を使用している場合は体外にも魔力が流れどんな魔法かを魔法士ならば察知することができる。サラも魔法士として冒険者をやっておりこれまで自分が使えない魔法も数々見てきた。だからそのサラが間違い無いと言うのならおそらくそうなのであろう。
「もぅ、たしかにあなたがどういう風にジークが育って欲しいかは知ってるわよ。それでもああいう力を持っちゃったんだから今更うじうじしないの。私達親が何のためにいるのよ?子供達を導くためよ?ジークが幸せになってくれるならそれでいいじゃない」
サラの言いたいことも十分わかる。
マルクスもジークの力については受け入れている。しかし割り切れない。
「たしかにそうなんだが...」
「はぁ。あなた私達が出会った頃あなた自分がなんて言ったか覚えてる?」
サラとマルクスが出会ったのはサラが王都に来て2、3ヶ月頃だ。二人ともまだまだ駆け出しの冒険者で意見の相違でよくぶつかりあっていた。
「いやぁ...あの時の俺は若かったからさぁ、そのいろいろ誇張して言っていたっていうか...」
「つまり覚えてないんでしょ?」
「はい」
「まったく、素直にそう言えばいいのよ」
ため息をつきながら呟くサラ
「あなたが言ってたのは「カッコよく生きたい!」よ」
「かっこよく...」
「強かろうが弱かろうが関係ない。自分の誇れることをする。それが一番かっこいいんだ。ってね」
あれを聞いた時は思わず笑っちゃったなぁ
っとサラ
「だってまだ私と同じくらいの男の子がSランク冒険者になる、とかもっと強くなりたいじゃないで、かっこよく生きたいって言ったのよ?」
それを聞くとその時の情景が蘇る。
「そういえば、そんなこと言ってたなぁ。そのあと確か俺笑われたことに怒って口げんかになってたっけ」
「えぇ、本当に懐かしいわね」
思い出すように目を瞑るサラ
「今のジークもそうよ。力があっても関係ないのよ。ジーク自信が自分を誇れる。そんな生き方をしてくれれば私はそれだけで十分幸せよ」
「そっか...そうだよな」
「ええ、そうよ」
「あいつ自身が誇れる人生か。悪かったなサラうじうじ考えちまって。」
「いいえ、それだけあなたがジークのことを考えてる証拠じゃない」
その後も過去の話を幸せそうに話す二人。
この大切な時間がある日突然無くなるとも知らずに。
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