第5話 遭遇
公園に着くと、麗愛がいつものようにベンチに座って僕を待っていた。
「こんにちは、麗愛。」
「あ、こんにちは!」
僕に気付き、笑顔で挨拶を返す麗愛。
その姿はやはりどこか無理をしているように見えた。
そして今日の麗愛はどこか体調が優れないのか、顔色が悪いような気もした。
「なんか顔色が悪いようだけど大丈夫?」
「あ〜大丈夫大丈夫!昨日あんまり眠れなくて…えへへ…。」
困ったようにはにかみながら笑う麗愛。
それは何かを隠しているようにも見えた。
「そっか…。頼りないかもしれないけど、何かあったらすぐ僕に言ってね。」
「え!刀邪が優しい!?」
「何言ってるんだよ、麗愛。僕はいつだって菩薩のように慈悲深くて優しいだろ。」
「どの口が言ってるんだよー!いつも私のことからかってばかりのくせにー!」
ムッとしてふくれる麗愛。
でもやっぱりその表情はどこか無理してる感じが否めない。
「というかやっぱりなんか名前で呼ぶの照れるなー…。」
そう言って少し顔を赤くする麗愛。
つい最近、自分だけがさん付けされるのに違和感を感じて麗愛にも名前を呼び捨てするように言ったのだ。
「まぁいずれ慣れるよ。」
「そうかなー?」
「そうだよ。」
「でも慣れるまでが恥ずかしいんだよなぁー。というか刀邪は―――あっ!?」
そんな何気ない会話をしていると、突然麗愛の様子が変わった。
何かに気付いたように目を見開いていきなり立ち上がった。
「どうした!?麗愛!」
「私、助けなきゃ!」
「助けるって何を!?」
「ごめん!ちょっと待ってて!」
「あ、おい!!」
そのまま僕に背を向けて物凄い速度で走り去っていってしまった。
「一体どうしたって言うんだよ!くそっ!」
僕は急いで麗愛の後を追った――
「はぁ…はぁ…、こ、これは…。」
なんとか麗愛に追いついた僕の眼前には衝撃的な光景が広がっていた。
ガタイの良い男が倒れていて、その側で麗愛が涙を流していた。
そしてその男の首筋には噛み跡があった。
嘘だろ……これ吸血事件じゃないか……。
「……また、助けられなかった……。」
涙を流しながらか細い声で呟く麗愛。
助けられなかった……?
麗愛は吸血事件を未然に防ごうとしていたってことか…?
「麗愛、怪我はないか?」
「私は大丈夫。でも、この人は…もう…。」
「……死んでるのか?」
「………うん。」
……嘘だろ。
じゃあ今目の前にあるのは人間の…死体…?
「う……。」
やばい…吐きそうだ…。
でも今はこの状況をどうにかしないと…。
スマホを取り出し、警察に電話しようとしたその時だった。
「っ!?!?」
右肩に鋭い痛みが走った。
「うぁぁぁ!痛い!なんだよこれ!?」
見ると右肩にかなり長い針のようなものが突き刺さっていた。
「刀邪!!!!」
血相を変えて僕の方へと駆け寄ってくる麗愛。
「くっ……大丈夫だ…。それより…一体どこから……」
「あ〜あ、見られちゃったなら殺すしかないよね〜。ギャハハハ!」
突然上方から声がした。
顔を上げる僕と麗愛。
……なんだよあいつは…。
まるで凶器のように異常なほど伸びた爪。
真っ赤に充血した両眼。
そして卑下た笑みを浮かべるその口の隙間から見える鋭利な牙。
そんな人間離れした風貌の男が電柱の上に立っていた。
「不運だね〜、君達。俺が吸血しているところに遭遇してしまうなんて。」
「吸血だと!?お前まさか……」
「もしかしてこの状態の吸血鬼を見るのは初めてかな〜?まぁあまり見れるものでもないか〜、ギャハハハ!!」
こいつ…やっぱり吸血鬼か!
「じゃあお前がこの男を…。」
「そ〜〜うだよ!こ!ろ!し!た!ん!だ!よ!クハッ!ギャハハハッ!!」
やばい逃げないと…。
麗愛を見ると吸血鬼を見て震えている。
当たり前だ、僕だって怖い。
「麗愛。僕が囮になる。その隙に逃げて。」
僕は麗愛に近付き、小さな声で告げる。
「そんな…!刀邪を置いて逃げられないよ!」
「いいから行くんだ!僕も必ず後から――」
「最後のお別れはもういいですか〜?面倒くさいんで二人まとめて、死ねぇぇぇぇ!!ギャハハハッ!」
吸血鬼の爪から何本もの針が雨のように降り注いだ。
まずい!!このままじゃ――
「耳障りな笑い声だな、お前。」
――その声と共に僕と麗愛の前に刀を持った男が現れ、全ての針を叩き落とした。
そして瞬きする間もなく、吸血鬼の腹にその男の刀が突き刺さっていた。
「て……てめぇ…は…。」
そのまま地面に叩き落とされる吸血鬼。
……なんだ?何が起こったんだ?
「よう。久しぶりだなお前ら。」
吸血鬼を倒したその男――形来は不敵な笑みを浮かべ、刀に付いた吸血鬼の血を忌々しそうに振り払った――
カタルシス 高岡 望 @archemikillsm
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