第23話 ミアのお部屋訪問と最新機種のゲームハード

 私が押し込まれたミアの広い部屋は散らかってはいないが、物が多く乱雑として見えた。 部屋に入って左手の棚には漫画や音楽CD等のパッケージがずらりと整列し、その中の魔法陣のような怪しげな術式が見えるオカルトグッズの一段には、十字やドクロ、刃物の形をしたシルバーチェーンやおかしな色の包帯といった小道具が置かれている。 気合入ってる時はあの小道具も装備してくるのだろうか。 

 その隣にはベッドがあり、反対の壁の、長いテレビ台にはテレビとパソコンの液晶モニターが乗っかっている。


「やれやれ、ようやく落ち着けるわ。 あなた達も適当に座ってて頂戴」ミアは部屋の奥へ歩いていくと、暑苦しそうだったレザーコートを脱いで洋服かけに掛ける。 そこに掛かっている服は、やはり全体的に黒い。 洋服掛けの隣の化粧台にはメイク道具と、十字のネックレスやサングラスなどの小物がごちゃごちゃとしている。 


「女の子の部屋に入るなんて小学生低学年以来かな」私は、そわそわと落ち着かず部屋を見回す。 まあ、この部屋はあんまり女の子という感じはしないけど。 唯一、女の子らしい要素はベッドの枕元に並ぶ可愛らしいぬいぐるみくらいか。

「小学生低学年なんて男女の区別なんてそんなにない時期でしょうに」私の独り言に軽口を返したエルは、いつの間にかベッドの上で足を投げ出していたくつろいでいた。 「あんたはもう少し遠慮とかしなさいよ。 自分の部屋か」


 それよりも結局、ミアが私の素性を正しく理解してくれているか分からないまま、部屋に上がり込んでしまった。 私は記憶を失った二、三年の分を差し引けば、ミアと同世代だし、今は同性だし、なにより私に邪(よこしま)な考えなんてないのでセーフだよね?


「あんまり見回さないでよ。 部屋に入れたのは自分が落ち着ける、というだけのことだから」上着を抜いだミアが、くつろぐエルには構わずベッドに腰掛ける。 上下黒の服装のミアはロックミュージシャンのようだ。


 私はミアの側の床に、横すわりに腰を下ろす。 本人もこう言ってることだし、あんまりジロジロ見るのも嫌らしいかと思い、ミアの横顔に視線を落ち着かせる。

 落ち着かせようとした私の視線のピントは、しかしミアより奥の”あるもの”に止まり、吸い寄せられるように釘付けになっていた。 

 私の興味を惹きつけたのは、テレビ台に収められた未来チックなデザインのごついゲーム機。 どことなく見覚えのあるディテールはおそらく、私の記憶がないここ数年の間に有名メーカーから発売されたであろうゲームハードの最新機種だ。 私の体は好奇心だけに支配され、ほとんど無意識のまま四つん這いにゲーム機へと引き寄せられていった。 


 私の手が、おそらく今現在ハードに入っているのであろう、ゲーム機のそばに雑に置かれたソフトのパッケージに届く直前。 

「ちょっと、あなたたち! 人の部屋を勝手に漁るんじゃないわよ!」

 ミアの苛立ち混じりの声が聞こえた瞬間、私は首根っこの服を捕まれたかと思うと体も意識も元の場所へと引き戻されていた。


 私は、しかめっ面のミアに子猫のように首根っこを掴まれていた。「ご、ごめーん、つい....」私は軽い口調で謝り、”あなたたち”というミアの言葉が引っかかり後ろを覗く。 反対のミアの手には私と同じように首根っこを掴まれたエルがいた。 エルの手にはアルバムのようなフォトブックが開いており、中には写真が見える。


「もう! あんまり勝手なことして、迷惑かけないでよ! どっちが飼い主とペットよ」 私はエルからフォトブックを奪い取り、ミアに返す。 

フォトブックの立派な表紙には”思い出”と達筆で書かれている。 おそらくは卒業アルバムだ。 卒アルとか気心の知れた仲になってからのイベントでしょうが。


「ミアさんは子供の頃からミアさんなんですね」

「....私がずっと私だなんて、当たり前のことでしょう?」全く悪びれる様子のないエルのよくわからない言葉に、不審な表情をしたミアが、卒業アルバムを抱きかかえながら答える。


「いや、多くの芸能人やアイドルのように整形でもしてないのかなと思って」

「そういうのほじくり返すのやめてあげなよ....」ミアがほんとに整形してたら、今、この場が凄い気まずい空間になってたよ? 

 整形に関しては、私は生まれついて決まっていたことで人を判断するべきではないと思っているので否定はしないし、そもそも容姿をとやかく言うのが間違いだと思っているが。


「ここにその当たり前から外れた、顔どころか、骨格から性別まで何もかもが変わってしまった前例がいるので」エルがベッドの上から手を伸ばし、私の頭の上に乗せる。 ほんと、人をペットか子供のように扱うのが好きだな。

「しつこいわね! 私の持ちネタみたいにしないでよ!」


 私が、エルを責めるようにジト目で睨んでいると、じっと私の横顔を見つめているミアの視線に気づいた。

「....え、えーと?」私が困惑半分の笑顔で、首をかしげる。

「いや、話は聞いたけれど、私は出会ったときから今のあなただったから信じられないというか。 少しは仕草がガサツで男性的だと思うことはあるけれど」

ミアの訝しむような視線に私が目を逸らせないでいると、エルがそこに割り込んできた。

「いやあ、エルも始めは冗談で言ってましたが、やはり元から”そういう”素質や願望があったんじゃないかと本気で思い始めてきましたよ」


「だから違うって。 郷に入っては郷に従え、じゃないけど、私はこの可愛い見た目に沿った振る舞いをしてるだけで、この見た目で乱暴な振る舞いのほうが変でしょう」私は二人の注目から逃れるように、視線をそらす。

「可愛いとか自分で言います? それにマギさんの場合、心が望んだ体なのだから順序が逆な気がしますけどね」

オネエの素質なんて本当になかったとは思うが、私はこの話題を掘り下げられるのを嫌ってふてくされるようにそっぽを向く。


「今のあなたはあなたでしょう。 少なくとも私にとってのマギはあなたよ。 私に人の過去を詮索する趣味はないしね」ふてくされる私へのフォローだったかもしれないが、ミアの言葉に少し気が軽くなった私がいた。


◇夕方五時

 ミアはこれから食事などを済ませ夜に備えて眠るため、今晩の夜世界で落ち合う約束をし、解散となった。 集合場所は昼間と同じ新宿駅。 


 流石に昨日今日、会った仲で泊めてくれとは言えず、私とエルは東京の街を当てもなく彷徨うことになった。

「さて、夜までどこで時間潰そっか。 漫喫とかファミレスとかカラオケあたりがあんまり、お金掛からないかな」

「夜世界のことを考えるなら、少しでも”力”の精度を上げるか出来ることを増やすために、人目のつかないところで魔法の練習でもしておくべきでは? ただでさえ、ミアさんに面倒掛ける立場なんですから」エルがらしくないことを言うので、私はその顔をじっと見つめる。 ただの気まぐれなのか、その無表情からは感情が読み取れない。 

「それは至極真っ当な意見だけど、急にどうしたのよ。 アンタそんなキャラだったっけ....」


<後書き>

前回、すぐ投稿するとか言っておきながら遅くなって申し訳ないです。

次回から新章に入ります。

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