ー10ー

 先ずは友人としてお付き合いをスタートさせた二人、沙耶果は非常に賢い女性で話も面白い。一方彼女もこれまでに出会ってきた男性には無かったソフトで優しい波那に好意を持っていた。しかしお互いにそれ以上の感情が持てず、一度友人を交えてのグループデートをしてみることにした。

 波那は沼口を誘い、沙耶果は薬剤師の女性を連れてくる。ここでも思わぬ化学反応が起こり、今度は沼口と沙耶果という新たな美男美女のカップルが誕生した。

 結果波那の婚活はまたしても失敗に終わったのだが、よく考えてみると自身の執り成しで二組のカップルが成立している。

「これって案外幸せなことだよね」

 波那の気持ちはすっきりと切り替わっており、これまでのように落ち込んでいなかった。


 ある休日、長姉千景の二歳の末っ子の子守りを任された波那は近所の公園でいつものようにママ友たちと楽しいひとときを過ごしていた。

 するとそこに美男子二人組がフラリと現れて、一人は水商売風の中性的な美青年、もう一人は畠中だった。美青年は彼になついており、二人はどう見てもゲイカップルにしか見えなかった。あの人ゲイなんだ……波那はそう思って二人組を見たが、親しい付き合いをしていないのでそっとしておくことにする。

 しかしこんな時に限って、ママ友の子供がボールは拾いに行った際に二人の前で転んでしまう。意外にも畠中は普段間違いなく見せない優しい表情でその子を抱き起こし、水道で手足を洗ってやっていた。一緒にいた美青年も子供の扱いに慣れている様子で、手際良く手当てを施していた。

 この人たち子供好きなんだ……波那は二人組の心優しい行動に思わず見とれてしまうが、ハッと我に返って慌てて駆け寄り、すみませんと声を掛けた。二人はその声に気付き、畠中は彼を見て少々嫌そうな顔をする。

「あんたの子か?」

「いえ、一緒にいる方のお子さんです」

 波那もやりにくそうにしていると、今度は美青年の方が話し掛けてきた。

「ちなみにどの人?」

「あのグループです」

 波那はママ友たちの居るベンチを指差した。

「話に夢中だね、君が来てくれなかったら名前聞いて探すところだったよ」

「ごめんなさい、目を離してしまって。それより……」

 波那は彼の手当てが素晴らしかったので、どこで習ったのかを訊ねたかったのだが、皆の輪から離れてしまっている叔父を追い掛けてきた甥っ子が、波那ーっ! と駆け寄ってくる。

「この子は?」

「姉の子です」

「波那ぁ、みんなまってるよぉ」

 彼は波那の隣に立って大人たちを見上げていた。

「ご迷惑おかけしました。それと手当て、ありがとうございます」

「そんなの良いよ、公園は遊ぶ所なんだから」

 美青年は可愛らしい笑顔を見せ、この様子だとあまり気にしていない風だった。畠中も子供のことは気にしていないみたいなのだが、大人の不注意は気になるらしい。

「目ぇ離すなって親に言っとけ」

 彼はそれだけ言うと一人さっさと公園を出て行ってしまう。

「え? 今来たとこじゃん。お大事にね」

 美青年は転んだ子の頭を優しく撫でてから、畠中を追い掛けて公園を後にした。

 すっかり嫌われたものだ……波那はなぜだか悲しい気持ちになって二人の背中を見送ってから、子供たちを連れてママ友たちのいるベンチに戻った。

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