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 営業一課から社員が一人転勤していった翌週の月曜日、先日話題にのぼっていた中途採用の若い男性が入社してくる。彼は俳優張りに美しい顔立ちのいわゆるイケメンというやつで、身長も高くスタイルも抜群に良かった。

「今日からここで働く事になった畠中星哉ハタナカセイヤ君だ」

 宜しく頼むよ。課長の松村尚人マツムラナオトが隣で立っている彼に声を掛けたが、緊張しているのか単に無愛想なだけなのか、特に何の言葉も発する事なく軽く会釈をするだけだった。

「畠中君は前の職場でも営業をしていたそうだから、即戦力として仕事をしてもらうよ」

「はい」

 とここでようやく素っ気ない返事をする。コイツ大丈夫か? この時点では誰もがそう思ったのだが、この彼、二十五歳と若いながらも仕事をさせてみると飲み込みも早く、前任の引き継ぎもそつなくこなしている。

 結構優秀だな……特に総合職社員たちは早くも一課の一員として接していたが、当人は横の繋がりを好まないのか微妙に壁を作っている。

 そんな中で波那だけは彼に対して違うところが気になっていた。入社早々の挨拶の時、何となく視線を感じてその方向を見ると畠中と一瞬だけ目が合った。たまたまかな? そう思って軽く会釈をしてみたが、何故か顔を逸らされてしまい、その後一切こちらを見てくれなくなる。

 え? 何もしてないのに……一方的に嫌われたような気持ちになって少し悲しくなったのだが、そのことよりも畠中の黒目がちで艶やかな輝きを持つ瞳が強烈に印象に残って頭から離れなかった。

 この日の帰り、波那は本来苦手なはずのコーヒーゼリーを食べてみたい衝動にかられ、自宅最寄り駅近くの洋菓子店で買い求めてから家路に着いた。


 それから約一週間ほどが経過し、仕事的には優秀な畠中に一人で外回りをさせてみることになった。ここでもそつなく業務をこなすのだが、スタンドプレーなところがあって報連相をきちんとしない。

 これは課長の松村と代行の小田原にしか知らされていないのだが、畠中は以前勤めていた会社で億単位の金が動く大仕事を引き寄せたそうなのだが、同性愛者であることが明るみに出て以来不当な扱いを受けるようになったそうだ。

「それだけのことで手の平変えるでしょうか?」

 小田原は畠中の仕事振りを注意深く観察している。松村も気になっている様子で、二人がちょっとした懸念を抱えていた矢先に営業顧客からのクレームが付いてしまった。


 その尻拭いには波那が抜擢される。早速自社製の贈答品を持って謝罪に向かうと、顧客である女性はある程度怒ってはいたのだが、感情に任せてわめき散らすようなことはしなかった。彼はひとしきり謝罪をして、担当者を始めとした営業職社員の今後の指導、育成のため詳しい経緯を聞かせてほしいと願い出る。

 すると、今思えば結果主義的な売り方をされたと言い出し、客を招く機会が多いので最新型のコーヒーマシーンを買ったは良いが、いざ使ってみるとサイズが大きすぎて使いづらいのと、話に聞いていた以上に操作が難しすぎるのとでにっちもさっちもいかなくなってしまったそうだ。

 波那はその後キッチンに招かれ、コーヒーマシーンの取り扱いの説明を求められる。彼は多少の時間を要しても懇切丁寧に操作方法の説明をすると、記憶の有無は別としても初めて聞いた内容もあったようで、妙に感心されて少しずつ態度も懐柔してきた。

 ここまでの話の流れで感じたのは、女性が使うには大きすぎる印象を受けたので、サイズを小型な物に替えて差額分はポーションを補填する妥協案を提案してみる。その際課長に連絡を入れて差額返金の用意も選択肢に入れる案も準備しておく。

 女性が悩んでいる間、波那は見事に手入れされている庭の美しさに見とれてしまい、家の主人に気付かれて慌てるも、二人は庭に興味を示したことが嬉しかったようで事態は一気に好転する。彼のこれまでの応対が実を結ぶ形となり、最初に提案した妥協案で納得してくれた。

 帰る頃にはすっかり上品なご婦人に変わった女性はわざわざ見送りまでして、クレーム処理で行ったのにほっこりした気分で一日を過ごす事が出来た。

 翌日、沼口と共に女性宅を訪ねて機械の取り替えを行い、補填分のポーションと一緒に社長の配慮で発売前の新商品も手渡して帰社する。これが案外喜ばれ、後日一課宛に感謝状が送られてきた。

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