第2話

 私たちの入学した高校は国の運営する高校。戦争が終わると同時に奴隷制度と共に奴隷禁足の地として開校した。成績の良い生徒、お金のある家の子供、政治家の子供など日本各地から沢山の生徒が集まっている。奴隷禁足の地と言っているが、実際日本の中でもトップクラスの奴隷差別がある場所。私たちはそれをわかって入学した。入学式が終わり入学生は自分たちが振り分けられたクラスへ、他愛のない話をしながら向かう。

 「なんか感じ悪い校長だったね若葉ちゃん」

 「私3組だったけど幸何組だった?」

 「あ、私も……って無視しないでよ!話変えないで!若葉ちゃん!」

 私たちのクラスに着いた。

 クラスに着くなり座席が決められた。何故だろう。私の右隣には幸がいる。何か裏で仕込まれているのだろうか。そう考えているうちに今後の予定が話された。

 「え……今日から授業あるの……ねえ幸帰っていい?」

 私は入学式の日から授業があると聞き既に帰りたくなった。

 「ダメだよ若葉ちゃん。あったとしても授業の説明とか簡単に自己紹介でしょ。あ、でも今からクラスで自己紹介するからやらないのかな……」

 幸が質問に答えボソボソと何かを呟いている。幸の言う通りこれから自己紹介が始まるようだった。

 「クラスの人の名前を覚えていない状態で授業を進めることは難しいのでこれから自己紹介をしてもらいます。名前、好きな物事、何か適当な事を言ってください。出席番号順にやっていきますので一番の方お願いします。」

 先生のこの一言で自己紹介が始まった。この学校は授業中グループを組み自分達で考える事が多いから周りの生徒の名前を覚える必要がある。

 自己紹介は着々と進み私の番になった。

 「栄若葉です。好きな事は寝ること。嫌いなのは奴隷制度と奴隷です。これから三年間よろしくお願いします。」

 私が奴隷制度が嫌いと言うと今までざわついていた教室が静まり返り先生の顔が引き釣っていた。

 「さ、栄さんありがとうございました。次の方お願いします。」

 先生の顔は引き釣ったまま自己紹介が進み幸の番となった。

 「西門幸です。好きな人は隣の席の若葉ちゃんです。若葉ちゃんのお世話が生きがいです。若葉ちゃん共々よろしくお願いします。」

 幸の挨拶で教室が凍りついたように思えた。しかしそれは一瞬の事だった。凍りついた教室で一人が笑い始めると一人また一人どんどん広がっていく。幸には何か人を笑顔にする才能でもあるのだろうか。自己紹介が終わりに近付き一人の女子の自己紹介が始まった。

 「望月麻尋です。好きな物は特にないです。私は父の仕事を手伝っているので学校に来れる日が少ないと思いますがよろしくお願いします。」

 望月家、奴隷制度が始まって以来沢山の奴隷を買い込んでいるが家に行った人が望月家の奴隷を見た事はない。望月家は奴隷を実験台にしたり、快楽や暇潰しのために殺しているなどの噂が流れている。それが本当の事かはわからないが嘘であっても私は望月家が嫌いだ。

