ー5ー

 精密検査する翌日の午前中に行われた。結果は特に異常は見られなかったのだが、大事を取ってしばらくは療養が必要と診断された。

 退院した直後、小田原が見舞いのため自宅を訪ねに来てくれたので、病院から出されていた診断書を託し、小田原経由で会社に提出されたのだった。


 早速それを聞き付けた沼口と沙耶果のカップルが波那を見舞いにやって来ている。

「まさか発作起こすような病気だと思ってなかったからさぁ」

「ごめんね、迷惑掛けちゃって」

「んなの気にしなくて良いよ、とにかく今はゆっくり休めって」

「そうよ、無理するとかえって長引いちゃうから」

「ありがとう」

 波那は病状を気遣ってくれる二人に笑顔を見せる。二人はあまり疲れさせないようにと長居せずに少しして帰っていった。

 それから少しして、小田原が二十歳の長女アヤを連れて小泉家を訪ねに来る。

「顔色は思ったほど悪くないみたいだね、三人息子を連れるとどうしても騒がしくなるから今日はお留守番」

「それで言伝て預かってるの」

 彼女は大きめのバッグの中から大きめの封筒を手渡してきた。

「開けていい?」

「うん、是非見てやって」

 波那は早速封筒を開けると、大きめの御守りが入っている。着物の端切れを使っていて、中央に『健康祈願』と刺繍文字も施されているなかなかの力作である。恐らく家事仕事の得意な長男マコトの手作りであろう。

「凄いね、上手にできてる」

「『その御守りは中を見た方がご利益がある』らしいよ」

 その言葉に従って中を取り出すと、紙粘土で作られた勾玉と幼児の文字で書かれた短いメッセージが入っていた。

「三人に『ありがとう』って伝えてくれる? 回復したらお礼させて欲しいなぁ」

「そんなの良いよ、これまであの子たちのこと良くしてくれてるんだから」

 小田原は三人息子の言伝てに感激している波那を見て笑う。

「それならそれ持ってる写真撮らせてよ、帰ってあの子たちに見せるから」

 綾の言葉に波那は頷き、写真を撮ってから三人息子の話題に花を咲かせて以来想定以上の回復を見せるようになる。


 それから一週間ほど経ってから毛利が波那を見舞いに小泉家を訪ねに来る。先に病院へ行ったそうなのだが、既に退院したと教えられてケータイで連絡を取った際、代わりに出た母が自宅の住所を教えたそうだ。

「具合どう? 波那ちゃん」

「もう平気だよ、しばらく仕事は休まなきゃいけないけど。ありがとう、あの時助けてくれたんだってね」

 波那はそう言って微笑んだが、毛利の表情は冴えず自業自得だからと言った。

「元はと言えば僕のせいだからお礼なんて良いよ。あの男たちを引き入れたの僕だから」

「えっ?」

 その言葉に絶句した波那は、毛利の綺麗な顔を見る。

「僕嫉妬してたんだよ、波那ちゃんに。畠中が心変わりしたのを君のせいにしちゃったんだよね。今思えば単なる八つ当たりなんだけど、彼とは知り合ってそこそこ長いから行動とか癖である程度考えてることが分かると言うか。それであいつらそそのかしてイタズラさせちゃったがばっかりにこんなことになって、正直パニックになりそうだったんだ」

「それなら普通何もできなくない? それか逃げちゃうと思うんだけど」

「多分職業病だよ、僕昔看護師だったから。ああ言った状況の免疫は変に付いてて逃げ出す方が勇気要るよ。身分証明するものを探すのに鞄漁って薬見た時はホント焦った、あんなことするんじゃなかったって」

 ゴメンね波那ちゃん。申し訳なさそうに謝る毛利を波那はじっと見つめていた。あの男たちが彼の差し金だったのはショックだったが、今こうして無事でいられることを考えると感謝の気持ちの方が勝っていた。

「ちょっとショックなのはあるけど、それでも翼君がいなかったら助からなかった可能性もあったから。ありがとう、感謝してる」

「あんなの体が勝手に動いたようなもんだから。悪いことしたと思ってる」

 毛利は笑顔を見せる波那の顔をまともに見ることができず下を向く。少しして彼は帰っていったのだが、この事がきっかけで二人は本当の意味で親しい友人同士となった。


 実はその頃、畠中も見舞いのつもりで小泉家の前までやって来ていた。手土産まで持参しているのにインターフォンが押せず、一人外で右往左往していた。そこへ仕事を終えて帰宅してきた麗未にその様子を見られてしまい、訪ね先を間違えた振りをしてその場から逃げ出してしまう。

「何だあれ?」

 そこそこのイケメンの奇行に変な顔をしたが、今度見掛けたらシバけば良いと深追いはせずに家の中に入った。

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