第6話

  奴隷施行から8年 栄希望29歳


「もう8年。変わったなこの国も。」

 希望は結婚をし小学校の教師として働いていた。しかし今は子供を産み教師を辞めて子育てに専念していた。8年たった今も優奈との関係は続いている。きっとこのままおばあちゃんになっても優奈とずっと仲良くしていられる。そして今日も優奈達は家族で私の家に来ることになっていた。

「茜よかったね。今日光里ちゃん来るってよ。」

 私は寝ている娘に声をかけた。優奈の子供と私の子供は今年で2歳になる。奴隷が当たり前となった国に産まれた子供。

 今はどんな家庭でも1人は奴隷がいる。私と優奈は絶対に奴隷を買わないと決めていた。近頃、奴隷が主人に対して反抗的な態度を取り酷いところでは奴隷が主人を殺すということがあった。それを聞くとそのうち大きな事件が起きるのではないかと思う。

 電話がなる。出てみると優奈だった。

「のぞーごめーん光里がおばあちゃんから離れないって言っておばあちゃんの家から出ようとしないから私達だけ行くね。1時間くらいしたら近くには着くと思うから。」

 優奈は言うだけ言って電話を切った。

「まー?ひーちゃんこないの?」

 お昼寝から起きてきた茜が舌っ足らずな声で聞いてくる。

「そうだねひーちゃんは来ないけど優奈おばさん来るよ。」

 茜に優奈が来ることを伝えると光里ちゃんが来ないことを言った時は少しがっかりしていたが喜んでいた。

 ふとつけっぱなしにしていたテレビを見ると嘘のようなニュースが流れていた。それは今駅前で奴隷達が反乱を起こし暴れているという内容だった。それももうすぐ優奈たちが着く場所の近くでだ。ニュースではもう既に沢山の怪我人や建物に被害が出ていると言っている。私はすぐにでも優奈の所に行きたかった。でもこんな状況で茜を1人にはして置けないから家を出ることは出来なかった。そして1時間ほど時間がたち奴隷たちはほぼ鎮圧化された。そして私の夫も家に帰ってきたので茜を夫に任せ私は家を飛び出る。

 外に出ると今までの街とは全てが違かった。泣き叫ぶ人、燃える建物。走って避難をする人や倒れている人から離れない人。道路の真ん中にはもう動けない人が集められトラックに運ばれる人と救急車に乗せられる人に別れていた。私はそこに優奈がいないことを信じ走った。優奈を探すため走った。どれくらい走っただろう。沢山の傷付いた人を見た。しかし一度も奴隷の人達は見かけることはなかった。そして見覚えのある場所に着いた。優奈と行っていた図書館。そして図書館の脇に見覚えのある人が倒れていた。私は震えが止まらなかった。近付くほど確信に変わっていく。その倒れていた人が優奈だった。それに見違えるような姿になっていた。身体中傷だらけで辺りには見覚えのある優奈の物が散らばっている。優奈の下には血が大量に流れ出ていた。優奈は素人目から見ても長くないとはわかった。それでも私は信じられなかった。

「優奈!優奈!しっかりして返事をして!」

 私はもう返事をしないと分かっているのに。もう二度と優奈と話せなくなることが怖くて現実を認めることが出来なかった。

「……のぞ?よくわかったねここ。」

 優奈が目を覚ました。でもすぐにでも消えそうなほど弱々しい声でいつものようにふざけた返事をする。でも私は嬉しかった。ふざけていたとしても優奈の意識が戻ったことが。

「優奈……こんな所で死んじゃダメ!残された光里ちゃんと旦那さんはどうするの!?」

 消えかけていた命を繋ぎ止めるように私は優奈を呼ぶ。しかし弱々しい声で優奈が最後の言葉を言った。

「あの人は先に……死んじゃったの。それに私はもう…ダメだから。のぞが光里を育てて。茜ちゃんとも仲良くできるから…のぞには迷惑かけるけどこれ受け取って。私の家の金庫の鍵。光里が大人になるまで不自由しないくらいは貯まってるから光里を…宜しくね。光里の結婚式…行きたかったな……。」

 優奈はそう言いながら涙を流し息を引き取った。

「優奈!優奈!待って行かないで!私を私たちをおいていかないで!」

 私が何度呼びかけても揺さぶっても優奈が目を覚ますことはなかった。


 そして奴隷達の反乱は終わった。政府はこの反省として奴隷の首と手首に爆薬付きの首輪をつけることで反抗の意思を見せたものをすぐにでも止められるようにできるようにした。また産まれてから3年たった奴隷の身体に焼印をいれて完全に人と奴隷の立場の違いをわけた。しかしそれだけで奴隷は自由になる事を諦めた。

 私は奴隷を恨んだ。いつも一緒だった友達を殺した奴隷を。でも優奈から光里ちゃんを預けられた。だったら優奈の忘れ形見である光里ちゃんを茜と同じくらい大切に育てて行くことを決めた。それに奴隷が全て悪いのではなくこの奴隷制度が全ての元凶だから。私は自分の出来る範囲で少しでも奴隷を解放して行こうと決めた。

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