告白編
ー1ー
翌日の昼、波那は久し振りに昼食を外で過ごすことにする。場所は会社近くの大衆食堂で、ここはサラリーマンたちに『安くて美味い』と評判の店だった。ここは初老の女性五人で切り盛りしている小ぢんまりとした店構えなのだが、その中の色白で可愛い看板娘がオジサマたちに大人気なのである。
この日波那はたまに出会う
彼は以前外回りをしていた時に、炎天下が響いて倒れた波那を助けた。回復してから手土産を持って職場へお礼を言いに行ったのが縁で親しくなり、以来同僚のドライバーさん共々出会えば何かと親切にしてくれる気の良い人たちだ。
波那が入店して日替わり定食を注文した僅かな時間で一気に客足が増え、二人席を一人で使っている彼は相席をお願いされる。彼は向かいの席に置いていた上着と鞄を退けると、そこに案内されたのは畠中だった。
何だか気まずいなぁ……波那は彼のことがすっかり苦手になっており、下手に同じ職場なだけに無視も出来ない。
「お疲れ様です……」
挨拶だけはしておこう。波那はそれだけ言うと、他に話すことも無くてあとは下を向いてだんまりを決め込んだ。
「あぁ」
畠中は返答こそ手短だったが、そのくせ顔はしっかりと見つめていた。
「昨日のあいつ、パートナーとかじゃねぇから」
彼は何故か言い訳がましいことを言って向かいにいる同僚の反応を見る。しかし波那からしてみれば正直どうでも良いことなので返事に困る。
「そう、ですか……」
その反応の薄さを少々気に入らなさそうにしていたが、テーブルの端にあるメニューを手に取って何を食べようか思案する。それから程なく波那が注文した日替わり定食が運ばれてきて、それを良いことに一切向かいの男性を見ずに食事に集中する。
波那がほぼ食事を摂り終えた頃に畠中が注文したカレイ煮込み定食が運ばれてくる。彼はサラダに入っていた人参の細切りを綺麗によけてから食事を開始した。
案外子供っぽいことするんだな……波那は皿の端に寄せてある人参と畠中を見て笑ってしまいそうになるが、最後に残っている味噌汁をすすって敢えて見ないよう努めていた。
「波那ちゃんじゃねえか、久し振りだな」
そこへ待ちに待った田村が同僚の男性三人と共に来店してきた。彼らは隣のテーブルに落ち着き、食事を終えた波那はプレゼントを手渡しに行く。
「しばらく振りです。お誕生日、確か日曜日ですよね?」
「毎年ありがとな、こんな美味いの毎年タダで頂いちまってさ」
彼は波那の作るお菓子のファンで、昨年はついに娘用にケーキを作ってほしいと材料費を持ってリクエストしてくるほどだった。
「今年は僕にもお願いしても良いですか? 誕生日再来月なんです」
「良いですよ、こんなので宜しければいつでもお作りします」
田村の同僚の中で一番若い
「お前結構厚かましいなぁ」
「だって田村さんばっかりずるいじゃないですか」
「何言ってんだ、いっつもお裾分け貰ってんじゃないか」
その言葉に一同笑い出し、会話は弾んでいたのだが、店内は更にもうひと混みありそうなのでドライバーたちに挨拶をして店を出る。彼らが波那に別れを告げて自分たちの話題に集中しはじめてから、畠中は顔を上げて波那の残像を追い掛けるように振り返った。
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