第15話 荒野の国-⑮
塔にぽっかりと空いた穴。
外には階段などなく、では、どうやって春秋とアークはここに直接乗り込めたのか。
答えは簡単である。
二人は空を飛んできたのだ。
千を超える護衛兵団たちは、ものの見事に春秋が蹴散らした。
アークもかなりの兵士を打ち倒したが、それでも春秋のほうが圧倒的だった。
さらに、二人は兵士の一人も殺すことなく戦闘不能に追い込むだけだった。
二人の高い技量だからこそ為し得た偉業である。
兵士たちの山の上から、春秋はブレイズ・ギアを塔に向けた。
今から塔へまっすぐ向かったとして、入り口にサラーサたちがいるとは考えられなかった。
そこで春秋は、平然と「空を飛ぶ」という答えを出した。
異議を挟むアークだが、春秋がその程度で止まるわけもなく。
ひょい、と小脇に抱えられたアーク。逆らう間もなく、春秋はブレイズ・ギアを地面に突き刺して。
二人は、空を飛んだ。
いや、飛んだと言うべきなのか。吹き飛んだと言うべきなのか。
アークは悲鳴を押し殺し、春秋は少し楽しそうな笑顔を浮かべながら。
そして二人は、塔の外壁に激突した。
「二人を殺しなさい、
転生神・ロードの号令に
黒のアシュレイドは先陣を切り、六本の腕を全て振り下ろす。
赤と青の
振り下ろされる剣に対応するべく、アークは
迎撃のために断罪を振り上げようとした瞬間、両者の間に割って入るのは春秋だ。
「ストップだアーク。お前にはサラーサを守って貰いたい」
真紅の炎が、全てを阻む。
『うぉっ!』
たじろく黒のアシュレイド。悠然と炎の中を歩く春秋。
春秋の表情は、先ほどまでとは打って変わって――感情すら感じられない、冷めた表情となっていた。
その表情に、黒のアシュレイドは戦慄する。
黒のアシュレイドにも、ロードの語る春秋の人物像が見事に当てはまった。
世界を壊す、化け物だと。
『お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
『待てアシュレイド! 様子がおかし――』
赤き
けれども遅い。
「お前、グランガ・ゴードンだな?」
『な、な……』
その手に握られし黄金の剣によって、右の三本の腕の全てが切り落とされた。
「思考回路の複製……いや、移植と言った方がいいか。そうだよなぁ。プログラムを汲むより、元の人間を転用すれば反応速度も判断も全部手間が省けるもんなあ?」
その言葉には、僅かに怒気が感じられた。
『ああ、そうだよ! 俺様は煩わしい人間の身体から解き放たれた! 滅びぬ身体! 永遠だ! 俺様は永遠に、最強の身体を手に入れたんだ! ロード様の力で! ああ、ああ、ああ! 全部、全部壊せる愉快なチカ――!?』
「うるせえよ。静かに眠れ」
その瞬間を、誰もが理解出来なかった。
崩れ落ちる黒のアシュレイド――グランガ・ゴードン。
袈裟に両断された
誰も、春秋が剣を振るったことすら視認できなかった。
それも一度ではない。
黒のアシュレイドの頭部は五度に渡って両断されている。
それはつまり、あの一瞬で春秋は六回剣を振るったのだ。
両断された黒のアシュレイドはその機能を停止させる。
それは、グランガ・ゴードンの死を意味していた。
『て、敵性を完全に確認! 排除する!』
『了解。排除、排除するッ!』
声を震わせながら、赤と青の
銀のナイティレイズは一歩出遅れて二体に追従するも、すでに手遅れだった。
「遅いんだよっ!」
恐らく――いや、間違いなく。
赤と青の
春秋は戦いながらそんなことを考える。
それはあまりにも非人道的なことである。
だが春秋は、別にそこに拘っているわけではなかった。
赤い
炎を拳に纏った一撃に、赤い
続けざまに春秋は青の
怯む
逃げだそうと背を向けた
あまりに早く、あまりにも圧倒的で。
瞬く間に三機の
その事実に、アークは息を呑んだ。
アーク自身は勝てない、と理解していた
そして、春秋はまだ底を見せていない。
サラーサの肩を抱く手に力が篭もる。
銀のナイティレイズは正面で剣を構え、春秋を待つ。
それが懸命だと判断したのだろう。
「……お前が、クロードだな?」
ブレイズ・ギアを向けながら、春秋は銀のナイティレイズに問いかけた。
その言葉にサラーサが表情を震わせ、アークは顔を逸らした。
ロードは愉快げに口角を吊り上げて、銀のナイティレイズは、ゆっくりと構えを解いた。
「赤は山羊塚士郎。青は水無月疾風。どちらもロードに担当させた転生者だ」
「はは。さすが春秋さんですね」
親しげに春秋の名を呼ぶロード。その笑顔はどこか思い詰めていて――銀のナイティレイズは、サラーサを一瞥して春秋に視線を向けた。
『そうだ。僕がクロード・レギオンだ』
「っ、兄さ――」
『でも僕は、サラーサの兄を捨てた反逆者だ』
「……っ」
『この身体は、ロードさんが、僕たちの目的を成就するために用意してくれたんだ。黒は……ロードさんの提案で、グランガが』
「適正がありましたからね」
銀のナイティレイズ――クロードの独白に、サラーサは言葉を詰まらせていた。
兄は死んではいなかった。けれど、サラーサの兄であることを捨てていた。
だから、死んだも同然の扱いだった。
護衛兵団たちは事情すら知らず行方不明として。
団長であるアークは、その事実は知っていた。
知ってはいたが、春秋に与した。
それが、彼が出した答えなのだろう。
「わけが、わけがわからないです、兄さん!」
それでもサラーサは
ずっと探していた、幸福な未来を夢見ていた、好きな相手が目の前にいるのだ。
それがもう、人の姿を捨てていたとしても。
サラーサにとって、兄であることに変わりはない。
『……ロードさん。春秋様』
刃を交える直前だというのに、クロードは剣を下ろしたまま言葉を吐く。
それは懇願だった。その言葉に、春秋もロードも黙っている。
『サラーサに、話させてください。僕と、アークと、ロードさんの過去を』
「……ああ、構わないよ」
「話してください、クロードさん」
頷くロードとアーク。そしてクロードの視線は春秋に向けられる。
春秋としても事情は知りたいところだった。
吐いたため息で怒気を流して、頭を冷やす。
「語れクロード。俺が来たからには結果はもう変わらない。だから語れ。お前の懺悔を」
そしてポツポツと、クロードは過去を語り出す。
懺悔と言った春秋は、今も剣を向けている。
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