第4話 吸血鬼

あの日から麗愛の様子が少しおかしい。

公園でいつものように駄弁っていても、その目はどこか遠くを見ている気がする。

時折見せる笑顔も作り物のように見えた。

心ここにあらず、という状態がもう一週間続いていた。

僕は麗愛がおかしくなってしまったキッカケ――形来とかいう男が発した一言が気になっていた。


「最近ここら辺でがあってな――」


吸血事件、要するに吸血鬼が関わっている事件。

その言葉を聞いた瞬間、麗愛の様子が更に変わったような気がした。

だから僕はこの数日、ずっと吸血鬼について調べていた。

吸血鬼自体は知っている。

人間と同じ容姿をしており、人間と同じように生活する人ならざる生き物。

高校時代、クラスにも吸血鬼がいた。

だがそいつに対する印象はいつも暗い顔をした鹿というものだった。

学力は下の下、友達もいない。

吸血鬼なんてのは皆そういう奴らなんだと思っていたし、実際今でもそう思っている。

ただ、調べたところによると吸血鬼は知能が低い代わりに身体能力が人間の何倍も優れているらしい。

確かにクラスメイトのあいつも学力は低くても体育の時間の時だけは良い意味で凄く目立っていた。

そして吸血鬼に関して最も重要な情報――それは、吸血鬼は人間の血を吸う、ということだ。

これは誰でも知っていることであり、クラスの中にはそんな悍ましい習性を持つあいつを忌み嫌っている奴もいた。

だが吸血鬼は基本的には人を襲ったりはしない。

それは国家から血を恵んでもらっているからだ。

子供の頃から定期的に採血の時間というのがあった。

あの頃はなんでこんなことをするのだろうと思っていたが、中学生くらいになれば、それを吸血鬼に与えているんだなと誰もが理解したことだろう。

だから人間は吸血鬼を怖れていない。

確かに身体能力は高いが、基本的に害はないからだ。

だが人間が吸血鬼を忌み嫌っているのと同じように吸血鬼の中にも人間を嫌っている者はもちろんいた。

そして人間を嫌う吸血鬼達は与えられた血を飲むことを拒み、で人間の血を奪った。

それこそが吸血事件と言われているものだ。

だが基本的に吸血事件で死者は出ない。

血を飲むことが一番の目的であって、殺人はする必要がないからだ。

吸血事件を起こす者は基本的に人間を嫌ってはいたが、殺人まで犯すものはいない。

いくら身体能力が高いと言っても、様々な武器を所持している大勢の人間と闘えば、殺されるか捕まるのは時間の問題だからだ。

それに吸血鬼は人間の武器を使うことができない。

拳銃程度ならなんとか使える者もいたが、吸血鬼に対抗する為に作られた対吸血鬼用の武器は人間しか使うことができないのだ。

だが、ここ最近起こっている、あの形来とかいうやつが言っていた吸血事件はどうやら死者が出ているらしい。

しかも今月だけで五人も。

被害者には首筋の噛み跡以外何一つ傷はなかったが、体中の血を全て抜かれていたらしい。

ここまでが僕がこの数日間で調べ上げたことだ。

それ以上の情報は見つからなかった。



「吸血鬼か……。」


僕は呟きながら、起動していたPCの電源を切り、麗愛の待つ公園へと向かった。




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