ー4ー
週末、波那は運動が出来ない代わりに一人で散歩に出掛け、休憩で立ち寄った公園のベンチに腰掛けて本を読み始める。
「こんにちは」
突然知らない声に話し掛けられた波那は、困惑しながらもこんにちはと挨拶を返す。しかし思い出すのに時間を要しただけで、先日ママ友の子供に手当てをしてくれた美青年と分かったのでホッとした笑顔を見せた。
「あっ、あの時の……」
「うん。
美青年こと毛利翼は綺麗な顔でにこやかな表情を見せ、波那は少し端に寄って場所を空けてどうぞと勧めた。
「ありがとう、今日は一人なの?」
毛利は静かに波那の隣に腰掛けた。
「えぇ、子供の面倒を看るのはごくたまになんです」
波那は彼が畠中の知り合いであるためか少しばかり緊張していた。しかし実際に話をしてみるととても人懐こい男性で、気付けば二人はすっかり仲良くなっていた。
それから何日かが経った仕事帰りに偶然電車の中で毛利と鉢合わせた波那は、途中下車して彼の行きつけだと言うゲイの社交場に誘われた。誘われるままその店に入ってしばらくすると、毛利はケータイが鳴ったのでその流れで部屋から出て行った。波那はそのまま待っていたが、入れ替わるように知らない男三人が入ってきていきなり押し倒されてしまった。までははっきり覚えているのだが、次に意識を取り戻した時は既に病院のベッドの上だった。
「……」
波那が目を覚ますと、早苗と麗未が心配そうに見つめている。どうやら思わぬ事態を招いてしまったようで、見舞ってくれている二人に申し訳無い気持ちで一杯になってごめんなさいとかすれた声で謝った。
「どうして謝るの? 無事で何よりじゃない」
母と姉は波那を安心させるかのようにそっと手を握ってくれる。
「気分はどう? 苦しくない?」
「大丈夫。それより毛利君は?」
「彼ならさっき帰ったわ、応急処置がとても良かったそうよ」
「そっか……後でちゃんとお礼、言わないと」
彼に迷惑掛けちゃったんだ……事の経緯を覚えていない波那はただただ毛利に感謝していた。
「そうだね、ただあの子ずっと謝ってたよ?」
麗未の言葉に波那もどうしてだろう? と考えていたのだが、今はとにかく休みなさいと早苗にたしなめられた彼は、そのまま朝までぐっすりと眠ったのだった。
翌朝目を覚ますと早苗も麗未も病室残ってくれていた。昨夜は気付かなかったのだが、普段からお世話になっているおじいちゃん医師が回診に来てくれたことでようやく通い慣れている病院であることに気付く。
「おはよう波那ちゃん、気分はどう?」
先生はいつも通り優しく話し掛けてくれる。
「おはようございます……」
波那は体を起こそうとしたのだが、まだ動かない方が良いよと止められる。先生は母と姉とも挨拶を交わし、再度波那の顔を見た。
「波那ちゃん、発作を起こした以上検査入院をしてもらうよ、今日から三日間ね。でも最長記録じゃない、七年発作起こしてなかったんだよ」
「そうですか、随分と久し振りなことで私の方が慌ててしまいました」
「それだけ開けば無理も無いよ早苗ちゃん、それだけ波那ちゃんが病気と上手く付き合えるようになってきている証拠だから。これも一つの成長ですよ」
先生はそう言って別の回診もあるために病室をあとにした。それに付いていた看護師の一人がそのまま残り、早苗に入院の手続きの書類を手渡した。彼女はすっかり慣れた様子でそれを書き上げると、着替えを持ってくると麗未と共に一旦自宅に戻っていった。
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