  他に私が気になる人は居ないまま自己紹介が終わりそのまま授業となった。

 授業は何事もなく終わり放課後になった。私たちは家に帰り夜ご飯を食べていた。

 「ねえ、幸。」

 「どうしたの若葉ちゃん?」

 「なんで私の家でご飯食べてるの?」

 「若葉ちゃんが一人じゃ寂しいかなって思ってね。」

 「別に寂しくないし……だったらおじさん達だって幸が夜ご飯に居なかったら寂しがるんじゃないの?」

 「むしろお父さんに行くように言われたんだよ。それより若葉ちゃん。今日授業に明坂さんが何回か若葉ちゃんの事を見てたんだけど気付いてた?」

 「……明坂さん?誰?」

 「窓側の席の一番前に座ってる髪の毛が金色でふわふわな感じの子。」

 「寝てたからわからないけど私の事見てたの?何かした覚えはないけど。」

 「若葉ちゃんと仲良くなりたいんじゃないかな?若葉ちゃん休み時間まで寝てるけどクラスの他の人達も若葉ちゃんとお話してみたいって言ってたよ。」

 「明日は話して見ようかな。眠くなかったら。」

 「じゃあ明日若葉ちゃんが休み時間に寝ようとしてたら寝させないね!」

 「え、やめてよ。」

 「まあクラスの人ともちゃんと話してね。若葉ちゃんがずっと一人で寝てたら私心配で心配で一人で寝れないよ。」

 「わかったから。本当幸はお母さんみたいだなぁ。」

 「そういえば若葉ちゃん。高校入ってる間は若葉ちゃんの家で一緒に生活するって言ったっけ?」

 「え?一緒に?」

 私は幸の言っていることが理解出来ていなかった。幸には自分の家がある。なのに私の家で生活する意味があるのだろうか。

 「若葉ちゃんのお父さん達が今年から若葉ちゃん一人じゃ寂しいだろうから一緒に居てあげてって頼まれたからね。若葉ちゃんは私がこの家に住むの嫌?」

 「嫌じゃないよ。むしろ嬉しい。でも荷物とかはどうするの?」

 「明日学校も休みだしお父さんに持ってきてもらうよ。って言っても隣の家からだけどね。」

 笑いながら幸が言っていた。幸がこの家に一緒に住むと聞いただけで私は本当に嬉しかった。今までお父さん達と生活していたのに急に一人になるとやっぱり少し寂しかったから。

 「それで若葉ちゃん。今日は若葉ちゃんと一緒の布団で寝ていい?昔みたいに。」

 「まあ幸の布団もないし仕方ないしいいよ。でも変な事はしないでね。」

 「そうと決まれば早く食べてお風呂入ろう!」

 幸はご飯を済ませお風呂に入った。幸がお風呂に入っている間に私は幸の枕を用意しながら今日学校で会った望月家の娘の望月麻尋の事を思い出していた。幸には言っていなかったが私は彼女に会ったことがある。それは小学生の時お父さんと行った望月家食事会の事だった。そこには同い年の子供がほとんど居なかったからはっきりと覚えている。私がトイレのために席を離れ廊下を曲った時だった。小さな女の子が大きい男の人に乗り何かをしていた。今になって思う。あの時声をかけたのは間違いだったと。

 「ねえ、何してるの?」

 振り向いた女の子の手は血に濡れていた。女の子が乗っていた男の人の顔は目が抉れ歯が無く喉が潰れているのだろうか痛みで叫ぶ事も出来ていなかった。そしてその女の子は

 「あなたが今日のお食事会に来た子?いらっしゃいませ。望月真尋ですよろしくね。」

 私は自己紹介をされたのになにも答えられずその場から走って逃げることしか出来なかった。

 ドアの開く音がする。

 「お風呂ありがとう若葉ちゃん。若葉ちゃんも早くお風呂入って寝ようよ。私もう疲れて眠いよ。」

 昔の事を思い出していたら幸がお風呂から上がってきた。幸が話しかけてくれたからかもう思い出そうとは思えなかった。

 「じゃあ私も入ってくるね。私の部屋に枕置いておいたから先に寝てても良いよ。」

 「うーん……待ってるよ。ゆっくり入ってね。」

 私は待たせて悪いと思いすぐにお風呂から上がり二人で一つの布団に入った。

 「こんな風に寝ると小さい頃みたいだね。」

 「そういえばよく泊まりに行ったりしてたのに一緒に寝ることあんまり無かったね。小さい頃の幸、寝相悪くていっぱい蹴られたんだけど今は大丈夫?」

 「……大丈夫だと思うよ。私もう眠いから寝るねおやすみ若葉ちゃん。」

 「おやすみ幸。」

 こうして私たちの長い1日が終わった。

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