ー2ー

 休日、波那はお見合いにかまけていたのを取り返すかのように母に代わって家事を担当する。

「無理しなくて良いからね」

 早苗は先日熱を出したこともあって少々心配そうにしていたが、それでも息子の優しさを嬉しく思っていた。それから午後三時頃、親友の丞尉が恋人の愛梨を連れて遊びにやって来た。

「いらっしゃい、ちょうどお茶にしようと思ってたところなんだ」

 波那は客用のティーカップとお菓子を二人分追加で用意する。愛梨は彼の家事仕事振りを初めて見るので、あまりの手際の良さに一人感心しきりだった。

「凄いね波那ちゃん、どうしてそんなに家事が出来るの? お弁当だっていつも美味しいし……」

「子供の頃から母の真似ばかりしてたから、だと思う。今じゃストレス発散法だよ」

 二人がそんな話をしている間、丞尉は早苗に愛梨を家族に紹介したことを報告していた。

「そう、順調みたいね」

「はい、お陰様で。ちょうど良いから、俺たちを引き合わせてくれた波那にも報告しようかと思いまして。彼女波那と同じ会社に勤めているんです」

「そうだったの? 本人の婚活は前途多難だけどね」

「う~ん、波那ってモテるんですけどちょっと種類が違うようで……」

 ダイニングテーブルでくつろぎ始めた二人の元に、波那と愛梨が四人分のお菓子と紅茶を運ぶ。四人は仲良くティータイムを楽しんでおり、仲睦まじくしている友人カップルを見ているとこちらまで幸せになってくる。

 ところがこの場で愛梨が全く家事ができないと言う事実が明かされ、丞尉は自身で家事をこなせるとは言え彼女の部屋の汚さには参っているらしい。

「家に行ったは良いけど、丸一日部屋の掃除をしなきゃいけないのはさすがに……」

「だから最初に『散らかってるから見ない方がいい』って言ったじゃない」

 いささか空気が怪しくなってきて、隣同士に座っている二人は向き合って口論を始めてしまいそうになる。

「そうだけどさぁ、隠してたところでいずれバレることじゃないか」

「でも女性だから家事ができなきゃいけない法律がある訳でもないじゃない」

 波那は自身が家事仕事を引き受けたい考えなので、愛梨宅のゴミ屋敷振りなど全く気にならなかった。しかし証券取引所で神経の遣う仕事をしている丞尉からすると、両方家事が出来るに越したことは無いという考えの様だ。

「そこでおばさんにお願いがあって、愛梨に家事ができるよう仕込んでやって欲しいんです。俺だと角が立っちゃうだろうし、波那だと甘やかしそうだから」

「そんなのわざわざ仕込むものじゃないわよ。それより、二人とも時間は大丈夫なの?」

 早苗は二人に了承を取ると、早速今から料理を作るよう愛梨に命じた。彼女の冷蔵庫を覗き込んでニンマリと笑う。

「取り敢えずホワイトソースから作るシチューでも作ってみたら? 材料は全部揃ってるし、レシピならこれ読んで」

 早苗は愛梨にアイロンをかけたばかりのエプロンとお料理本を手渡した。愛梨はまさかここで苦手なことをさせられるとは思っておらず、始める前から尻込みしてしまっている。

「何が起きても知りませんよ」

「怪我と火事にさえ気を付けてもらえば大丈夫よ」

 早苗は材料をテーブルに並べると、手伝おうとする波那の手を引いてリビングへと移動する。

「何かあったら呼んでちょうだい」

「は、はぁ……」

 愛梨は仕方無く上着を脱いで手を洗う。恋人の丞尉は料理本を広げて目を通すと、大丈夫だよと笑顔を見せる。

「そんな呑気そうなこと言ってぇ……」

「文字が読めれば問題無いって、ゆっくりやれば良いよ」

 彼もキッチンから出て行ってしまい、まずはレシピを必死に読みながら量って使用する材料を全て準備する。それから慣れない手つきで包丁を使い、食材の下ごしらえを始めたのだった。

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