もし世界の奴隷が消えたなら

こころん

第1話

 小学生のころ親友の幸と見たあの光景を忘れない。クラスメイトが知らない男に鎖を繋がれ引きずられていく姿を、母を呼び泣き叫ぶ姿を。だから私は…栄若葉は約束した。幸は私が守ると、誰にも幸を連れて行かせないと。

 その約束から7年がたち私たちは高校生になった。


 目覚まし時計の音と共にドタドタとうるさい足音がする。小学生の頃からの習慣になっているこの音は、親友の幸が私を毎朝起こしに来る音。それは高校生になるのに変わっていなかった。

「若葉ちゃん若葉ちゃん起きないと遅刻するよ!」

 私を揺すりながら幸の声がする。しかし私は起きない。幸が起こしに来るのは予定より1時間も早いから。

「……幸うるさい。まだ時間あるでしょ…。」

「今日私も寝坊しちゃって時間無いの!入学式から遅刻しちゃう!若葉ちゃん起きて!」

 幸はいつもいろんな事を言って私を起こそうとする。どんなことを言っても幸が言うことは大体嘘だから私は気に止めていなかった。

「幸…今何時…。」

「7時!」

 この言葉と一緒に幸は時計を見せてくる。時計の針は7時になっていた。

「……遅刻じゃん。」

 そう言い残し私は二度寝の準備に入った。

「いいから起きて!」

 幸が言うと同時に布団を剥いできて二度寝ができなくなった私はもう起きるしか無かった。

「わかった。起きる。けど本当は何時?」

「寝坊したのは本当だけど今は6時30分。早く準備して行くよ若葉ちゃん。」

 やっぱり幸は嘘をついていた。それはともかく学校の準備を始めなければ本当に遅刻する。

「私朝ご飯作ってくるから幸は私の制服用意しといて。」

「りょーかい!」

 10分後私が制服に着替え二人で朝ご飯を食べ始め私が見ていた夢の話になった。

「久しぶりに小学生の頃の夢を見たよ。あの時の事幸まだ覚えてる?」

 私たちにとって小学生の頃の夢は特別な意味を持つ。今になって連れて行かれたクラスメイトが奴隷として生きている事がわかったから。でもこの話をすると空気が悪くなる。

「覚えてるよ。でもそのあとの若葉ちゃん私を必ず守るって可愛かったなぁ。」

 幸は空気が悪くなることをわかっているから空気を変えようとしたのかわからない。でもいつも幸はこの話から話題を変えようとして別なことを言う。でも私はそれが嬉しかった。

「またそう言って馬鹿にする……。」

 そんな他愛のない話を続けていると登校する時間になった。

「じゃあ行こっか若葉ちゃん。あとで私のお父さんたち学校で写真撮ってくれるって。」

 私の両親は海外にいる。だからいつも幸の両親が私の写真を撮って海外の両親に送ってくれている。

「おじさん達にいつもありがとうって言っておいて。」

 そして私たちは学校へ向かった。

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